「Google vs Facebook」の背景として、MBAの世界では「ソーシャルグラフを組織論に紐付けた理論」が既に存在している
スローなresponseであるが、斉藤さんの「ソーシャルグラフまとめ」や「FacebookキラーGoogle Me」に関するブログに触発されたので、1年ちょっと前に受講した「Executive MBAの組織論」の授業を思い出して書いてみたい。
斉藤さんの記述はB2Cでconsumer marketing への応用を念頭においた記事なのであるが、私が体験したのは「企業内組織論」の世界で、従来型ナレッジマネジメントの延長にある「ノウ・フー」の実例として実用化されはじめているという話である。
「ソーシャルグラフ」とは何であるか?という詳しい説明は、前述の斉藤さんのblogにお任せするが、クリックするのが面倒な方のために一言で言うと、日本で言えば「SPYSEEのような人脈図」のようなものである。
これを描いた上で、その人脈図をビジネスにどう使うか?という明確なロジックがあり、「MBAの組織論の授業で、そういうことを教科書にしている」ぐらい進んでいるのが海外の状況である。
私自身は「組織論」に関する本当の国内最先端の学会事情は知らないが、ビジネスの現場にいる印象で言うと、この種の人事組織論については、日本へのコンセプト輸入がこのところ急速に遅れてしまっているような気がする。
個人的な印象に過ぎないが、
- 数年前のコンテンツ中心で検索エンジンとか文書管理ツールに矮小化されてしまったナレッジ・マネジメント論
- 上司、部下、同僚からの360度評価
- なんとなく上手くいかないものの代替案のない「成果主義」
- 多少は成功していると思われるが、属人的なノウハウに依存する「コーチング」
ぐらいで、止まっているような気がする。
この辺のコンセプト輸入の遅れも、日本からの留学生が減少したことが要因のひとつであるような気がする。
では、実際にソーシャルグラフを組織論にどのように結びつけるのか?
一言で言うとこんな感じだ。まず、図1のようなソーシャルグラフができたとする。
一つ一つの点が、個人に相当する。この個人の「人脈ネットワークにおけるハブさ加減」を数値化して横軸におき、もう一つのデータ(年収、昇進度、スキルレベル)などを縦軸にして、図2のようなグラフを書く。この縦軸・横軸の相関を見ながら特異点を見出し、組織論としてのアドバイスを行うと言うコンサルティングが展開される。
教授の実証データでは、金融業界でのディーラーのような人種において、「業界のネットワークハブになっているような人物であるほど、年収が高い」という話があった。「渡りが多いから高給取りなのか、高給を取る実力があるから渡り鳥になるのか?」という因果関係については、個人を見ながら議論の分かれるところだと思うが、一般的な相関があることを事実として見た場合、その相関からどの程度上下にずれているか?という視点が成功例・失敗例の抽出として多いに役に立つ。
実際の組織論コンサルティングにおける使い方としては、
- 社内ネットワークのハブになっているがまだ注目されていないような人材を見出し、「次期Leaderの候補者」として発掘・育成する
- 高給・高ポジションとなっている管理職クラスについて、コミュニティを活用するイノベーション型か、無から有を生み出す発明家タイプかを識別する。社内ネットワークのハブでもなく、無から有を生み出す存在でもなければ、リストラ対象として目をつける
- 組織図上ではなく実際にコミュニティのハブになっている重要人物を特定しておき、「その重要人物が他社へ引き抜かれないように、事前に人事施策的な予防を施す」ようなアドバイスを行う。例えばretentionのボーナスを出すとか、上司・人事部が特に注意を払って個別にインタビューを行うというようなアクションを実施する
というような方法があげられる。
この教授は、実際にある企業のサプライチェーン改革プロジェクトにおいて、「誰の意見を最も頼りにするか?」というインタビュー調査を元に、ソーシャル・グラフを書き上げて、コンサルティングを行っていた。
我々の授業でも、実際に、「このクラスの中で最も頼りにする話し相手は誰か?コミュニケーション頻度の多いのは誰か?」等をインタビュー調査し、約100人のクラスメンバー内で誰がどういう小グループでハブになっているか?というソーシャル・グラフを描き、理論と現実の整合性について議論を行った。出身国別のコミュニティリーダー、授業後の飲み仲間、国を超えた同業種の小集団の中で、リーダー格同士のコミュニティが更なるリーダーを作っていく様が、よく理解されたことを覚えている。
このような「コンサルティング・プロジェクトベースでのソーシャル・グラフ作成」を、普段の「日常コミュニケーションから生成されるデータで作り上げる」というのが、FacebookやGoogleの狙っているところなのであろう。こういう、「ビジネスへの実践的展開」を知っているか否かによって、「Google vs Facebook」 の水面下の戦いを見るリアリティは、大きく異なってくるものと思う。