「ライドシェア」から起こる大変革を見過ごす日本、革命を起こす米国
かねてよりUberやAirBnBなどによる変革の日本でのとらえられ方に、おやと思っていたが、あまり改善しないので、カンタンに書いてみたい。
まず、日本で相乗り=ライドシェアと紹介されているUberやLyftが起こしているイノベーション。これは、単にタクシーの代替ではなく、「交通」を革新することが、日本ではあまり理解されてこなかった。
例えば、「ライドシェアがタクシーを駆逐する日」KDDI総研、2015年6月号 は、体験談を含む力作だが、"日本から見た米国"的な話であり、ライドシェア対タクシーの構図に留まっている(サンフランシスコでのタクシーの売上減よりも、ライドシェアの売上増が大きく上回っている、つまりゼロサム的なパイの奪い合いでなく、市場の創造だと指摘している点は、意義ある)。
日本で今年に著されたシェアリングエコノミーについての論文でも、規制について利用者・供給者保護の観点から特に悪意や品質などの問題に関して論じ、企業の形が変わり個人の生き方が影響を受けるといった視点に、とどまっている。
しかし、長期的にみれば、ライドシェア企業は自動運転と相まって、自動車産業はもちろん、都市計画や不動産活用にまで、多大なインパクトをもたらす。ここを追求しないと、木を見て森を見ずだ(AirBnBなどの「民泊」と日本で呼ばれるものも、同様に日本での論点は狭い・・またの機会に書いてみたい)。
日本経済新聞2017年5月16日朝刊「グーグル系自動運転ウェイモ 米相乗り大手を提携 GMと協業の可能性も」なる記事に、ウェイモ広報のコメントを「都市交通の改善を目指すリフトのビジョンとコミットメントは、ウェイモの自動運転技術をより多くの場で、より多くの人々に届ける上で助けになる」と紹介しているが、その意味するところをロクに説明していない。よくわかっていないのではなかろうか。
友人である500 StartupsのDave Mcclureの依頼で、2012年に東京でUberの創業者&CEOのTravis Kalanickさんと会ったとき、日本参入の相談の中で、彼のビジョンと、データとインテリジェンスへの突出したこだわりとアグレッシブな姿勢に強く印象付けられたものだ。Travisの依頼で何人かの日本在住者にUberへの転職を打診したが、こうした突き抜けた構想を受け入れてくれる候補者には出会えずじまいだった。
昨年=2016、Lyftの創業者&CEOの Logan Greenさんと会ったときは、自動運転車とそのネットワークにより、交通事故死を劇的に減らせるなど、新たな社会をつくりたいと唱えるパッションと、同席の小生の妻にも気配りする暖かい人柄が印象的だった。(ちなみに、Travisがシェアライドを始めた2009年の前の2007年にLoganは始めている)
そして、昨年9月に、Lyft共同創業者のJohn Zimmerが "The Third Transportation Revolution" を書いている。リフトは自社を、日経が言う単なる「相乗り」会社の枠を超えて前進しており、交通を都市を変革するスタートアップだと認識している。この記事でJohnは、次の三つの変化を言う:
1. Autonomous vehicle fleets will quickly become widespread and will account for the majority of Lyft rides within 5 years. 自動運転車が広まり、5年以内にLyftのサービスの大半を占めるだろう。
2. By 2025, private car ownership will all-but end in major U.S. cities. 2025年までに、米国の主要都市で、クルマ所有が終わりを告げる。
3. As a result, cities' physical environment will change more than we've ever experienced in our lifetimes. 結果として、都市の物理的な環境は、かつて経験したことがないほど、大きく変わる。
そして、クルマは所有でなく、"Transportation as a Service"つまりサービスに代替される、と唱える。
なお、小生の古巣のボストンコンサルティングが調査結果を公表している(参考記事: ライドシェア市場「10兆ドル」突破へ 移動の未来に関する調査 | Forbes JAPAN )が、「2030年までに米国の道路を走行する車の全走行距離の4分の1が自動運転に置き換わる、と予測する」としており、タイミングの差はあるが同じ方向性だ。さらに、「ウーバー等のライドシェアや自動運転車、EV自動車の普及により移動のコストが6割削減されるとも述べて」おり、経済的にも大転換そのインパクトは大きい。
個人的には、既存の自動車産業には、多くの調査・コンサルティング会社の予測を超える影響があると考える。
一つは、ユーザー体験の違い。小生の知人の米国の富豪は、かつて複数あった自家用車は一台のみ。奥様曰く、保有することはわずらわしいのだ。金に糸目を付けぬ人も、こういう体験を通じて、ライドシェアのファンになっている。
もう一つは、オーナーが個人からサービス会社に移ると、「持つ喜び」から「機能」としてのクルマへと求められる価値が転換する。つまり、求められる製品も変化することになる。すると、メーカーにとって儲かる車種の比率が下がるだろう。ちなみに、中国のある企業は、シェアライド専用のEVを開発しているという。自動車産業の構図が変わることになるだろう。
さて、お待たせしたが本論に進みたい。この記事にJohnも書いているが、都市のあり方、交通のあり方の革新が、重要だ。おおまかに二つ指摘したい:
一つは、都市の交通の変革。ネットワークされたクルマ(主に自動運転車)は、経済的にも現在より大幅に向上し、安全性は言うまでもなく劇的に改善する。すると、バスや電車など他の都市交通手段と組み合わせての最適化が求められ、そのインパクトは劇的だ。公共交通機関とも合わせて、ゼロベースで考えることで、多くの人にとっていまの時点では思いもよらない変化が起きるだろう。
もう一つは、Johnが駐車場について指摘しているが、都市デザイン、より具体的には不動産の効率と活用についての劇的なインパクトだ。現代の都市では、駐車場、道路など、クルマのためのスペースは膨大だ。そして、クルマ中心とも言えるような都市のデザインがされている。道を歩く時も、歩行者は肩身が狭い思いを強いられている。しかし、様々な交通手段が最適化され、効率と安全性の高い自動運転車、それもネットワークされたクルマ群が、サービスとして運営される。こうなると都市のデザインは一変するはずだ。
日本では、インテルが道路へのセンサー・ネットワークの設置の実証実験を言ってきた、とか自治体さんが話しているレベルだが、米国ではすでにLyftがいくつかの都市とこうした壮大なビジョンのもと、データを集め、新たな交通の在り方の検討と具体策づくりに着手している。もちろん、こうした視点で、図抜けた優秀な人材を迎え入れている。
小さな例をあげよう。いまや119番通報から病院に運ばれるまでの時間は日本でも年々長くなっている。同時にコスト負担も上昇の一途だ。病院に行くのにタクシーを利用することは多々あるし、赤ちゃんタクシーから救急車まで各種サービスがあるが、バラバラだ。これをネットワークされた交通システムが、サービスの利用者にも提供者にもベストの方法で機能するようになればどうだろう。しかも、自動運転車ネットワークも活用して。ちなみに、知人が佐賀県でiPadを導入した新システムにより救急車が病院に運ぶ時間を短縮したが、これも一部の無理解や抵抗と闘いながら粘り強く協力を得て実現できた。こういう状況を大きく超える世界が実現されるとしたらいかがだろう?
未来を見たいなら、対タクシー、相乗りなど、日本で行われている議論の枠を超えることだ。海の向こうからの妙な輩と思うのでなく、変化をチャンスととらえ、変化をリードすることが勝ち残るために必要なのだ。