コンピュータがクイズ番組にチャレンジする背景と脳科学研究
「IBMのコンピュータがクイズ番組にチャンレンジする」という話については、既に何人かが記事をアップされていますが、その背景にありそうな技術トレンドを少々。
「参考:過去の記事」
昨年末に、産業総合研究所の招聘研究員として主に米国で活動しておられる方のお話を伺ったのだが、
- 昔から、コンピュータ(特にOSレベル)やネットワーク構造は、人間の脳を素晴らしいものとして真似たアーキテクチャーを目指してきたが、その流れが変わってきている
- むしろ、「脳は不安定・不確実なものである」ということがわかってきた。よって、そんなものを真似しても、コンピュータは素晴らしいものにならない。別のモデルを考える必要がある。
- 行動経済学のような「人間の不確実性、気まぐれ」とかクチコミ・マーケティングのような人間の感情に関する話は、脳の不完全性に起因する。
とのこと。
そう考えると、「早押しクイズのような分野は、つい感情や思い込みで反応しがちな人間よりも、高い再現性を誇るコンピュータのほうが強い。人間の脳を真似るだけではなく、人間に勝てる新しいモデルを実装した」ということを証明したかった(と私が勝手に想像している)のが、クイズ番組への挑戦のような気がする。
駒の動かした方が定義されており予測がしやすい「チェスにおける人間対コンピュータの勝負」に比べて、「早押しクイズ」というのは、時間的制約(プレッシャー)もあり、問題の予測も幅広くなる、より過酷な条件になるはずだが、それでも「クイズ王のような熟練者にコンピュータが勝つ」というのが目指すところのようだ。
「人間界とコンピュータ界のアナロジー」という点で、実は、自分自身も20年ほど前に、クライアントサーバーの3階層構造などになぞらえて、「IT屋さんに組織論を、組織論者にITを語る」ということを目指して本を書いたことがある。
そのときに触発された方の一人が、今回の招聘研究員の方だ。
今でも、私自身の基本思想は似たようなもので、人の特徴を捕らえるときに、ITネットワークの構成要素になぞらえて、
- この人はCPUヘビー、4クアッドのマルチコア級
- この人はメモリー不足のためマルチタスクを期待しても無理。しかもDisk I/Oが遅いので、ゆっくりとコマンドをインプットしないとフリーズする
- この人はルーター型。振り分けはギガバイト級の高速スイッチでポート数も豊富だけど、独自の付加価値は少ない
- この人はNASのDisk。データ量が豊富で誰とでも接続可能だが、たまに古いプロトコル(ご年配の方?)には対応できていない。
などの理解をして、一人で苦笑いしていることがある。
で、脳科学の研究の方では、PDP (Perception Dual Processing)という考え方が主流になってきており、医学や実験心理学の方面から最近わかってきたことを並べると、、
- PerceptionとReasoningという理性に働きかける部分(意識下で動く)には15%ずつ大脳が、INTUITIONという感情に働きかける部分が70%を占めており、無意識で動く小脳が使われている。
- 意識下、無意識下で記憶も別立て
- Working memoryに相当する「海馬」は、意識と無意識で共有されている
- 意識行動にはimpressionが有効でドーパミンが分泌するが、日常行動にはセロトニンが分泌され、長期記憶や思考的活動に有効
- モノクロで2次元による認知が頭の中にあり、色や3次元は後から合成される (だから幼児に3D体験をさせるのはよくないとか。。)
等々
こういう話をいろいろつないでモデルを考えて行くと、今の米国の研究者たちには、脳科学、心理学、マーケティング論(クチコミ、顧客満足)、行動経済学(幸福論)、組織論(情報ネットワーク論)、日本人論、IT という異分野の世界がひとつにつながった世界観で見えてくるということのようだ。
ニコラス・カーの「ネットバカ」とか、コロンビア大学特別講義:「選択の科学」などの話も、根っこではつながっているらしい。
なんとなく雰囲気的には理解した気分になるのだが、きちんと本を読んで腹落ちした理解にしたいと思う。人間として、コンピュータに負けない存在でありつづけるために。