AI時代のクラウド・オンプレミス・エッジ:進化するインフラ戦略
国内のITインフラに対する投資は、経営環境の変化や新たなテクノロジーの登場によって、大きな転換点を迎えつつあります。地政学リスクの高まりや急速なデジタル化への対応が重視されるなかで、ITインフラが経営戦略において占める位置づけは年々重要性を増しています。加えて、企業の成長を下支えするだけでなく、新しいビジネスを創出する原動力としても、ITインフラへの投資が求められています。
今回は2025年4月15日に発表したIDC Japanの資料をもとに、国内ITインフラ支出動向の背景や概要、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。
変化するITインフラ投資の優先度
IDC Japanの調査結果によると、2025年の国内企業のITインフラ投資に期待するビジネス成果は、従業員の生産性向上、コスト削減、事業運営の効率化が上位を占めています。これらは2024年の順位と変わりませんが、新たに注目度が高まったのはビジネスリスクの軽減やビジネスレジリエンシーの改善です。
これは地政学リスクの顕在化や国内外の経済環境に起因する不確実性を受け、ITインフラそのものを柔軟かつ堅牢に保つ必要が高まっていることの表れといえます。
また、サイバーセキュリティ対策の強化は2024年から変わらず最も重視されており、企業が安定した事業継続のために不可欠と判断していることがうかがえます。
生成AI導入とインフラ活用の多様化
AIの本格普及に向けて、企業が着目しているのがクラウドサービスを活用したアクセラレーター対応のITインフラです。生成AIのトレーニング用途では、パブリッククラウドを利用する意向が70.9%と最も高く、膨大な演算資源を短期間で調達できるクラウドの強みが評価されています。
一方、ファインチューニングや推論といった工程では専有型ITインフラやエッジを利用する意向も根強く、セキュリティやコストの見通しの明確さが重視されています。特に大容量データを扱う業務や、機密性の高いユースケースにおいては、データを外部に持ち出さずに済む専有型ITインフラやエッジが有力な選択肢となるようです。こうした使い分けが進むことで、ITインフラ構成の多様化がさらに加速していく見通しです。
仮想化環境刷新への意欲の高まり
2025年の調査では、仮想化環境の再検討や刷新を検討している回答者が75.5%に上りました。2024年と比較すると、ハイパーバイザーの変更計画や情報収集段階に入っている企業が増えている点が注目されます。一方で、パブリッククラウドへの移行を予定している企業は前回の調査よりも減少しており、全体の投資方針に変化が見られます。
背景には、仮想化環境をクラウドに全面移行するよりも、オンプレミスやマルチクラウドを組み合わせた形での最適化を図る動きがあるようです。また、回答者の81.5%は2年以内の刷新を計画しており、中長期的視点でレガシーシステムをモダナイズする姿勢がうかがえます。
今後の展望
今後はクラウド、オンプレミス、エッジなど多彩なインフラ環境を組み合わせて活用するマルチクラウド戦略がさらに進むことが予想されます。生成AIや機械学習の高度化に伴い、適切なコスト管理とデータの保全性を両立できるインフラ設計が重要となるでしょう。ITサプライヤーもクラウドとオンプレミスの連携を強化し、アプリケーションや運用管理を統合的に支援するサービスを拡充していくことが求められます。