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研究で、はたして情報産業に影響を与えることが出来るのか?

「研究」なんて役に立たない

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いきなり、タイトルが自己否定から始まってしまいますが、特に最近はこの主張は簡単に否定できないものがあります。

Rob Pikeというシステム・ソフトウェア(OS等を思い浮かべてください)の有名な研究者による、"Systems Software Research is Irrelevant."という非常に話題になったプレゼンテーションがあります。

これは、簡単に言えば、「最近のシステム・ソフトウェアの研究は、ほとんど世の中の役に立っていない」という主張です。これがかかれたのは2000年のことですが、この傾向は2006年の今でも変わらないように思う...ところがあります。

これはシステム・ソフトウェアに限らない気がします。例えば、Web1.0、2.0ともに研究がインパクトを与えたかというと、はなはだ怪しい。RESTは確かに「研究」からの貢献ですが(RESTの原論文はICSEというソフトウェアエンジニアリングで非常にレベルの高い国際会議で発表されました)、そのもともとのWeb (HTTP)は、ご存知の通り、コンピュータサイエンスの研究から始まったものではありませんし、Web 2.0にいたっては、ほとんど草の根から始まっていると言わざるを得ません。

では、その間研究者は何をやっていたのかというと、Rob Pikeのいうとおりだという気がします。簡単に言えば、研究になりやすい仕事をやっていたわけです。「研究になりやすい」というのは、すごく皮肉な言い方では「既存の成果の土台の上で、新しい枝をつけてみる」みたいな仕事になってしまいがちです。土台から新しくしようとすると、とにかく労力がかかる割には、成果が非常に出しにくい。

例えばの話ですが、今話題のRuby On Rails (RoR) みたいな仕事が研究になるかというと、これが非常に研究という土台では評価しにくいのです。RoRの各構成要素をとってみると、どれもすでに研究としてはやられた感があるものの、設計者のベストプラクティスを非常にうまく統合していて、非常に実用的に作られていますし、世の中へのインパクトという意味では絶大なものがあります。

だからといって、研究なんてものは、基礎的な部分を積み重ねるものだから、一歩引いてファンダメンタルな仕事をするべきだ、などとやっていると、この変化の早いご時世、あっというまにお払い箱になってしまいかねません。

非常に難しいジレンマです。実際、私もこういう壁にぶち当たってしまったことがあります。今もその壁に阻まれているともいえます。その話はまた今度。

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