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グローバル製造業を揺るがす関税リスクと企業の対応

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米国の関税強化はグローバル製造業に新たなコスト圧力を与えています。為替変動や物流制約が重なる中、企業は利益確保と顧客維持の綱渡りを迫られ、サプライチェーン全体で"値上げか改革か"の意思決定が加速しています。

ガートナーの調査では、サプライチェーンの責任者の45%が「コストを顧客に転嫁する」と回答し、価格改定が最も手早い打ち手である実態が浮き彫りになりました。一方で、顧客需要の減速を懸念する声も強く、調達戦略や生産拠点の見直しを同時並行で検討しています。

今回はガートナーが2025年4月30日に発表した「サプライチェーンリーダー関税対応調査」の資料をもとに、背景や課題、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

Gartner Survey Shows Supply Chain Leaders Plan to Pass Costs to Customers as Top Tariff Mitigation Strategy

「値上げ一択」が映す市場の反応

調査対象となった126社のうち、年間売上高10億ドル超の企業が8割を占めました。巨額の固定費を抱える大手ほど、関税による原価上昇を短期的に吸収する余裕は限られています。

そのため、コスト転嫁は株主への説明責任を果たす最短ルートとして選ばれやすい構図です。しかしガートナーは、その動きが"生活必需品を除く製品カテゴリ"で顧客離反を招くリスクを指摘しています。価格に敏感な市場では、競合が転嫁幅を抑えればシェアを失う恐れがあり、単純な値上げは中長期の成長性を蝕みかねません。

需要減速と報復関税

回答企業の92%が「コスト増」、75%が「需要減」を三大リスクに挙げました。具体的には、49%が"消費者の購買意欲低下"を、45%が"報復措置による海外需要の縮小"を懸念しています。

輸出依存度が高い業界では、二国間摩擦の激化がサプライチェーンの流動性を阻害し、輸送遅延や追加検査費も発生します。こうした複合リスクは財務指標だけでなく、ブランド価値や株価にも波及するため、IR部門と連携したシナリオ分析が必要となります。

調達・生産ネットワーク再構築の現実解

コスト転嫁以外の対策として目立つのが、サプライヤーとの契約再交渉(47%)や協業強化(43%)です。量産部材の価格スライド条項を調整し、為替・関税変動をフレキシブルに吸収する仕組みづくりが急務になります。

また、原産地証明や価格評価などの貿易管理策を最適化する取り組みも40%が選択しました。さらに39%が「米国外への調達拠点移転」、26%が「生産拠点の再配置」を検討しており、近年のフレンドショアリングや"チャイナ+1"戦略の流れが関税リスクによって一段と加速するとみられます。

サプライチェーンDXで生まれる"隠れた余地"

関税影響を精緻に可視化し、即応するにはデータ連携と需給予測の高度化が不可欠です。AIを用いた在庫最適化で"事前積み増し"(23%)のコストとリードタイムを抑制し、デジタルツインで輸送経路や原産地変更シナリオをシミュレーションすれば、意思決定を数週間から数日に短縮できます。

さらに、サプライヤーポータルを通じた共同需要計画は、契約単価の引き下げを促すだけでなく、ESG情報の同時取得も可能にし、レジリエンスとサステナビリティを両立させる土台になります。

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出典:ガートナー 2025.4.30

今後の展望

関税は国際交渉のたびに変更される"可変コスト"です。企業は価格改定という即効薬に頼り切るのではなく、サプライチェーン全体で発生源を分散・低減する構造改革を進める必要があります。

短期的には、原産地証明や契約条項の見直しにより関税率の適用範囲を最小化し、中期的には製造と物流拠点のマルチハブ化で地政学リスクを抑制する戦略が求められます。

長期的には、貿易規制をリアルタイムに反映するプラットフォームを整備し、社内外のデジタル連携を深化させることで、関税変動を"競争優位を生む鍛錬機会"へ昇華できるかが成否を分けるのかもしれません。

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