【書評】望月実 花房幸範 三木孝則『ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』(PR)
ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略
『ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』は、実績を上げているグローバル企業と日本の企業の歴史や価値観、決算書などを比較・分析している本です。
【本の構成】
- 第1章 AT&T VS ソフトバンク
- 第2章 ナイキVSアシックス
- 第3章 ウォルマートVSイオン
- 第4章 イケア VS ニトリ
- 第5章 バークシャー・ハザウェイVSライフネット生命
参考:望月実・花房幸範・三木孝則『ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』
本書の題名に「ビジネスモデル」と書かれています。著者の望月さんの公式サイトによると、
ビジネスモデルの定義には、図1のように、「狭い意味でのビジネスモデル」と「広い意味でのビジネスモデル」の2種類があります。
「狭い意味でのビジネスモデル」というのは、例えばアップルのビジネスモデルを分析するときに、「iPhoneやiPad、iPodなどのハードウェアとiTunesやiCloudなどのソフトウェアをうまく融合させたプラットフォーム戦略で消費者を囲い込み、収益を上げている」というようにビジネモデルの中の商流部分(うまくいっている部分)にスポットを当てるものです。
一方、「広い意味でのビジネスモデル」というのは、アップルのビジネスを、商流だけではなく、経営者の思想や戦略、製品というように、企業が収益を上げるための活動の全体にスポットを当てるものです。
※http://ac-intelligence.jp/business2/index.htmlより引用
引用部分の改行は片岡が追加。
と意味づけられています。
本書の構成
本書は、以下のような構成になっています。
- 沿革と経営理念 ←どのような成り立ちで成立した企業なのか
- 主要な数字 ←売上高や経常利益、当期純利益、(中略)、自己資本比率、従業員数など
- ビジネスモデル分析 ←第6章の場合は、コングロマリット 対 インターネット生保 、バークシャー・ハザウェイの戦略、ライフネット生命 の戦略
- 経営戦略と注目ポイント ←第6章の場合は、バフェットの銘柄選択術や負けないシステム作り、ライフネット生命保険の「132億円集めたビジネスプラン保険会社の収益性と安全性など
- 決算書分析 ←損益計算書と貸借対照表を合計7頁程度で解説
- 分析に使用した資料
「経営者の考え方」や、どのような商品をどのような戦略で売っているのか、という側面も書かれていて、大変面白く読みました。分析に利用した書籍やウェブサイトが紹介されているので、読後に情報を確認することができます。
著者の三名は公認会計士なので、損益計算書や貸借対照表の要点をうまくまとめています。数頁で各企業の決算書・分析結果をまとめていますので、集中して読むことができました。
特に面白かった部分
例:創業時の苦労話
ソフトバンク会長の孫正義氏の人生、ソフトバンクの30年ビジョンなどは、Web上のインタビュー等で知っていました。ですが、アシックスの鬼塚氏やニトリの似鳥氏、イオンの岡田氏、など、創業時の苦労話の部分は読み物として面白かったです。
私はITの仕事をしておりますので、「第6章 バークシャー・ハザウェイVSライフネット生命 」のバフェット氏が会長をしているバークシャー・ハザウェイの部分と、インターネットを活用して低価格で保険を売る取り組みに特に心惹かれました。
例:バークシャー・ハザウェイ
バフェット氏が企業に投資するときに気をつけていることは、すでに著書に書かれているのでしょうが「5.わからないものには投資しない」は改めて気をつけたいと感じました。「高値をつける根拠」に納得できるかは、当たり前ですが心したい点です。
本書ではアメリカのネットバブルが例に出ていますが、「成長性にかけて先行投資すると、たいていは期待通りに成長しない」という話は、IT業界に限らず起こりやすいことではないでしょうか。
例:ライフネット生命
そして、日本のライフネット生命の出口氏の取り組みは、ITを活用していることもあり、ぐいぐい読むことができました。
- お客様にはインターネットを活用してもらって、経費を削減する
- 維持管理経費を減らすために、シンプルな商品設定
- 保険料の内訳を開示し、保険料が安めでも保証はちゃんとしていることを証明
- 顧客層の想定を綿密に行い、宣伝広告費を効率よく使う工夫をしている点
- わかりやすいウェブサイトを作ることで、人による説明がなくても買いやすい
という工夫が興味深かったです。
P,226の「就職、結婚、出産」が保険の購入につながりやすいタイミングと考えて、関連メディアに広告を出し、会社幹部の出口氏や岩瀬氏が出版したり、メディアの取材を受けることで「広告費を効率よく使う→保険の価格を下げる」を実現している点が興味深かったです。
ライフネット生命の損益計算書では、P,231-232によると、
- 売上高は5年間で1億円から58億円に増えていること、
- 経常損失が2009年3月の-14億円から、2013年3月には-1億円まで減っており、黒字まであと少しであること、
- 繰延資産が今後のコスト増加要因になる可能性があること
など、がわかりました。
貸借対照表では、P,233-235によると、
- 総資産205億円のうち株式は2億円で、投資で資産を増やしているわけではないらしいこと、
- 保険契約準備金(負債の部)は35億円であるのに対し、現金貯金・国債・社債・株式を合わせた残高が138億円あり、純資産合計が161億円(78.5%)で財務健全性が高いこと
など、わかりました。
おわりに
経営者の考え方や企業の戦略が先に書かれているので、数字の部分も読みやすく感じました。どの企業もなるほどと思う理念があります。本書は、まず経営者の価値観・生き様を読んでから、決算書をよむという段階を踏んでいるのでオススメです。
ビジネスモデルや各企業の損益計算書を読む勉強を、これからしたいと希望している人のニーズに合うのではないでしょうか。図表が多く、数字が苦手な方でにも読んでもらおうという工夫がされています。
本書を読んで、「決算書はこの企業の理念を実現しているプロセスを、示しているのだな」、と認識をしました。興味がある企業の部分から読んで、自分でも関連資料を検索・分析すると、 さらに理解が深まりそうですよ。
著者の望月実さんから『ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』を献本していただきました。お礼申しあげます。
今回、紹介した本
望月実・花房幸範・三木孝則『ビジネスモデル分析術2 数字とストーリーでわかるあの会社のビジョンと戦略』