【2.86倍】 新卒者内定取り消し報道を機に、その意味を考えてみる(前編)
山口さん、大木さんが新卒者の採用内定取り消しについてエントリーされています。なぜ内定取り消しがおきてしまうのか。この背景にあるものは何なのか。今回、私なりに考えてみることにします。
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少し振りかぶった話になりますが、新卒学生の採用については、バブル期までと崩壊後で環境が様変わりしていますので、そこから考えてみる必要があると思います。
まず1980年代後半からバブル期までは、需要と供給の関係でみれば、「採用したい企業側のニーズ(需要)>就職したい学生のニーズ(供給)」でしたので、企業は激しい採用競争を展開し、優秀な学生の採用に力と時間と金を注ぎました。当時は就職協定なる紳士協定があり、10月1日の解禁日までは、採用活動はしてはいけないことになっていました。しかしながらこれは表向きな話で、実質的にはこの解禁日までに、企業は優秀な学生を絞り込み、内々定者を確保。そして10月1日に公式な会社説明会を開いて、内々定者を呼び出し、拘束するというのが実態でした。
特に競争が過熱化したバブル期は、10月1日の解禁日、内々定者に逃げられないように、某生命保険会社が内々定者をハワイ(研修?)旅行に連れ出して拘束したという逸話が残っています。つまり、この頃までは、優秀な学生ほど内々定を複数獲得し、その中から意中の1社を決定。10月1日、その企業の会社説明会に出席し、「御社に決めました!」と意思表示をするわけです。逆に、意中から漏れた企業には、内々定辞退となります。こうして企業は10月1日になってはじめて、最終的な内定者が確定するというのが流れでした。
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このように、企業にとって新卒学生の採用活動は年に1回の定例行事で、不定期・随時行う中途採用とは明確に目的と手法を分けていました。つまり、
- 中途者=即戦力採用、スポット的なニーズに対応、随時採用随時配属
- 新卒者=将来戦力採用、4月入社で計画的に育成
といった図式です。企業にとって新卒内定者は、膨大な資金と手間をかけて獲得した貴重な人的資産。採用内定取り消しなど、ほとんどありませんでした。また、仮に内定者取り消しを行うと、次年度の新卒採用に悪影響が出る懸念があります。売り手市場の時代に、学生や大学を敵に回すようなことをしたら、それこそ次年度に大きな影響を残しかねません。この点も大きな抑止力となっていたはずです。
ちなみにバブル期ころの大卒求人倍率は、1989年~1991年卒者で2.68倍~【2.86倍】(リクルートワークス研究所調べ)となっており、大学生1人に対して3社弱が求人しているという状況でした。同時期の職安(現在のハローワーク)ベースの有効求人倍率(厚生労働省発表)と比較すると、約2倍の倍率となっており、いかに新卒採用が加熱していたかが判ります。国公立大学や有名私立大学、中でも体育会系という“肩書き”は高値で売れたといい、学生は内々定の社数を競ったり、その顔ぶれを自慢しあったりする光景が散見されました。需要と供給の関係、といってしまえばそれまでですが、売り手市場強しといった時代でしたね。
ということで、長くなりましたので、ここで前編終了。続きは次回に。えっ? オチがないって? たまにはちゃんとマジメに書きますよ、私も。。。