【書評】田中淳子『「上司はツラいよ」なんて言わせない』 ー「部下の指導」に困ったときの辞書代わりにー
管理職は周りの人材を輝かせるのが仕事。なのに、理想と現実のギャップがあるときにモヤモヤしませんか。当オルタナティブ・ブログでもおなじみ! 人材育成のプロフェッショナル・田中淳子さんが、『「上司はツラいよ」なんて言わせない』(アイティメディア株式会社)を出版されました。
部下指導に迷われている方、もっと良い人材育成方法を知りたい方に向けて、田中さんが21のアドバイスをしています。
著者:田中淳子
書名:「上司はツラいよ」なんて言わせない
アイティメディア株式会社 2015-09-11
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
何故、この本を紹介したくなったのかといいますと、私が初めて後輩指導をした際に「●●さんは生意気なんっすよ」と言われて戸惑ったからです。指導の目標は「後輩が自分で仕事の問題点に気がつき、改善できる」こと。はたして、私はどうしたら良いのか・・・。
一回りくらい年下、かつ新人の後輩に「生意気」と言われてしまった。何かこちらの指導に至らない点があったようだ。それとも、見た目の印象でなめられてしまったのか。初っぱなから後輩指導の難しさに直面しました。
先輩方に相談をして乗り切ったものの、なんとも釈然としません。「部下の指導」についてきちんと学びたい、と思うようになりました。
この本には、「 "オマエの態度、面白くないんだよ"――年上部下にこう思われてしまったら」「叱り方が分からない上司、それってアリ?」「感情のコントロールは大人のたしなみ」など、「あるある! 」という事例がたくさん紹介されています。ぜひ皆さまにもお伝えしたいと考えた次第です。
本書の概要
田中さんは「組織が目標を達成し、成長し続けるために部下の育成が欠かせない。しかし、現代は放っておいても部下が育つ時代ではないから、上司が積極的に"育成に関わる"ことが求められる(前掲書 p.631/1088)」と書いています。
部下に言いにくいことを言わないといけないとき、あなたならどうしますか。部下がやる気をなくす声かけをしていませんか?
この本は以下のような悩みがある方に、特に参考になると思います。
- 管理職に昇格。初めて部下を持ったけれども、指導方法がわからない。
- チームが思ったようにまわらない。
- まっとうなことで部下に注意したのに、パワーハラスメントと間違われてしまった。
- 部下に任せるより、自分一人で頑張った方がうまくいく。
この本を読めば「じゃあ、どうすればいいの」という部下指導法のコツが二時間くらいでわかります。言葉に著者の熱意・愛情がこもっています。「上司になるってツラい・・・」と感じている管理職の人も、きっと勇気が湧いてくると思います。
長年、人材育成に関わってきた田中さんが実体験にもとづいて、キャリアデザインの専門的なことまで解説しています。やさしい言葉遣いですし、ユーモアがある語り口です。大変読みやすいですよ。
講習会に参加すると時間が拘束されます。しかし、この本はKindleアプリや端末で詠むことができます。通勤中など隙間時間に読み進められるのもメリットです。
本書で紹介されている事例
- 叱り方が分からない上司、それってアリ?
- 意外とあるある? 話を"聞けない"上司に贈る3つのコツ
- 「いいからやれ!」が通じない時代、上司に必要とされるスキルとは?
- 「断られそうで誘えない」――"部下とのノミュニケーション"は死語なのか?
- "オマエの態度、面白くないんだよ"――年上部下にこう思われてしまったら
- 女性社員へのその配慮、実は"余計なお世話"です
- 部下に話しかけるのも上司の"仕事"――あなたはできていますか?
- "尊敬され続ける上司"であるために必要なこと
- "褒められてこなかったオレたち"は部下を褒められないのか?
- 部下が"聞きたくない"話、うまく伝えられますか?
- なんだかオレの輝きが薄れていく......? 管理職1年生が陥る病
- "感情のコントロール"は、大人のたしなみ
- 部下が"やる気をなくす"ハッパのかけ方
- 上司の背中を見たら人は育つのか?
- 部下に嫌われない"俺ルール" "私ルール"の使い方
- "これってパワハラ?" そんな恐怖に負けない上司になるために
- あなたは"マネージャとしての自分"を愛せるか
- 部下から「何のために働いているのですか」と聞かれて答えに詰まったら
- 上司よ、内弁慶をやめ、街へ出よう
- チームが「思ったように回らない」時の対処法
- "経験と理論"がつながったとき、"脱ツラい上司"への道が見えてくる
各項目の冒頭に、「どうしてこういう悩みが起きるんだろう? 」「どうしてうまくいく場合といかない場合があるのだろう? 」と問題提起があります。「なぜ、こうなってしまうのだろう?」を頭に置いて読み進めることができるので、「じゃあ、どうすればいいのかな? 」と自分なりに考えて読み進めることができます。
本書から学んだこと
「9."褒められてこなかったオレたち"は部下を褒められないのか?」は、特にこころに残る事例でした。田中さんは「育て方、接し方のパターンは自分の経験をもとに構築されるため、たいていの場合は上司の場合と同じ育て方になりやすい(前掲書 p.452/1088)」と書かれています。
「部下を誉めると良い」というアドバイスをしばしば耳にします。しかし、自分が誉められた経験がないのに部下を誉めようとしても褒め方がわからない、と悩む上司は実際にいらっしゃると思います。
私も以前、勤めた会社でそのような上司に遭遇し、戸惑ったことがあります。仕事で失敗すると大声でまわりに聞えるように注意されるのに対して、仕事がうまくできた時に誉められなかったからです。自分の全てが駄目なんだろうか・・・と深く悩みました。上司に他意がなくても、部下に誤解されてしまうのはもったいないし、残念なことです。
田中さんは
コーチングなどでよく使われる"承認"という言葉がある。これは褒めるというよりももっと幅広く「相手のいうこと、すること」や「相手の存在そのもの」を認めることを指し、「結果だけでなくプロセスについて言葉で指導する」ことも含まれる(前掲書 p.462/1088)。
とアドバイスされていました。
部下に効く「承認」のひとことの例については、前掲書 p.476/1088に紹介されています。私見ですが田中さんがオススメした言葉をそのままいうだけでなく、相手の存在を認めているという気持ちを込めることも大事ではないかと考えています。
仕事の目的をうまく達成することが第一。上司がうまく後輩指導できないと感じてる様子に気がついたら、部下も後輩指導を学んでおくと良いのではないでしょうか。
まとめ
昭和の時代だと、「俺は上司の背中を見て育ったのだから」「いちいち指導されないとできないなんて駄目すぎ」「長時間労働は当たり前」でした。モーレツ社員として頑張れば、日本的経営、年功序列制の支えによって報われていました。
しかし、平成の時代にはインターネットが普及し、経済はグローバル化。終身雇用制は崩壊し、自分のキャリアは自分で守っていかなければなりません。自分が体験してきた上司との関係性、部下育成方法が現在の状況と噛み合わなくなってきました。
「部下に気を遣ったはずなのに、パワーハラスメントに間違われた」場合、ちょっとし指示を出すのも消極的になってしまいがちです。「女性だから・・・」と男性社員に較べて作業を軽減したり、会話で気を使ったつもりでも逆効果になる事もあります。
管理職になったとき、余裕がない中、部下の指導方法をさぐっていくと莫大な時間がかかります。しかし、豊富な指導経験がある著者のノウハウを短時間で知ることができるのがこの本の魅力です。『「上司はツラいよ」なんて言わせない』はKindle本です。Kindleの目次機能を利用すれば、困ったときの辞書代わりにできます。
この本を読み終えて最も感じたことは、上司と部下の関係に限らず「相手の存在を尊重・承認する」ことが非常に大切だよなあ、という点でした。皆さまのご参考になりましたら、うれしいです。
今回、紹介した書籍
著者:田中淳子
書名:「上司はツラいよ」なんて言わせない
アイティメディア株式会社 2015-09-11
※上記書籍のリンクURLはAmazonアソシエイトのリンクを使用しています。
※本書は2014年7月~2015年6月に誠 Biz.IDおよびITmedia エンタープライズで連載された記事を加筆修正して電子書籍化したものです。税抜き価格は300円(一部ストアを除く)とのことです。
編集履歴:2023.9.24 7:43 題名に【書評】を追加しました。題名の~をーに改めました。