micro:bit プログラミングとこれからのプログラミング教育(第5回)
中学校で教諭(理科担当)をされてきた望月陽一郎 先生に、「教育とICTを学校現場でどのように実践されてきたのか」について、お話を伺っています。今回は連載・最終回ということで、片岡が気になっていたこと、プログラミング教育やmicro:bit等のまとめを兼ねた内容を中心にお聴きしたいと思います。
【望月陽一郎先生・略歴】
短期大学非常勤講師。元中学校教諭(理科担当)。大分県教育センター情報教育推進担当主事、指導主事、大分県主幹等を経験されています。
〇人的ネットワークがない時について
-望月先生が11月に講師をされた関西EDIXでは、無線LANで有名なBUFFALOのコーナーで講師をされていましたよね。教育委員会など様々な方々がmicro:bitプログラミングに感心をもたれていたとのこと。望月先生のご講演は記事にもなっていましたね。
▼プログラミング、英会話。新しい学習に向けた無線LAM環境を提案──安定した無線LAN環境整備を── 第2回 EDIX関西レポート
http://topics.buffalo.jp/?p=1948
望月先生は大分県から全国に向けてICTの取り組みを発信されています。そこでお尋ねしたいのですが、地方でICTに取り組んでいるものの、周りに仲間や見本になりそうな人がいなくて困られている先生が、どうやって望月先生のように基盤を作って現場で活躍する事ができるのか知りたいです。
首都圏だと勉強会やイベントが多いかと思います。しかし、地方在住の先生方の場合、ひとりで頑張られていたり、周りに望月先生のような実績がある先生がいなかったりして困られているのかなと感じた次第です。
望月先生:私も中学校現場は部活動などもあり忙しく、勉強会とかイベントにはずっと無縁でした。県の教育センターに異動した際、「ここは学校の先生方から訊かれるところで、ここから上に訊くところはないから、自分で勉強しなさい」と言われて、自分でいろいろ調べて勉強してきました。今回サンプルプログラミング集を作った時も、先生方向けの研修で使うテキストや学校向けの「情報モラル教育の手引き」を作ってきたこれまでの経験を活かしたものです。
-ご自分でここまでのものを作り上げられてきたのですね。本当に凄いことだと思います。望月先生のように自力でなんとかなる先生は良いのですが、経験が浅い、ネットワークが全然ないなどで、自力でなんとかできなそう場合は、何か打開策はないのでしょうか?
望月先生:私の若い頃は、教員の半分が20〜30代前半の若い教員だらけでした。ネットもありませんでした。だから、テレビを見たり、帰りに本屋に寄ったり(日課でした)していました。「経験が少ないことやネットワークがないこと」と、「自力で授業を工夫すること」は別物だと思います。最近は私の若いころと比較すると情報収集が簡単なので、ずいぶん楽になりました。
-「『経験が少ないことやネットワークがないこと』と、『自力で授業を工夫すること』は別物」という言葉に重みを感じます。今はインターネットで検索すれば、望月先生をはじめとする日本中の先生方の実践を知ることができます。異業種の人のアイディを取り込むこともできます。
micro:bitやスクラッチ等、インターネット経由で世界中の教育関連・プログラミングツールを利用することもできる点も昔にくらべればずいぶん可能性がひろがりましたね。
〇無線LANとICT活用の関係性について
-普通教室でのネットワーク環境もWi-Fiを使えるようになりましたし、ずいぶんICT機器を活用しやすくなったなと思います。一昔前はPCルームの床に有線LANのケーブルを這わせて実習するのが当たり前でしたから。
関西EDIXで望月先生は、「Wi-Fiは必須である」とお話しされていましたね。
「micro:bit」では、インターネットにつながったブラウザ上で動作するウェブアプリケーションを使って、プログラミングを行います。こうしたウェブアプリケーションや、普通教室でのタブレット学習の増加に対応するためにも、「Wi-Fiは必須である」と望月先生。小学校でのプログラミング教育の実施に向けて、安定した無線LAN環境整備の必要性が語られました。
※http://topics.buffalo.jp/?p=1948 より引用
無線LANとICT活用の関連性について、もう少し詳しく教えていただけますか。
望月先生:コンピュータ室や普通教室に有線LANが来ていれば、ICT活用はいろいろできますが、「無線LAN」の一番のメリットは「物理的な自由度」です。
先生が無線LANでつながったタブレットを持って授業すれば、教室の中を自由に動きながら授業ができます。子供たちが持っているタブレットやノートパソコンが無線LANでつながるのであれば、教室に持って行って配るだけですぐに使えます。micro:bitをプログラミングするときもインターネットにつながってブラウザにアクセスする必要があるので。
-普通教室でWi-Fiが使える場合と使えない場合では授業内容にも結構な差が出る気がしました。 使えない場合でも、望月先生の過去のインタビューを参考にアンプラグドなプログラミング教育(注)でやればよいと思うのですが、Wi-Fiが授業に与えるメリット、デメリットをインタビューで整理できたら現場の役立つかもしれないと思い、ご質問しました。
(注)アンプラグドなプログラミング教育:コンピュータを用いずに行う「プログラミング的思考」を育成する指導
望月先生:メリットについては先に話しましたので、デメリットについて。それはセキュリティ面です。いろいろな場所でWi-Fi検索をするとたくさんの接続先が出てくるのはみなさん知っていると思いますが、その中でセキュリティ(パスワード)がかかっているものとかかっていないものがわかります。
セキュリティがかかっていないものは自由にネットワーク接続できてしまうので、学校外の人物からネットワークに侵入できてしまうことになるのです。もちろんセキュリティ設定していると思いますし、子供たちが使うネットワークと先生方が使うネットワーク(個人情報を扱う)を分けているところがほとんどだと思います。
〇プログラミングが苦手な場合について
-関西EDIXでは、「プログラミング教材を使用する場合の教材の種類や選び方、「まねる」「変える」「創る」という3段階でプログラミングへ取り組む方法」についてもご説明なさったとのこと。
2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されます。中にはプログラミングに苦手意識がある先生もいらっしゃるかと思います。望月先生がプログラミングをする時、意識していることはありますか。
望月先生:自分自身がプログラムするとき意識しているのは、
- プログラムは、小さなプログラムの「組み合わせ」である ということです。
だから、「どれだけ小さなプログラムを持っているか」で、いろいろな組み合わせができるかできないかが決まると思っています。子供たちにもよく話すことですね。
-小さなプログラムの「組み合わせ」である点を意識すると良いのですね。たしかに望月先生がこの連載で紹介されたサンプルプログラミング集からも「小さなプログラム」を組みあわせることで、なるべく容易かつ汎用性を高めようとされているご様子が伝わってきます。
望月先生:たとえば、サンプルプログラミング集の001「温度を表示する」002「明るさを表示する」は、「ずっと表示する」プログラムなので、ボタンで温度を表示するプログラムを作ってみたのが、003「ボタンで温度を表示する」になります。
これを応用すれば、
- ずっと動作させる
- きっかけ(ボタン)で動作させる
という、2パターンを作ることができるようになります。
サンプルプログラムは、複雑なものでなく、部品(パーツ)レベルを入れて、実際に自分で工夫するときにはこれらを組み合わせていく。自分自身がプログラムを作るときの流れをそのまま表現しています。
-先生のようにパーツの組み合わせを意識すると、拡張しやすくていいですね。たとえば、望月先生のサンプルプログラミング集をもとに、他の先生方がカスタマイズしやすいメリットも感じました。
望月先生:現在micro:bit「サンプルプログラミング集」を使って授業アイデア・実践をフィードバックしてもらう企画をFacebook上で展開しています。もう全国の100人以上の方が参加していただいていますが、そこからフィードバックしていただいたものをサンプルプログラミング集に追加して、「サンプルプログラム」+「授業アイデア・実践」集にバージョンアップしたいと考えています。
○まとめ
今回は最終回と言うことで、当ブログ管理人・片岡が気になっていた
- ICTについて相談できる仲間・メンターがいない時、どうしたらよいのか
- 普通教室の無線LANの有無とICT活用の関連性
- プログラミングに苦手意識がある場合、何を意識すれば良いのか
を中心にお尋ねしました。少しでも教育現場の先生方のご参考になる部分がありましたら幸いです。
そして、12/27に大分市情報学習センターで、小学校の先生方・一般の方向けの小学校プログラミング教育に関する講座の講師をされるそうです。
▼大分市情報学習センター 小学校教員対象プログラミング体験教室(2018/12/27)
https://www.facebook.com/events/485316195205339/
2018年は残りわずかです。2020年からの小学校プログラミング教育必修化に向けて、お忙しい中でお話しくださった望月先生、最後まで読んでくださったみなさま、大変ありがとうございました。
少し早いですが、みなさま良いおとしをお迎えくださいね。2019年もよろしくお願いいたします。