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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウドのデータ保存先(海外)の是非は、利用者視点か日本の国力の視点で見るべきか

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クラウドコンピューティングの特徴として、場所を気にせず、最新のサービスを必要なときに必要な分だけ利用できるというメリットがありますが、最近では、データの保存先が議論となっています。

クラウドコンピューティングは利用ユーザの視点で見た場合、利用者のニーズにあったサービスを利用することが一番重要なポイントであり、場所にはこだわる必要はないという意見は多くあります。私自身も個人的にGmailなどの海外に保存しているクラウドサービスを利用していますが、特に保存先を気にしたことはなく、快適にサービスを利用しています。

S&Jコンサルティング 代表取締役 三輪信雄氏の日経PCに「「クラウドは国内がいい」は本当か?(2010.11.4)」という興味深い記事がありました。要約すると、

情報が海外に保存されることは、現地の法執行機関に検閲する可能性はあるものの、暗号技術などでセキュリティは解決されるものであり、安価にサービスを利用することができ、データを分散し冗長性をもたせれば、障害や防災の観点から優位である。そのため、国内だけでなく海外のクラウドシステムを利用するということも完全に除外せずに視野に入れておくことも必要である。

といった趣旨の指摘をされています。

企業ユーザにとっては、安価でかつ高機能で利用価値の高いサービスを利用し、かつ安全性や信頼性が技術的に解決できるのであれば、トレードオフは考慮する必要はあるものの、相対的に企業経営にとってプラスになる選択肢をとるのではないかと考えられます。企業が市場競争の中で勝ち残っていくためには、自社が競争優位に立つための情報戦略と最適な投資は重要だと考えます。

日本経済新聞の社説(2010.10.26)に興味深い記事がありました。その一部をご紹介しましょう。

グローバル化した経済の元で企業にとって最適な経営は、日本国民の雇用を脅かす結果となりうる。(中略)企業の成長が国民の反映に自動的につながらない時代の到来に、政治家は対応を急ぐべきである。

企業ユーザが、クラウドサービスを利用し、効率的な企業経営をしていけば、企業の収益には大きく貢献することが考えられます。しかし、国民の反映に自動的につながるかどうかは、議論が必要となるでしょう。

総務省が公表した資料によると、海外発のトラフィックの割合は、2004年の18.6%と比べ、2009年は44.1%まで急上昇しています。おそらく、近々に50%を超えることになるでしょう。仮に安全保障の問題はセキュリティ技術の進歩などで解決できるとしても、情報の空洞化がさらに進むことは否定できせん。

かつて、日本の東京証券取引所はニューヨーク証券取引所などと並び世界をリードする金融取引市場でした。今は、シンガポールをはじめ、アジアの有力な証券取引所にリードされている状況となっており、日本の金融の空洞化が、日本の国力を落としていると考えることもできるのかもしれません。

例えばデータセンターの国内立地推進は、雇用を生み出さないという議論もありますが、情報の取引と流通が日本国内で減少し「情報の空洞化」が進むことになれば、日本の情報産業の衰退とともに、産業全体に悪影響を及ぼし、雇用にも影響を与えることになるのかもしれません。日本経済新聞の社説にあったように「企業の成長が国民の反映につながらない」といったことも懸念されます。

政府はデータセンターの国内立地推進や、制度整備、標準化、アジア展開など、様々なクラウド関連の施策を展開または検討しています。シンガポール政府をはじめ、新しい産業の創出という観点から、クラウドに関して戦略的な対応を進めている国が顕著になってきています。日本がアジアの中の「安全な情報の取引所」、つまりアジアのハブとなるためには、規制緩和などの政策的な対応や、産官学一体となったオールジャパン的な対応も急務となっているのではないかと感じています。

クラウドは大前提として、利用ユーザの視点が最も重要ですが、日本の将来も考慮した産業全体の視点とのバランスが重要となってきているのかもしれません。

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