「わがまま」が「ありがとう」に変わる時
前回の記事で、「自分の時間をつくる」ことで「ありがとう」と言われることにつながるとお伝えしました。今日はその理由を経験談からお伝えします。
50人の営業部員の仕事を2名でこなす事務担当者
私が生命保険の営業をしていた時のこと。その営業部には約50人の営業部員がいました。
生命保険会社の仕事は、全て「書類」で進みます。お客様へご案内するパンフレット、提案書、契約書、契約時にお渡しする書類、それ以外に社内業務に必要な文書など、その種類と量はかなりのものです。管理すべき書類は数百はありました。
その文書の管理を任されていたのは、2名の事務職でした。うち1名はパートの方で、営業担当者が不在になる10:00~15:00の勤務。主に電話の応対ともう1名の事務担当者の補佐でした。要は主担当は1名ということです。
その時は気づきませんでしたが、今考えると50人に1名の主担当と補佐1名での事務はかなり大変です。営業主体の企業であれば、5人~6人に1名はアシスタントがいるのではないでしょうか?
大らかで頑張り屋なSさんと、しっかりもので厳しいKさん
私が仕事をしていたのは2年間でしたが、1年で事務担当者は変わりました。
1年目にお世話になったのはSさんという人でした。Sさんは私よりも年上で大らかで頑張り屋さんでした。1年目の私に、書類にミスがあってもやさしく丁寧にやり方を教えてくれたり、提出が遅くなった書類でも何とかつじつまを合わせ処理をしてくれたり、アネゴ肌で頼れる存在でした。また、遅くまで営業活動に走り回り20時過ぎに戻ってくる営業のためにいつでも残り、できるだけ早めに契約が進むようにしていました。
1年経つ頃には、その営業部にはSさんが「なくてはならない存在」となり、異動になると聞いたときは皆が涙ぐむほどでした。
そしてSさんの後任で配属になったのは、Kさんでした。
Kさんは20代前半で若いですが、しっかりとした人で、やや厳しい印象でした。Kさんはどのような理由からかはわかりませんが、「残業をしない」と宣言していました。それについては部長も認めていました。また部長は「Kさんには本当に期待している」とも言っていました。
いつも優しく、どんな時でも付き合いの良いSさん。若くてもとてもしっかりとし、厳しい印象のKさん。部長の評価は高かったものの、営業部員からは「Sさんが良かったね」という声もありました。
そんな中、私はKさんの仕事ぶりを観察することにしました。
Kさんの業務改善
Kさんは、しばらくすると、書類の位置を全て変えました。なぜ変えているのかが全くわからないので、営業部員は「今までの位置に慣れていたのに、やりにくい」と陰で言っています。
更にKさんは、朝礼で自分が営業部員に情報伝達する時間を確保しました。その時間は週に1回で、おおよそ10分~15分。内容は「正しい印鑑の押し方」、「間違いやすい漢字」、「通してもらえない字の書き方」、「営業部から本部への業務への流れ」など、様々な講義に充てていました。
私は最初、書類の整理にしても情報伝達にしても「ふーん」と思っていました。しかし徐々にKさんの意図がわかるようになります。
書類については、「よく使う書類を取りやすい位置に、使わない書類は下方に」、朝礼での講義については、営業部員がミスしやすい点を、順に改善するために行っていたのです。
色々な変更からしばらくの間陰で文句を言っていた営業部員も、慣れるうちに何も言わなくなっていました。
改善効果を実感する
Kさんの取り組みはじめてから1~2ヶ月で、様々な効果が表れます。まずは、営業部員の書類のミスが劇的に減りました。また、ミスがないのでお客様にご迷惑をおかけし、やり直していただく手間も省けます。それにより、建設的な仕事に充てる時間が増え、営業部員の業績も改善しました。
実はKさんは、配属後すぐに業務の分析をし、それにより営業が営業に集中しやすい環境を作っていたのでした。更に、Kさんには残業代がほとんどつかないので、営業部門の経費の削減効果もありました。
このことに気が付いたとき、私は「Kさんは凄い人だ!」と素直に感じていました。
私の仕事で変化を見ると、Sさんの時はSさんが許してくれるので甘えもあり、ご契約をいただく際、それほど緊張感を持っていませんでした。しかし、Kさんになってからは厳しいですし、1度で終わらせないと、処理が翌々日になってしまうため、慎重に契約をいただくようになりました。それにより契約の成立が早くなり、お客様からも「もう契約書来たよ。早いね」と言っていただけるようになりました。
後でわかったことですが、Kさんは通勤時間が2時間かかるところから通っていたのでした。そのため、「残業をできるだけしない」と決めて仕事に取り組むうちに色々な工夫をするようになり、スキルアップしたそうです。
私の中でKさんは、最初は勝手に「わがままな人なのだろう」と思い込んでいましたが、途中から「ありがとう」と感謝する存在になっていました。
この経験から、「自分のやりたいことを通す」ためには「仕事の工夫」をすればよく、その際は、「仕事相手の仕事が上手く回るように考えて取り組めばよい」ということがわかりました。
しかし、そんな私ではありますが、自分ではそれが出来ておらず周囲に迷惑をかけたことも。次回は私の失敗経験をお伝えします。
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