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「歴史から明日を読む」をモットーに、ITと制度に関する話題をお届けします

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2005年10月25日の投稿

2005年11月1日 »

2004年10月23日の新潟県中越地震から1年経ち、ここ数日間、新聞やテレビは被災地の復興状況や追悼集会のもようを伝えている。

1995年1月17日の阪神淡路大震災のときは、救援・復興活動を支援する情報交換・情報共有の場をネットワーク上に構築するため、慶應大学の金子郁容教授を中心とする「インターVネット」プロジェクトが発足した。わたしはニフティサーブに接続した自宅の古いMS-DOSパソコンから、その情報にアクセスした記憶がある。

あれから10年経って、中越地震の復興活動でも同じ目的でさまざまな取り組みがあるようだ。新潟県はホームページで「新潟県中越大震災に関する情報」を掲載している。

昨日の日本経済新聞によると、もともとは地域のIT支援を目的に発足したNPO法人「ながおか生活情報交流ねっと」が災害情報を発信するブログを作成したという。さっそく「長岡地域のろーかる情報交流サイト」にアクセスしてみると、震災復興ブログのひとつとして運営されている「山古志災害ボランティアセンター」のページには、1周年たった被災地の様子を伝える文章や写真が掲載されていた。たぶんいま当地で咲きほこっているのだろう、とても美しい草花の写真を見ることもできる。また、「災害体験・意見ブログ」も開設されていて、今後の復興に役立つ情報交換だけでなく、過去の震災の記録を残すという姿勢も感じられた。

ブログだけでなく地理情報システム(GIS)も活用されている。「新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクト」のサイトでは、地図や衛星画像の上に土砂災害発生箇所や下水道被害箇所、道路通行止めなどの情報が重ねられていて、ビジュアルな画面で災害情報を共有できるように工夫されている。サイトには「GISを用いて被災状況やライフライン復旧情報などを一元的にデジタルマップ上に集約し、住民やボランティア団体、防災関係機関等の間での情報共有を図るためのプロジェクト」という主旨の説明があり、産官学連携で推進されているようだ。

災害対策こそITを活用した産官学連携が重要だ。

こう主張すると、何を今さら当たり前のことを感じる人が多いだろう。しかし、このような意識はたかだかこの10年間で徐々に浸透してきたにすぎず、防災や災害復興でいかにITを活用してどのような協力体制をつくるかは、現実にはまだ試行錯誤の段階にあるような気がする。

わたし自身、自然災害を身近なものと感じるようになったのはつい最近のことだ。とくに阪神淡路大震災を経験した友人の話を聞くまでは、よほど運が悪くない限り人生で遭遇しないだろう程度のお粗末な認識しか持っていなかった。

産官学連携というと、国の情報政策では先端的な研究や技術開発の共同プロジェクトが中心となってきたが、むろんそのようなタイプのものではない。地域情報化の実験的プロジェクトともちょっと違う。

わたしがイメージしているのは、そうした何か新しいものを創りだす試みなのではなく、もっと日常的な活動の延長線上で企業と役所と学校が緊急時に連携がとれないかというものだ。

漠然とそんな考えを持つようになったのは、阪神淡路大震災の数か月後に大手ITベンダーの地震時の取り組みを取材した経験からだった。

たとえば、日本IBM川崎サポートセンターでは、1月17日午前5時46分に地震が発生すると、わずか1分後に異常を感知して調査を始めていた。サポートセンターは多くの顧客企業のコンピュータを24時間オンラインで遠隔監視している。そのため、神戸地区で集中してシステム障害が発生すれば、異常をいち早く察知できるわけだ。当時の資料を見ると、日本IBMの社内では午前7時に社長へ連絡が入ると同時に「お客様対策チーム」が発足し、午前9時25分には対策本部が設置されて被災地域向けに救援物資手配の指示が出されたことがわかる。

その日、わたしは朝からテレビに釘付けになっていた。それでも午前中は被害の全体像を把握できなかった記憶があるので、日本IBMの初動体制はとても早かったといえるだろう。おそらく、同社以外のITベンダーも遠隔監視センターで異常を検知していたに違いない。

もし、コンピュータの障害情報を地震の震度や規模の把握に結びつけることができるならば、もっと早く被害の大きさを推定でき、救援体制の初動に役立ったのではないだろうか。

テレビを見ていてわかったことは、被害が大きい地域ほど情報が遅れるという事実だった。住民の犠牲も多いうえ、通信網は途絶し、地震計などの計器も故障するので、地震直後は情報の空白地になる。だから、コンピュータの遠隔監視センターの情報が役立つのではないか、とすればその情報を顧客と従業員のためだけではなくもっと公共的に相互に活用する方法はないものだろうか、と思ったのだ。

これは素人考えにすぎないかもしれない。あるいは10年経って、どこかで似たような試みがあるのかもしれない。

いずれにしても、企業の日常業務を少し延長するという同じような発想から、災害時に役立つ活動は他にもかなりありそうな気がする。

すでに、通信網の確保では住民、自治体、通信事業者が協力して、無線LANなどを活用したアドホックな通信の可能性についても検討が行われているようだ。地域に密着したコンビニエンスストア、郵便局、小中学校などを防災拠点と位置づけるというアイデアを聞いたこともある。物資の備蓄だけでなく、おそらく今後は情報収集・発信の拠点ともなっていくのだろう。

物流面では地元の地理にいちばん詳しい宅配便やタクシー会社が力強い協力者になってくれればありがたい。彼らは、人の移動や物の運送だけでなく、衛星を使ったカーナビシステムを活用することで災害情報発信局としての役割を担う可能性もある。

緊急時にしか使わないような特別な機器や手段は、うまく稼動しなかったり、あわてて使えなかったりすることもあるだろう。それを補完する意味でも、日常的な活動の延長線上で災害時の産官学の組織的な連携体制を見直してみることが大切だと考えている。

suna

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砂田 薫

砂田 薫

情報社会学の専門研究所、国際大学グローバル・ コミュニケーション・ センター(GLOCOM)の主任研究員です。
「情報政策の国際比較」「グローバル化とIT産業」に興味があります。

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