赤ちゃんのWatson・小学生のWatson・高校生のWatson
一般的にAI(人工知能)として知られるIBM Watson。メディアでも数多く事例が紹介されているので、概要をご存じの方も多いのではないでしょうか。
IBMでは、Watsonは人工知能とは称していません。AIという言葉を使うことはありますが、それはArtificial Intelligence(人工知能)ではなく、Augmented Intelligence (拡張知能)として人間の知識を拡張し増強するものと定義しています。
Watson自体が主体的に考えて行動することを目指しているわけではなく、あらゆる情報から学習し、自然な対話を通じて人間の意思決定を支援することを意図しています。主役はあくまで人間です。
アメリカのクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」で、クイズ王を破ったことで一躍有名になったこともあってか、Watsonに問いかけをすると何でも答えてくれる、知らないことは何もない全知全能の神であるかのように理解されていることもあるようですが、これは正しくありません。
Watsonはユーザーのニーズに合わせて、特定の領域の知識を蓄え、整理して学習させることにより、様々な問いかけにも応えられるようになるのであって、はじめは全くの空っぽの状態なのです。
Watsonは、APIとして提供されています。別の言い方をするとクラウドで提供されていて、IBM BluemixというPaaSにアクセスすることでどなたでもすぐに利用いただけます。一定の枠内であれば利用は無料です。Bluemixの上でWatsonを使えるようにして、そこで何かを問いかけたとしても、Watsonは何の反応も返してくれません。ジョパディはクイズ番組向けに特別に仕込んだものであって、初期状態はWatsonは何も情報を持っていないのです。営業のフェーズにおいて、私はこのことを赤ちゃんであるとお客様には説明しています。
この状態から、学習させていくことで、使える存在となります。学習とはなんでしょうか。分かりやすい例として、チャットボットのケースを取り上げてみます。
チャットボットは、ユーザーがチャットにて話しかけると、システムが質問の意図を理解して最適な回答を返すもので、そこに人間は介在しません。コールセンターやヘルプデスクを補助あるいは代替するものとして最近導入が増えています。
ユーザーの質問の意図を理解するためには、質問のパターンを読み込ませることが必要です。たとえば、「キャンペーンの終了日を教えてください」と「特別割引が適用されるのはいつまでですか?」というのは同じ意味なのですが、人間はそれを同じと解釈できるもののシステムはそうは理解できません。これが同じことを指すということを覚えさせ、さらにそれに対する回答候補を決める、このようなことが学習です。
この学習をユーザー企業がゼロからスタートさせることも当然できます。Watsonは質問の意図が正しいとインプットされれば、近い質問がきたときにはそれはこの意図の質問であろうと推測します。つまりどんどん学習の精度が高いのです。よって私はWatsonの初期状態を「ポテンシャルの高い赤ちゃん」と呼んでいます。
赤ちゃんを成長させることはできるのですが、それなりに時間がかかることは想像がつくのではないでしょうか。この時間を短くするにはどうしたらいいのか。
答えは、ある程度学習したWatsonを入手する、です。
学習は業界や業務によってパターンがある程度決まってくるものと言っていいでしょう。いわゆる業界用語は会社が違っても業界が同じであれは、かなりの部分で共通と言えると思います。そう言った業界や業務に最適化したものを「知識ベース」「コーパス」あるいは「学習済みWatson」と呼んでいます。
Watsonの導入が進んでいった結果、この学習済みWatsonを提供する会社が出てきています。IBMが提供するのではなく、各業界の会社、いわゆるユーザー企業やIT系企業がそれぞれの経験をもとに提供しています。これらはもちろん有料ですが、ゼロから作るよりも速く、業界の知見が詰まっている質の高いことを評価してこれを導入する企業が出始めています。
このことで、赤ちゃんの状態から始めるのではなく、小学生や高校生の状態からスタートできることになりますので、スピード重視のこの世界で今後増えていくものと思います。
もちろん小学生や高校生の状態で導入したらそのままで使い続けなければいけないわけではありません。自社の環境に合わせてさらに学習させて、青年から大人へと進めていけばいいのです。これは、赤ちゃんからスタートさせても同じことですし、常に学習して精度を高めていくことはWatsonユーザーにとっては必要不可欠と言えましょう。
一般のユーザー企業は、学習済みWatsonを導入することで、いち早くWatsonの世界に入れますが、別の視点もあります。それは、ユーザー企業が自社の経験を生かして学習済みWatsonを提供する側に回る、すなわち知見を売って利益を得ることもできるということです。ぜひこちら側に立つことも検討いただきたいですね。
学習済みWatsonについて、私の部門で以前実施したWebセミナーがオンデマンドでいつでも見られるようになっています。ご視聴になって関心を持ったという際には、私のWeb Pageからメールやチャットにてお気軽にご連絡ください。
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