オルタナティブ・ブログ > こんなところにも、グローバリゼーション2.0 >

日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

人口が減少する国は本当に不幸なのか?欧州のマクロ経済動向を見ながら、日本の将来像を想像してみる(その1)。

»

最近、いくつかのIT系イベントにおける基調講演に登場した 伊藤元重 東大教授の話を聞いて、少し元気付けられた。(例えばこちら)

アジア市場においては、日本が小さくなるのではなく、成長する中で韓国、インド、中国が大きくなり、域内の貿易依存度は高まる。これまでは「アジア内で孤高の存在」であった日本が、EUにおける欧州各国のように、近所付き合いを増やすということらしい。
これを裏付ける理論が、第1回のノーベル経済学賞を受賞したヤン・ティンバーゲン「貿易における引力の法則」というもの。貿易の大きさは距離に反比例しそれぞれの経済規模に比例するとのこと。

また、ハーバード白熱教室のマイケル・サンデル教授は、以前にも書いたが、「欧州人を見よ。彼らは不幸か? 人口減少だとか、国レベルでのGDP順位など気にするな」と、語っている。

そこで、実際に、代表的な欧州各国のマクロデータを見てみることにした。

まずは、貿易依存度については、この5年くらいの動きを見てみることにしよう。

図は横軸に輸出依存度、縦軸に輸入依存度をとり、2004年と2008年の2時点で状況がどう変化したかをプロットしたものである。

データ出所:http://www.stat.go.jp/data/sekai/09.htm

20042008

これを見ると、「EU域内」という大きなくくりでは、貿易依存度は輸出・輸入ともに、15-17%程度で4年間の間、大きな変化は見られない。一方、各国個別に見ると、ほとんどの国が輸出依存度>輸入依存度という環境下で、輸出・輸入ともに30%程度まで大きく増えている。また、現在の日本は、EU全体と同じレベルにある。

EU効果のおかげで、モノが国境を越えて随分と動いているが、その多くがEU域内の他国向けであることが想像される。輸出も輸入もともに増加するなか、輸出のほうが大きく拡大したということなのであろう。

昨今話題のTPP(環太平洋経済パートナーシップ Trans-Pacific Partnership) が成立すると、データ的には、きっとこういう姿に近いものになるのであろう。

ちなみに、現時点でのアジア諸国やTPP参加予定国のデータを用いて同じ図を描いてみると、下のようになる。

Tpp

シンガポール、香港、マレーシアなどはそもそも「通過経由地」として輸出・輸入ともに大幅な値を示しているため参考値としてみる必要がある。中国は、輸入依存度が減少する一方で輸出は増加している。「世界の工場」として成長している証であろう。また、マレーシア、フィリピンは輸出・輸入依存度ともに減少しており、国内市場規模の増大とともに、輸出が国内消費に回っている可能性がある。

オーストラリア、ニュージーランド、米国、などアジア以外のTPP参加国(予定含む)が、農業輸出中心であることと、韓国・中国・インド・インドネシアなど人口の多いアジア諸国がTPP参加ではなく独自路線であることを考えると、現状のTPPに日本が参加した場合には、日本の輸入依存度は確実に高まるものの、輸出依存度は今の実力以上には、あまり変わらないかも知れない。日本の主力輸出品である工業製品が関税でブロックされていたりするケースは、TPP参加国においてはもはや少ないような気がする。一方、自らのガラパゴス化だとか、知的財産権のような「非関税障壁」のほうが効いてしまっているような気がするためだ。

 

次に、住民個人の幸福度の代理指標として、「1人あたりGDP(購買力平価)」を採用して縦軸にとり、横軸には、人口の増加率(2000年=1.00)を採って相関を見てみる。

1gdp

多くの先進国では、人口増加を10年間で5%という微増のレベルにとどめながら、一人当たり所得は為替レートの影響もあって3万ドル/人あたりまで伸ばしてきたというのが、この10年の姿である。
10年間で5%を超える人口増加が起こっているのは、どちらかというと発展中の国であるが、そこでも伸び率は10年間で10-20%程度である。米国の人口の伸びが意外に大きいのは移民の影響だとも言われている。

ここで参考にしたくなるのはドイツの動きである。日本とドイツだけが人口がほとんどゼロまたは微減の下で、一人あたりGDPを維持しながら輸出入ともに大幅拡大というこの動きだ。

この2国が先進的工業国であるというのは、偶然の一致であろうか? 一つのモデルとしてみることができるかも知れない。そのほかにも、先進国の割りには英語を話さない国民が多く、グローバルMBAのキャリアサービス(就職斡旋部みたいな部署)でも「ドイツで働きたければ、ドイツ語がnativeレベルでないとダメ」というアドバイスがあったことから、「ドイツ人も日本人と同様に閉鎖的な文化なのかも」と思ったりした。

マクロ的な視点で見れば、技術革新による生産性の向上により、生産のための人間はどんどん不要になる製造業ではその傾向が顕著であるだろう。IT産業も、その一翼を担っていることは間違いない。また、IT産業そのものにおいても、クラウドによる運用管理要員の削減や、開発ツールの改良による開発工数削減など、生産性向上は「少ない雇用で同等か上回る成果を実現」に向かっている。

ドイツにおける人口減少の問題は、2000年頃には既に議論され始めていたようだ。

実際に、自然増減による人口減少が始まったのは1970年代頃から。これまでは移民でカバーしていたが、実数でも人口が減少したこの10年間、ドイツが不幸に見えたことはあっただろうか?

Comment(0)