人口が減少する国は本当に不幸なのか?欧州を見ながら、日本の将来像を想像してみる (その2:子育ては既に少数精鋭の時代か)
前回に引き続き、欧州・アジア諸国のデータ比較であるが、今回は人口データそのものに関する詳細分析である。結論を先に言うと、どうやら既に世界的に人口調整モードに入っている中で、フランスの計画性の高さが際立って見えてきた。
まず、実際の欧州各国の増加率を見てみると、既に自然増加率はドイツ、イタリア、スウェ-デンなどゼロに近い国が結構多いことに気が付く。フランス、米国などでも0.5%という程度にとどまっている。
(「社会実情データ図録」 より引用)
次に、特殊合計出生率(女性が一生に子供を産む人数)を見てみると、先進国だけでなく、アジア諸国も既に1990年代以降、2.0人を割り込んでいる。欧米では1980年代から2.0を割り込んでいる。少子化対策の成功例として引き合いに出されるフランスやスウェーデンが、ちょうど2.0くらいの値になっている(出所:子育て白書)
この数値は、一夫一婦制を前提とすると、父親と母親から子供2人が産まれて家族の人数=人口が維持されるということから、(正確にはもう少し細かい数値になるが)2.0を超えるかどうかが、人口増加の目安になる。
世界的に見れば、子供の増加には既に歯止めの意識がかかっており、子育ては少数精鋭の時代に入ったと見るべきであろう。
では、なぜ微増とはいえ人口は増えるのであろうか?それは、「平均寿命が伸びて、高齢化で死なない人が増えていたから」というのが結論である。そこで、出生率、死亡率について詳しく国別データを分析してみた。(出所:http://www.stat.go.jp/data/sekai/02.htm#h2-15を元に分析)
図は、各年代別(5年間の平均)で縦軸に出生率、横軸に死亡率(人口1000人当たり)を取り、長期時系列でプロットしたものである。日本のデータ(図の赤い太線)で言えば、高度成長期である1970-75年代においては、出生率が1.9%、死亡率は0.66%くらいで毎年1.24%という勢いで人口が増えていた。これは一見小さい数字に見えるが、人口1億人では124万人、政令都市が毎年1市増えるぐらいの勢いである。それが直近の2010-15年では、出生率0.75%、死亡率0.98%となっており、差し引き0.23%の減少となっている。人口1.3億人ならば30万人という中堅都市が一つずつなくなるぐらいの規模感である。
韓国、中国、インドなどのアジア諸国も日本の後を追うようにL字型の動きを取り、将来的には出生率≒死亡率≒1%の付近に向かうと予想されている。
欧州諸国は、元々、死亡率≒出生率≒1.0~1.5%の付近にあるなかで、やはり小さなL字型の動きをしている。福祉国家として有名なスウェーデンや出生率回復に成功していると言われているフランスでもこの程度であり、「人口が大きく増えずに安定している」というところがポイントであろう。
マクロ的な問題の本質は、どうやら、「昔よりも人間が死ななくなった中で、世の中をどうするか」のようだ。一口に少子高齢化というが、改めて「高齢化による人口増加への対策として、個人レベルでは少子化という現象が出てきている。したがって、少子化対策だけをどうこう言うのは対処療法に過ぎない」という構造が浮かんでくる。
年金問題を考えるにあたっても、保険料収入が同じで支払い期間が長期化するという前提であれば、「定額終身払い」のような制度がどこかで破綻するのは自明の理である。
次の世代にツケをまわすのではなく、「ゴメン、保険の前提条件が変わった」と言って、いったん払い戻して何らかの新しいルールで再契約するようなことが必要になるだろう。
企業年金では、一度約束した運用益を確保できないが故に自己責任を前提とした401Kへの転換導入が流行ったが、同じようなことが国家レベルでも必要になるかも知れない。消費税20%という説も出始めているようだが、受益者負担という観点からはどこかで避けられない流れになるであろう。
物議を醸すため慎重に言葉を選ばなくていはいけないが、結局のところ、「社会の明るい将来のためには、ほどほどの死亡率による人口ピラミッドの新陳代謝が必要」ということにもなるのであろう。そう考えると、医療費の本人負担増加などの施策も受け入れねばならないものだと感じられる。「これだげ技術革新で生産性が向上しているのだから、よほどの高度成長を前提にしない限り、人口増加が続く国のほうが、飽和状態による閉塞感・過当競争で不幸なのでは?」という思いが強くなる。
そこで、もう少し深堀りして、各国の年代別人口構成(人口ピラミッド)を見てみる。
日本、ドイツ、フランスの3カ国を見てみた。同じ先進工業国で人口を減らしつつあるドイツと、出生率回復に成功しつつあるというフランスを比較対象にした次第である。
結果は、図の通り。フランスの人口ピラミッドが「なんと平坦であるか」と改めて驚いた次第である。
フランスやドイツで、60-64歳と65-69歳の層に段差があるのは、戦後生まれ、戦中戦前生まれという第2次世界大戦の影響であると思われる。
この人口ピラミッドが2030年頃にどうなるか予測したデータが下記である。高齢者の比率が増える日本やドイツで、2030年頃には死亡率が1.5%程度になると言う予測も納得できる。
フランスやドイツは各年齢層の出生者数が、ほぼ400万人程度でフラットになるようにしっかりと管理でもされているかのようである。これぐらい年齢別人口が安定していれば、残る変数は平均寿命だけであろう。ここまでくれば、年金などの制度設計も大きくブレルことはないのだろう。
ドイツでは2030年頃に、第2次ベビーブーマーが60歳を過ぎる。この年齢層が平均寿命に到達すれば、フランス的な安定した人口構成になるだろう。日本では、更に10年先の2040年頃になりそうだ。それまでは、今のような就職難はまだまだ続くかも知れない。現時点で30歳後半~40歳くらいの団塊ジュニア層が大勢力の現役世代既得権者として社会にいる間は、マクロ的な社会構造調整は続くと思ったほうが良いだろう。
私自身は、団塊ジュニアよりは上の年齢層になるが、今回のデータ分析をやってみて「子供手当ても、自分の年金も潤沢に」というのは虫が良すぎる話になるのだろうと改めて感じている。真に次世代のことを考えるならば、「生涯現役で自分の食い扶持は自分で稼ぐ」ような志を持たねばと思う。
真剣に世の中の将来を考えるならば、もっと世代間対立を軸にした議論があってもいいような気がする。