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2030年、国内DX市場はどう変わるか――産業別最新動向と未来予測

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国内企業はインフレ圧力や人手不足、地政学リスクへの備えなど複合的な課題に直面し、競争優位の源泉を設備投資からデジタルへの転換へと急ピッチで切り替えています。

富士キメラ総研の最新調査によると、国内のDX関連投資額は2030年度に9兆2,666億円へ拡大し、2023年度比でほぼ2倍に到達する見通しです。製造業を筆頭に、交通/運輸/物流業や金融業が伸長をけん引し、AIエージェントやDX人材アセスメントといった新興領域も急速に市場を広げています。DXは部署単位の業務効率化を超え、サプライチェーン全体を再構築する鍵となっています。

今回は株式会社富士キメラ総研が2025年4月24日に発表した「2025 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編」の資料をもとに、国内DX投資の背景や業界別動向、今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

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出典:富士キメラ総研 2025 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望 市場編 2025.4

製造業:スマートファクトリーが競争軸を刷新

2024年度の製造業DX投資は前年度比22.2%増と加速し、2030年度には2兆9,843億円で2.4倍へ拡大する見込みです。半導体をはじめとする国内回帰投資が相次ぎ、生産計画・品質管理・保守をリアルタイムに最適化するスマートファクトリーが標準アーキテクチャとなりつつあります。

IoHで収集した作業者データと設備データを連携させることで、熟練技術の継承や安全管理を同時に実現し、サプライチェーン全体のリードタイム短縮とCO₂削減を両立するケースが増えています。投資の波は大企業だけでなく、OEMに納入する中堅部品メーカーにも広がっており、エコシステム型の成長が期待されます。

小売/外食業:現場DXとワークプレイスDXが両輪

人手不足が深刻な小売/外食業では、自動発注や需要予測、モバイルPOS、フルセルフレジなど現場DXが急伸しています。2024年度投資額は5,521億円(前年度比14.6%増)、2030年度には9,644億円(2.0倍)へ届く見通しです。加えて、本部と店舗をリアルタイムにつなぐデジタルワークプレイスの整備が従業員の定着率向上を下支えします。顧客の購買履歴を活用したパーソナライズ施策や、食品ロス削減を実現する需要同期型サプライチェーンも進展しており、店舗運営の生産性とサステナビリティを両立する投資が増えています。

交通/運輸/物流業:2024年問題を契機にデータ駆動へ

2024年に施行された労働時間規制の強化を受け、ドライバー業務効率化と倉庫自動化が急務となっています。物流倉庫ではAGVやロボティクスによるピッキング最適化、配送管理ではAIルーティングやリアルタイム動態管理が導入され、2024年度の投資額は前年度比10.2%増、2030年度には1兆1,095億円へ伸びる見通しです。中長期的には、ICカードやスマートタグから得られる顧客行動データを統合し、需要予測精度を高める試みが増えています。サプライチェーン全体を可視化し、運送・保管・販売を横断で最適化する仕組みが競争優位を左右する段階に入りました。

AIエージェント:自律業務の実証から普及フェーズへ

2024年度のAIエージェント市場は109億円規模ながら、LLMとRAGを組み合わせた製品が相次ぎ登場し、2030年度には1,408億円へ急拡大が予測されています。短期的には社内問い合わせやレポート自動生成といった限定用途での導入が中心ですが、2027年度頃からは複数業務を横断し部門横ぐしでプロセスを自律制御する事例が広がる見込みです。自律性の高さゆえに、業務フロー設計と責任範囲の明確化が成功の前提になります。

DX人材アセスメント:スキルの可視化が成長を促す

デジタルスキル標準が整備されたことを背景に、DX人材アセスメントサービスの利用が増えています。2024年度は15億円(前年度比36.4%増)ですが、2030年度には50億円と4.5倍へ膨張する見通しです。企業はeラーニングや研修に投じるだけでなく、実務に結びつくスキル取得状況を診断し、学習と配置を個別最適化する仕組みを求めています。市場参入が進むにつれ、アセスメント結果と人事評価・報酬を連動させる先進事例が増え、タレントマネジメント全体の再設計が進む可能性があります。

今後の展望

2030年度に向けたDX市場の拡大は、単なるIT導入額の増加というより、ビジネスモデルそのものを組み替える動きへと進化しつつあります。

製造業ではエッジAIと5G/ローカル5Gを組み合わせ、製造ラインをリアルタイムに再構成する「動的工場」が現実味を帯びています。流通・物流分野では、需要予測と配送計画を統合したデジタルツインが普及し、空車率の最小化とCO₂排出削減がトレードオフではなく同時達成の目標になります。

AIエージェントが多階層の業務を自律連携する時代には、個社最適から業界全体の共通基盤づくりが加速し、プラットフォーム間競争の様相が様変わりする可能性があります。成功の鍵はデータガバナンスとサイバーセキュリティを両立させる設計思想にあり、企業は先行投資を恐れずオープンな協働体制を築けるかどうかが試されるところです。

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