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日本や日本人って何だろう。改めて「海外」を考えるヒントを身近な話題から

給料が上がらない理由を、今度は収入別世帯数の日本・インド比較から見てみた

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前回に続くマクロ経済分析第2弾として、「世界のフラット化、ボトム・オブ・ピラミッド」の現状を示すデータ分析ができたので、ご紹介しよう。結論から言うと、「少子高齢化、年金対策、世界のフラット化」などが複合した結果、構造的な就職難が国内の若年層に生じているように見える。

まず図1は日本の日本の世帯収入別世帯数分布である。(出所:H19就業構造基本調査)
H19
縦軸は、世帯の数、横軸は世帯収入。内訳は、世帯主の年齢層による世帯数である。

調査時期はもはや古い2006年度の数字であるが、リーマンショック前の割には予想外に低収入に分厚い分布だと感じる。平均世帯所得は560万円。だが、ボリュームゾーンの世帯収入はもう少し下。「年収300万円で暮らす」というフレーズが少し前に流行ったが、まさにそのあたりのゾーンだ。

1000-1250万円のところに世帯数の小さなピークがあるのは、世帯主年齢40歳-64歳のグループがこのゾーンに多く存在するためである。この辺は、年功序列型賃金の反映ともいえるだろう。

このグラフを見ると、もう一つ、日本国内の高齢化に伴う、定年延長の問題が見え隠れしている。200-299万円、300-399万円あたりのゾーンは、大企業の大卒初任給に近いゾーンだと考えられるが、この付近にも60-64、65-69歳世帯主のピークがある。

年金機構から送られてくる「年金定期便」を見ると想像がつくが、ちょうど、一般的なサラリーマンの年金収入がこのゾーンではないかと思う。
それと同時に、60歳を過ぎて定年延長・再雇用になると、得られる収入もこの付近かもう少し上のゾーンになる。

つまり、これから就職する人たちは、自分の親の年齢に近い定年前後のベテラン社員と、近い給与水準をめぐって社員の椅子を取り合っていることになる。
親の世代からすると、「自分の年金や再雇用と子供の就職がマクロなレベルでは競合している可能性大」ということを理解する必要がある。

雇う側の視点からすると、平成18年4月から施行された高年齢者雇用安定法の改正では、事業主は、①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止、のいずれかの措置をとらなければならない。新入社員を雇う法的義務はないが、既に雇ってしまったベテラン社員には何らかの形で賃金を払い続ける法的義務があるのだ。
しかも、ベテラン社員には、経験という強みがある。手取り足取り教えなくても、社内や業界のことをわかっている便利さだ。転職の場合には、こういうご年配の方々と上手くやっていけるという人間的スキルを示す必要がありそうだ。また、既存社員の給料を一度上げると後が大変なので、上げたくはないのも自明の理だ。臨時給(ボーナス)のような成功報酬型か、「部下ナシ担当部長」のような肩書きポストで報いる形式が増えてくるだろう。 

こんな会社組織の中で、新入社員には、経験不足を補って余りあるエネルギーや将来性、新しい世の中への適合性などの強みを示すことで、この企業内競争に打ち勝つ潜在力が期待されているのだ。上手く取り入ってinner circleに入れてもらうか、そうでなければ自ら起業でもして、おじさん世代の既得権を打ち破るべく精進することになる。もちろん、上手くinner circleに入れても、その後の保証があるわけではないということは自明の理である。

次に、この分布が5年前からどのように変化してきているかを見たのが、図2である。
Photo

図1と同様の調査で、収入分布や年齢別の分類を合わせて、2001年度のデータとの差分を見てみたものだ。おそらく同様の傾向が、2006年以降も続いていることだと思う。

  • 全体像で見ると、世帯年収600万以下の世帯数が増加しており、それ以上の高額年収世帯は減少している。
  • 50-54歳のゾーンがどの年収区分でも減少して、その上の55-59歳のゾーンが増加しているのは、いわゆる「団塊の世代(1947-1951年生まれ)」が5年分年をとった結果であろう。
  • また、年収500万円以下で世帯主=60歳以上の世帯が増えていたり、25-29歳の世帯数そのものが大幅に減少していることがわかる。

就職して直後の20代は実家に住み続け、結婚を期に30-40代で世帯主となり、定年後65歳頃からは(子供世代の就職難、子供の独立等により)子供の年収を合算できず低年収で世帯主となる老人世帯が増えてくるようなイメージがデータから思い浮かんで来る。

次に、新興国の代表として、インドの世帯分布データを見てみる
(出所:通商白書2010 第1-2-4-13表

2010_12413

これら2つのデータを、若干の仮説を入れて目盛りを調整して書き直したグラフで重ねて見たのが図4である。
Photo_2

これを見て、今後の動きを想像してみる。

インドのような新興国では、徐々に分布がなだらかになりながら、右方(高賃金へシフトする)
一方、日本のような成熟した国は、左下の方へシフトする。図4では日本の動きはわずかな大きさだが、実際には図2で見たように結構大きな動きであることから、インドの動きは相当大きな感覚であることが想像される。最終的にはこの2つの動きがどこかで収斂することになる。

今や、年収200万円付近のところで、日本の世帯で下から15%くらいと、インドの上位10数%の層が十分拮抗している状態だ。

「世界的に、同一賃金=同一スキルレベル」とみなすと、日本国内の低賃金で単純労働従事者は、もはや完全にインドのような新興国の労働者と競争しなければならないのだ。
実際には日本語という参入障壁のおかげで日本市場が鎖国化されており、日本国内の高賃金労働市場が日本人向けに限定されていただけなのだ。

さらに、新卒採用において大前研一氏が最近の著書(ユニクロ柳井会長との共著)「この国を出でよ」などで「パナソニック・ショック」と語っている問題がある。
日本企業においても、新興市場攻略を担う現地人採用の比率が高まり、グローバル規模で採用が増えても、日本採用の人数は減少傾向にあるという話だ。

実際にパナソニックの新卒採用枠として発表されたのが以下の数字である。
2010年 グローバル枠750人 日本枠500人 合計1250人
2011年 グローバル枠1100人 日本枠 290人 合計1390人

しかも、この日本枠は、日本人枠ではない。
「日本国内の新卒採用は290人に厳選し、なおかつ国籍を問わず海外から留学している人たちを積極的に 採用します」と述べているらしい。

ちなみに、IBMのコンサルティング部門では、全世界の人事担当の役員レベルを対象とした「CHROサーベイ」と言う調査を実施している。
このページから登録してダウンロード可能)

この調査によると、上記の傾向は、日本企業だけではないようだ。

  • BRICSなどの新興国で採用を増やしたいと考えている企業は全世界で調査した61カ国700社の人事担当者のうち、20-30%は存在する。
  • 一方、日本や韓国で採用を増やす予定のある企業は、たった8%しかない。

結局、日本の強みでもあったフラットな年収分布や「皆がいつかは昇進・昇給する」という平等主義は幻想となり、グローバルな競争に敗れると徐々に左下方にシフトしていくことになる。
これが、「世界はフラット化する。IT化とグローバル化、水平統合型ビジネスモデルによるパラダイムシフト」ということの意味
である。

国内の大企業にこだわって、しかもグローバルな職場を避けているのは、「2重・3重に縮小するパイの中で、親のようなベテラン世代と争う超レッドオーシャンな椅子取りゲームだ」ということを、就職・転職を考える立場では理解しておく必要があるのだ。

今までのような単純な不況による就職氷河期とは異なり、不可逆的、慢性的で構造的な問題だと理解して対策を打つ必要があるのだ。

では発想を変えて、個人レベルで探せるブルーオーシャンがどこにあるかを考えてみよう。

1) 新興国の中で指導的な立場を目指す

いくら新興国の人材がスキルレベルで成長してくるからと言っても、その専門性において、まだ日本人には多少の時間的優位性がある分野はあるだろう。その間に、日本企業の現地リーダーとして赴任したり、現地企業を支援する専門家として乗り込んでいき、現地人を束ねるリーダーになってしまうのである。

「水道、鉄道、発電」など新興国向けのインフラ輸出の流れに乗るのは、このオプションの一つであろう。第一人者になるには、まず早く手を挙げることが重要だ。

2) 欧米に進出したがっている新興国企業に、自らを売り込む

前述のCHROサーベイによると、インド企業の人事担当者では、45%北米、44%が西欧に従業員増加を計画中。中国企業では、33%が北米、14%が西欧に従業員増加を計画しているということが判った
このような、インド・中国企業に、新興国と先進国の橋渡し役として自らを売り込むという選択肢もあるだろう。

数ヶ月前、インド人のヘッドハンターから電話がかかってきたときに私自身の脳裏に一瞬思い浮かんだのは、このオプションである。

もちろん、どちらの場合にも、Why you, Japanese ? と言う質問への回答を用意しておかなくてはならない。
そのための準備を、常日頃から行っておかなくては。



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