オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

NGNへの期待と普及に向けた道のり

»

NGNが3月末から商用サービス開始となりました。サービス自体はスモールスタートですので、NGNもそれほど話題に上らず、IT業界以外の方はあまりぴんとこないのが実状ではないかと思います。

先月、ITproが「NGNに対する意識調査」を公表しました。アンケートの対象は、ITベンダ(30.7%)、通信事業者(16.2%)、ユーザ企業の情報システム担当(18.6%)、その他(34.5%)となっており、日ごろからIT関連の業務に携わっている方が高い比率を占めています。

その中で「NGNに期待する技術」の上位(全体)は、

  • 通信帯域保証(QOS) :71.4%
  • 従来よりも高い信頼性の高い通信:56.0%
  • 携帯電話と固定電話の連携:40.4%
  • 回線認証:38.3%

そして「NGNに期待するサービス」の上位(全体)は、

  • 通信速度を保証するQoS付きの通信サービス:56.5%
  • 高解像度の映像配信サービス:54.7%
  • 従来よりセキュリティを高めた通信サービス:54.2%
  • 従来より安定性やセキュリティを高めたSaaSやASPサービス:43.7%

また、「NGN利用上でネックとなる」と考えられる(全体)のは、

  • 利用料金:65.5%
  • ほかの通信事業者やISPとの接続状況:49.6%
  • ネットワーク切り替え作業や移行コスト:48.6%
  • サービス提供エリアの広さ:43.2%
  • NGN上で提供されるSaaSやASPサービスの充実度:32.8%

となっています。

これからのアンケート結果を見る限り、やはり通信帯域保証とセキュリティの高いサービスへの期待が伺えますが、利用料金やISPへの接続そして移行コストなどにハードルが高いと感じるケースも多いようです。

以前、「SaaS普及の鍵はNGN?」の中でNGN上でのSaaS普及の可能性を書かせていただきましたが、アンケートの結果を見る限りでは、「NGN上で提供されるSaaSやASPサービスの充実度」に対して通信事業者は45.3%と高い数値です。しかし、ユーザ企業の情報システム担当者は29.2%と、そのギャップが大きいことがわかります。

以上のことを考えるとNGNの当面の利用は、高品質の映像コミュニケーションやセキュリティの高いことが求められるケースで利用されることが多いと考えられます。一方でネットワークの移行がおおがかりになる企業のネットワーク分野での利用においては、まだまだ時間がかかるのではないかと考えています。

「スモールスタート」したNGNを企業はどう使う?」(ITmedia エンタープライズ)の記事の中には、

ユーザー企業がNGNを利用する場合には、当面の間は、インターネット回線では実現できない通信品質を確保した拠点間での接続やテレワーク、テレビ会議などのシステムの利用が主となるだろう

と書かれています。

テレワークの場合は、たとえばシンクライアントを組み合わせ、セキュアでかつ安定した通信環境下での利用が期待されます。政府がテレワーク人口を現在の1割から2割まで増やしていくという方針をたてていることを考えれば、テレワーク+NGNの可能性は十分考えられるでしょう。ただし、自分自身がシンクライアントを使って利用している立場になって考えてみると、自宅をNGNにしてテレワークを利用するとなると少し時間が必要ではないかと感じています。

そして、テレビ会議についても、企業で現状テレビ会議を頻繁に利用することも業種や業界や利用シーンにもよりますが、それほど多いとは考えにくく、NGNに切り替えてまで利用する価値があるかというとやや疑問が残るところもあります。

同じく、「「スモールスタート」したNGNを企業はどう使う?」の中には、

また、NGNならではの高いセキュリティを利用したサービスにSaaSやASPサービス、プレゼンス(状態)情報と連動した固定電話と携帯電話、電子メールなどの複合サービス(ユニファイドコミュニケーション)などがある。これらに加え、無線ネットワーク(携帯電話)まで含めたオールIP化が実現してパソコン、携帯双方でのシームレスな利用ができるようになれば、インターネット上で提供される同種のサービスとの違いを示しやすく、利用メリットが生まれるだろう。

と書かれています。

これはリリース3の実現イメージでNGNのメリットを享受できる部分も多々あるかと思います。しかしながら、ユニファイドコミュニケーションも既にIPセントレックスや既存のIPテレフォニーの技術で実現できているところであり、特に大手企業がネットワークのシステムを更改するまでのプロセスを考えると時間を要すことが予想されます。

やはり、企業にNGNが本格的に普及するには数年程度の期間が必要とされるのでしょうか?

 

企業よりも個人

NGNが普及にあたってのトリガーとなるのは、やはり、コンシューマ市場であると考えています。フレッツ光等による家庭のブロードバンド化が進み、YouTube等の動画投稿共有サイトやセカンドライフに代表される仮想空間等の利用も進んでいます。今は、コンシューマユーザのほうが制約も少なくITに関してはチャレンジャーとしていろいろ利用することができるでしょう。また、IPTVも制度面でまだまだ整理が必要ですが、軌道にのれば、コンシューマ市場での利用も増えてくることが予想されます。

まず、コンシューマユーザーがNGNのメリットを感じ、企業にも適用できないかと考え始めるきっかけを作っていくことが先決でしょう。

これまで、「産消逆転現象」や「コンシューマITのビジネスへの活用」等がここ数年話題となりました。Web2.0の思想と技術を企業の情報システムに利用するエンタープライズ2.0もその流れの一つでしょう。NGNにおいても同様に、コンシューマの中で評価を受けたものが、企業の情報システムに展開されていくことが考えられます。

 

個人から公共分野

そして、個人での利用が進めば、企業分野というステップとなることが考えられますが、その前に公共分野での利用が考えられるでしょう。

自治体に関しては、財政的に厳しいところも多く、自治体単独で新しくIT投資をしていくことはなかなか厳しいのが現状です。電子申請等世界と比べても日本の公共分野でのICTの活用が遅れていることを考えると、財政は厳しいながらもICTの利活用による業務の効率化は重要となってくるでしょう。

また、医療分野でも医師不足の解消や遠隔医療や地域連携の推進を考えると、患者が自分の健康情報等にアクセスできる環境整備が期待されます。患者情報は機微(センシティブ)情報を多く含んでいますが、NGNのセキュリティ高い、高品質なネットワークを利用すれば、そのリスクも軽減されることが期待されます。

そして、教育分野でも校務システムや学務システム、そして学校裏サイトや有害サイトの対策、各教室へのIPTVによる地上派デジタル放送のIP再送信等への活用が期待されます。

つまり、公共分野においては、実証実験での検証や政府のICTの推進政策等によって、より安全で効率的な公共分野のICT環境を構築していく機運が高まっていくことが期待されます。

 

そして中小企業から大企業へ

コンシューマITでの検証、そして公共分野でのICTの利活用が高まる中で、次に企業におけるネットワークシステムの更改意欲が高まってくることが予想されます。大企業よりもむしろ中小企業からIPテレフォニー分野を中心に普及が始まるでしょう。現在、企業のネットワークや専用線やIP-VPN、広域イーサーネットそしてインターネットVPN等、様々な企業ネットワークが利用されていますが、通信事業者などがNGNをラインナップに含めた企業向けネットワークサービスを提供していくことによって、次第にNGNに置き換わっていくのではないかと考えています。

 

以上、NGNへの期待する技術やサービスを少し整理しつつ、適用分野はどこなのか、また普及に向けてのプロセスを少し考えてみました。あくまでも私案なのでどの程度あてはまるのか確かではありませんが、分野ごとに普及度合いに差が出てくることは確かであると考えられます。

NGNが本格的に普及するのは2010年ごろという言葉がよく言われています。普及にはリリース1から3までのステップがあるので、その動向を見ながら普及を考えていくというのが一般的かもしれません。しかし、もう少し業界・分野等を紐解きながらユーザのニーズ思考で考えていくと、NGN普及へのヒントが見えてくるのかもしれません。



Comment(0)