リーダーの資質をソーシャルグラフからみ出だす組織論 part2
前回の続きで、私が実際に受講した講義のエッセンスや教授(Ronald Burt)の著書のことをもう少し詳しく紹介してみたい。
彼の講義は、私自身がExecutiveMBA時代に最も気に入ったものの一つであり、「グローバリゼーション2.0」と言うテーマでこのblogをやっているきっかけにもなっている。
幸いにも、この教授は、自分の手法を広めることに積極的であり、結構多くの資料がWeb公開されている。
日本では彼の著書はまだ1冊だけしか翻訳されていないようだが、3月のBizreach(年収1000万円以上の転職サイト)と組んだ講演会にSpeakerとして招かれるなど、その筋での注目度はあがってきているようだ。
そもそも、この組織論の出発点として、オープンなネットワークのハブになるような人材(Broker)と、閉じたネットワークを形成したがる「Closure」という2つの概念が存在する。
そして、「イノベーション向きのBroker」 と「実行が得意なClosure」という定義づけがなされる。
- イノベーションは異質の交わりから生まれるので、「Broker」が優位
- 「Closure」が実行段階で優位なのは、コミュニケーションロスが少なくてスピード優位であり、経験蓄積(Learning curve)が効いてくるから。
など、既存の経営論にfitした説明で、BrokerとClosureを発見するためのツールとして、ソーシャルグラフの効用が解説されていく。
一緒に働いていてワクワクする企業やリーダーは、このBrokerとClosureの両面をフェーズごとに使い分けたoperationを上手くこなすものらしい。
授業では成功例として、IDEO というデザイン会社の事例が語られていた。
授業で見たDVDでは、あるスーパーマーケットから受注した「人にやさしい新型カートの設計を5日間で行う」というお題であった。この内容は米国ABCで放送され、YouTubeにも掲載されている。
YouTube: ABC Nightline - IDEO Shopping Cart
あらすじはこんな感じだ。
- 製品開発フェーズにおいて、製品コンセプトを練り上げる段階では、Brokerにリードされてボトムアップで自由なアイデアを出しが行われ、徐々にサブチームが形成されつつ、ユーザーインタビューやら人間工学、心理学の外部専門家を引き入れるなど、徹底的にオープンなdiscussionが重要視される。
- 次に、試作フェーズになると、分割されたチーム毎に集中したコミュニケーションとなり、別チームとのコミュニケーションが遮断され、チーム間コンペのプレゼンテーションの日を迎える。Clousureによる「作りこみ」や、一体感醸成による勝利への執念醸成のようなものも感じられる。
- チーム間コンペのプレゼンテーションでは、サブチームを横断するBrokerが上手く全体のセッションをmoderateし、各チームの試作品や背景にある考察を聞きながら、各チームの良い面を取り込んだ新しい一つの収斂されたデザインか完成していく
一方、「Closure」文化の重要性としては、「すり合わせ」に象徴される日本の製造業の今までの強み(最近となっては、ガラパゴス化の原因であり「水平分業に対する弱み」として語られいている。。)が説明されていた。
今、日本”人”に足りないのは、異文化に対するBroker的な存在。それも、新興国とか世代間コミュニティに強い存在であろう。
楽天やユニクロの「英語の社内公用語化」なども、こういう背景があると理解できる。
2年ほど前にこの理論を習った直後、「このソーシャルグラフを用いた新しいナレッジ・マネジメント論や人事組織論を展開したい」と考えて、あるコンサルタントに話してみたが、「こんなのお客さんは引いてしまいますよ」と、一笑に付されてしまった。
「頭の固い日本企業と、まだまだ若い担当者では、この理論の価値がわからないかな。。」と思いつつ、密かに教科書の翻訳などを行おうかと画策している。
今ならそろそろ受け入れられる素地もできてきたことだろう。。