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モバイルシフトとソーシャル化によって変化するネットの世界を、読者と一緒に探検するBlogです。

« 2010年2月13日

2010年2月14日の投稿

2010年2月15日 »
僕は寄付請求のたぐいはいっさい信用しないというか、どう使われるか分からないお金を支払うのがイヤなので、これまでは基本的に無視してきた。
しかし、2年ほど前から実は「国境なき医師団」に寄付をしている。金額は微々たるものだ。一日50円、つまり月間で1500円に過ぎないので、特に誇れるようなものでもない。

とはいえゼロから50円/日の寄付に至ったのには理由がある。それは「国境なき医師団」が行っているメソッド(少なくとも一般に公開したマーケッティングメッセージ)が素晴らしかったからだ。

彼らの主張はこうだった。
・世界には貧困と迫害に苦しむ小国や民族がまだまだ多い。
・その多くは先進国にとっての市場性もないし資源もないから、欧米諸国のメディアにも載らないことが多い。
だから自分たちの力で支援を続けているし、ボランティアのバックアップが欲しい、というわけだ。

そして、多くの同様の支援団体と異なり、彼らのメソッドが効果的・効率的であることを訴える。それはこうだ。
・貧困に苦しむ第三国の病人の多くは、栄養失調さえ改善すれば助かることが多い。
・栄養失調は死因の20%かもしれないが、その20%が病気の原因の80%を占めるといっていい。
・だから彼らはまず栄養失調を改善するための(栄養価の高い)食料を直接病人達に届けるようにしている。
・食器も調理用具もない貧民のために、食料は手でも簡単に空けられる缶詰のみ。
・そしてその缶詰の中身はピーナッツバターに似たもので、指先ですくって食べることができる。
・この食事を与えた病人達の多くが栄養失調から回復している。

僕はこのプレゼンテーションに感動して即座に寄付に応じた。
同じような行動をした人も多いだろう。

いまなぜこのエントリーをしているかというと、二つの理由のためだ。。一つは寄付して3年目の今、「国境なき医師団」から来たダイレクトメールに再び感動したことを伝えるため、もう一つはマーケティングの在り方を論じるためだ。

ダイレクトメールには、これまでの寄付に関する謝意と、もう少し額を増やすことへの依頼があった。これだけならたいした意味はないが、その内容が具体的かつ心を揺さぶるものだった。
ダイレクトメールは、これまでの寄付額で、どれだけの食料を与え、それが結果的に何人を救うことができたかを数字で記してあり、さらにあと300円寄付額を増やすと同じ年月で、あと何人を救うことができるかを明示してあったのだ。もちろんその内容は個々の寄付者の金額に応じて自動的に作成するようになってはいるだろう。しかし、それでも、そこに記載されているのは確かに僕が寄付した金額であり、僕のささやかな善意が彼らの努力によって形になったことを明確に知らせてくれているものだ。人のカネではない、僕のカネの成果があったことを教えてくれているのである。


思うに、「国境なき医師団」には卓越したマーケティング専門家がいるに違いない。彼らが寄付を募る技術、支援者をエンカレッジする仕組みは素晴らしいのひと言であり、相当綿密に計画されたものだ。(もちろんその後ろに 自己犠牲をいとわない彼らの高尚な精神があることは言うまでもない)

ただ間違ってはいけないのは、彼らは寄付を集めるためにマーケティングを行っているわけではないということだ。
集めたお金を使って貧困の中で希望を持てずに死んでいく病人達を救うことが目的だ。

そのために、僕のように他の支援団体には寄付したことがない、一種疑い深い人間ともコミュニケーションをとらねばならないし、もしくは他の団体に寄付するのではなく、「国境なき医師団」に寄付をしてもらうようにマインドシフトしてもらわねばならない。

つまり、自分たちの活動が、他の団体よりも効果的かつ効率的であることを正確に伝え、事実として広める必要がある。それがマーケティングを行うということなのである。

宗教団体も同じだ。神を信じるという、信心深い人を増やすのではなく、自分たちの教義を信じてもらわねばならない。神父は仏教ではなくキリスト教を信じてもらわねばならない。いや、同じキリスト教でもプロテスタントではなくカトリックに入信してもらわねばバチカンは困るのである。信者が増えねば信仰を広めることはできない。だから神を信じよではなく、自分たちの神と他団体の神の違いを伝えなくてはならない。

選挙も同じだ。同じ民主党内でもヒラリーではなくオバマに献金してもらわねばならない。良い政治を行うというメッセージは同じだが、どっちがいいかを決めてもらうために差異を主張する。
商品も同じだ。Nexus Oneを買う人はiPhoneは使わない。二台持ちにしても用途が完全にかぶるからだ。どっちがいいかを決めてもらわねばならない。
Yahoo!で検索する人は(検索結果を比べるという用途がない限り)Googleは使わない。

どんな場合でも競争が生まれる。その理想を実現するためには競争に勝たねばならない。
事業仕分け問題のときに蓮舫議員はスーパーコンピュータ開発に対して「二番じゃダメなのか」とおっしゃったが、ダメではないが二番を狙えるなら最初から一番を狙わない理由はないだろう。


「国境なき医師団」は人道団体であり、救った人の人数を他の団体と競い合っているわけではない。
しかし、自分たちのメソッドが より多くの人を救えると信じているからこそ、参加する医師やスタッフは「国境なき医師団」を選んで参加している。そうした医師らボランティアを集めるためにも「国境なき医師団」は、自分たちが理想に殉ずる信念と、より多くの成果をあげることができるシステムを持っていることを訴求しなければならない。

マーケティングは、競合相手よりも自分たちを優位な立場に置くための戦略行動である。
マーケティング自体にはいいも悪いもない。単純に競争に勝つための技術と実践に過ぎないからだ。
国家が戦えばそれは戦争だし、企業が市場を争えばそれがマーケティングだ。本質は同じである。

違うのは目的だ。
単なる野望や権力欲のために戦争を行うことは悪だが、心優しい人達を守るための戦争は必要悪だろう。しかし目的や心持ちが崇高ではない人間が軍事的才能や資源に恵まれてしまうこともよくあることだ。
単に金儲けを企む人間が卓越なマーケティングを行える場合ももちろんある。高尚な理想の実現に燃える人間がへたくそなマーケティングによって失敗することもある。
重要なことは、マーケティングは競争に勝つための技術や実践のことであって、それ自体を理想的な観念で語るべきではない、ということだ。

「国境なき医師団」や2008年米国大統領選挙でのオバマ陣営のマーケティングは本当に素晴らしい。
しかし、同時に同じような戦略や戦術を採用して悪事を成す団体もいる。マーケティングは単なる技術とその実践だ。
(スターウォーズの)フォースもダークサイドとジェダイのそれは本質的には同じで、フォースもマーケティングも、それ自体に善悪はなく、その使い道に善悪があるだけなのである。














hiro

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プロフィール

小川 浩

小川 浩

株式会社リボルバー ファウンダー兼CEO。ソーシャルプランナーユニット「オガワカズヒロ」のクリエイティブディレクター。著書に「Web2.0Book」「仕事で使える!Facebook超入門」「ソーシャルメディアマーケティング」「アップルvsグーグル」など。

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