【948,000人】 新卒者内定取り消し報道を機に、その意味を考えてみる(後編)
前回、前々回と、新卒採用の動向を時系列に辿りながら、その意味を考えてきました。今回はその最終回です。
先回までに、バブル崩壊を経て、人材採用全体が大きく変化してきた様を紹介しました。企業の採用戦略は昨今、中途採用と新卒採用、もっといえばアルバイト・パートや派遣社員・嘱託社員などの流動的人材採用を渾然一体として考えるようになっています。形骸化が指摘されていた就職協定が廃止されたのが1996年のこと。2006~2008年頃は、景気の持ち直しから、新卒者採用のニーズも徐々に高まり、求人倍率もバブル期並みにまで上がってきましたが、それでも企業は、バブル期の苦い経験から、基準を大幅に下げたり、内定者を量産するようなことは、一部の企業を除いて、多くありませんでした。
この背景には、もし新卒者が採用できなければ、中途採用者や流動的人材活用を増やして調整するという思惑が見て取れます。この辺りが、バブル期との大きな違いなのかもしれません。ですから、大量に内定者を確保して、都合が悪くなれば内定取り消しを行うという事例は、ここ最近までも目立ちませんでした。一方で学生の側は、一部の重複内定保有者が、意中の企業を決定すると内定を辞退するといった状況は相変わらず存在。これにより一部の企業は、採用戦略を見直さざるを得なくなったりしていました。
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こうして考えてみると、昨今話題になっている採用内定取り消しが、いかに異常な事態かわかります。そもそも内定を取り消すという行為が企業に与えるマイナスは、相当に大きいのです。特に次年度以降の採用活動への悪影響が懸念されます。学生や大学から「あの企業は内定を出しても取り消されるかもしれないから」と敬遠される可能性があります。またマスコミ報道で取り上げられたりすれば、企業イメージを損なうことにもつながりかねません。さらに民事訴訟などに出られるリスクさえあります。そうした多数のマイナスを覚悟してまで、内定取り消しを行ったとすれば、経営環境の悪化がかなり深刻なものであると考えざるを得ません。
ちなみに2009年卒予定者に対する求人倍率は2.14倍と大変高い数値を示しており、求人総数は過去最高の【948,000人】(いずれも数値はリクルートワークス研究所調べ)を予定していたのです。つまり、企業の当初計画では、求人意欲は大変高かったわけです。にも拘わらず、内定取り消しが起こってしまっているのは、景況感→実体経済→個別企業の業績が、予想を超えて急激に悪化してしまったことを裏付けていると推測できます。
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さらに、懸念する点があります。これまで半ばタブーに近かった採用内定取り消しが、堰を切ったように出始めると、「とりあえず内定を出しておいて、都合が悪くなったら内定取り消しすれば」的な流れが起こらないとも限りません。金融不安、円高、株価下落など、マイナス材料を挙げるに困らないような経営環境下、企業が内定取り消しを行う際の理由付けはいくらでもできるような状況にあるからこそ、不安は消せないのです。
もし、もしも企業の内定取り消しが増えてしまうと、一部学生の重複内定と掛け合わせて考えれば、企業側・学生側の双方に不信感が生じ、腹の探り合いや駆け引きが増加して、泥沼化する危惧をはらんでいます。ちょっと考え過ぎかもしれませんが、不安はぬぐえません。大学の就職指導部署では、学生の内定取り消し被害の実態把握に力を注ぎだしていると聞きますし、厚労省も、職業安定法施行規則を持ち出して企業に警告を発し、今後の動向次第で、指導や規制強化に乗り出す構えを見せています。事態がエスカレートすると、無意味な対立を招き得ない状況ともいえ、楽観視はできません。
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以上、3回に渡って長々と書いてきました。私の大ざっぱな分析がどこまで正しいのか、甚だ自信に欠ける部分もあります。特に、過去と現状を見ただけで、じゃぁこの先どうすればいいか、という肝心なメッセージを発していないという点に、力不足を感じます。今回は整理するに留まりますが、近い将来に、何らかの提案ができるよう再考してみたいと思います。。。