【0.99倍】 新卒者内定取り消し報道を機に、その意味を考えてみる(中編)
新卒者の内定取り消しがニュースで話題に上っています。その背景に何があるのか、前回に引き続いて考えてみます。
売り手市場で学生優位だったバブル期。ところが、バブル崩壊で企業環境は激変。採用環境も絵に描いたように反転します。企業は採用どころか、リストラを余儀なくされ、新卒採用についても凍結する企業が続出。受領と供給の関係は180度変化して逆転し、特に1990年代後半~2000年代前半には、いわゆる就職氷河期が到来します。企業は、少ない採用枠に対して厳選採用を展開。新卒者に対する採用基準のバーを引き上げ、出身大学や所属クラブといった表面的な採用基準から、実質的な能力(取得した資格や経験、保有能力、習得知識など)を求めるようになります。
折しもインターネットの普及期と相まって、学生は応募したい企業に対してまずエントリーシートの提出が求められ、学生は何枚ものエントリーシートを書いては応募することを繰り返しました。それでも内定がもらえない学生が量産される結果となり、この頃から、就職できない学生が社会にあふれます。フリーターに続き、ニートという言葉が誕生したのもこのころのことです。
当時の大卒求人倍率は、第一次氷河期の1995年卒者で1.20倍、1996年卒者で1.08倍。第二次氷河期の2000年卒者で【0.99倍】と、ついに初めて1倍を割り込むことになります(数値はいずれもリクルートワークス研究所調べ)。つまり、すべての就職希望学生が選り好みせずに就職したとしても、全員分の採用枠がないということです。
ここでちょっと思い出していただきたいのですが、当時、新卒者の内定取り消しがニュースになった記憶がありますか? 数値的な記録が残っているわけではありませんが、バブル崩壊後、企業にとっては試練の時代でも、採用数そのものを絞り込んで厳選採用を行っていますから、結果的に獲得した学生は、それこそ選りすぐりの貴重な戦力。倒産などの特別な状況にならない限り、企業側の都合で内定取り消しを行った例は非常に少なかったと思います。
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さて、こうした新卒採用の様変わりは、実は企業の人材戦略全体の変化を見渡してみると、もっとよく判ります。新卒者の枠を絞り込むと同時に、採用基準を引き上げることで、企業は新卒者にも即戦力的な活用方法を適用しはじめます。これまで新卒者は、4月に入社し、長い研修期間後に正式配属していたのを、入社後早々に現場配属して、短期の集合研修後はすぐにOJTということで送り出すようになります。また同時に、世の中にあふれたフリーターやニートといった人材を、非正規雇用者として積極的に活用し始めるのもこの頃。今やどこの企業にも、少ない正社員に、アルバイトやパート、派遣社員や嘱託社員などが混在していますが、こうしたスタイルができあがったのは、ちょうど新卒氷河期と同じ頃のことです。
以上、バブル期までとバブル崩壊後の2回に分けて、新卒採用の動向を振り返りつつ、その背景にあるものを眺めてきました。次回は最近の採用動向に目をやりつつ、これまでとの違いを考えてみたいと思います。