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最近「市場は対話である」あるいは「市場はカンバセーションである」という記述をよく目にします。昨日の「ツイッターノミクス」にもそう書いてありました。

 だが、インターネットがすべてを変えた、とクルートレイン宣言は指摘する。宣言の中では、オンラインの新しい法則として九五カ条が掲げられている。その冒頭に置かれ、たびたび引用されるのが、「市場は対話である」(Markets are conversations.)という一文である。
 好むと好まざるとにかかわらず、オンライン・コミュニティは対話であふれている。さまざまなメディアを使って発言できるようになると、人々は作られた広告を無視するようになった。インターネットは、小さなささやきを何千倍、何万倍にも増幅する強力なクチコミ製造メディアとみなすことができる。かつて企業が「大声でわめく」ために持っていたメガホンは、いまや顧客の側にある。


「市場は対話である」とは、どういうことでしょうか?

具体的にイメージするには、以前、小林啓倫さんがClay Shirkyの"Here Comes Everybody"という本を紹介した投稿の中でリンクしていたClay Shirkyの講演に登場する1枚のスライドを参照するのがよいでしょう。この講演は、かの世界中のイノベーターの英知が集合するカンファレンス、TEDで行われたものです。

Clayshirky


この絵の真ん中にある網みたいなものは、社会ネットワーク分析で言うソーシャルグラフでもって、無数のノード(人)の関係を図示したものです。おそらく、日本のインターネットユーザー全員をソーシャルグラフでマッピングすると、これに近いビジュアルになるでしょう。
ここでは、無数の人が関係を持ちながら、何らかの情報のやり取りをしている様が伺われます。

何の情報か?

昨日昼に食べたかき天丼がうまかった
「capsuleの新しいCD、いいよ」
「後藤たくひろさんのイベントに行ってみようよ」
「Xperia買おうかどうか迷っている」
「今度のゴールデンウィーク、どこ行く?」
「うまい焼肉食いてー」

といった内容が、おそらく、かなりな割合を占めているはずです。少なくとも3~4割は。

こういう直接的間接的に消費に結びつく内容の対話。Twitterでもその種の対話が無数に行われています。

例えば、桃ラー(桃屋が最近発売した「辛そうで辛くない少し辛いラー油」)。
例えば、チーザ(グリコのチーズ系のおつまみ)。

こういう形で特定の商品に関する対話が行われている。すると、この対話を読んだ人が「オレ、どうしても桃ラー欲しい!」となったり、「桃ラー売り切れかよ!ヤフオクで探してみようか…。何と2個で1700円かよ(@-@)!」となったりするわけです。

チーザについても同様。ハッシュタグ #cheeza で盛り上がっているうちに「買いたい」と思う人が続々と出現。一時は品薄で、どこで売っているかに関する情報が飛び交いました。

こういう現象が「市場は対話である」ということの原型です。それが巨大になってくると、見た目は、上のClay Shirkyが描いた膨大な人によるソーシャルグラフのようなものになってくる…。

こういう風に「市場は対話」ということになってくると、既存のメディアに掲載されていたマーケティングメッセージはどうなるのか?テレビ、新聞、雑誌などの広告の効果はどうなるのか?

「市場は対話」の中で行われているメッセージのやりとりは、だいたいは、「かなり知っている人」「少し知っている人」「会ったことはないけど親しい人」「会ったことはなく、あまり親しくはないけれど、とりあえず発言に注目している人」などの間で行われます。いわば「人についたメッセージ」です。

この「人についたメッセージ」。それなりに強力です。誰かが「桃ラー、うめー」とツイートするだけで、本気で「今度買ってみようか」という風になります。

それに対して、既存のメディアから流れてくるメッセージは、「人についたメッセージ」ではなく、「静的なメディアについたメッセージ」です。言い換えれば、突っ込めないメッセージ。レスポンスを返せないメッセージ。互いに盛り上がろうと思っても盛り上がれないメッセージなのです。

消費者はこの「人についたメッセージ」と「静的なメディアについたメッセージ」のどちらに耳を済ませるか?答えは、どちらかと言うと、おおむね前者ということになるでしょう。

そういう「人についたメッセージ」の方に耳を済ませる人がたくさん出現して、母集団が大きくなってくると、結果的に「市場は対話である」となります。
Twitterを初めとするWeb2.0系メディア多数を使って、たくさんの人が「桃ラー、うめー」と書くことにより、そこから消費欲求が生まれ、実際の購買に至る。そういうパターンが常態化する。

「対話」ですから、その続きがあります。

実際に桃ラーを買ってみて、ほんとにうまいと感じたなら、その人自身もまた「桃ラー、やっぱり、うめー」と書くことができます。買うだけで終わらない。その後の話がある。

その人が「桃ラー、やっぱり、うめー」と実際に書くと、ほとんどリアルタイムでRTやら@付きリプライやらが乗っかってくる。リアルタイムで盛り上がる。非常に楽しい。

その楽しそうなやりとりを見ている人が「オレも桃ラー買おうか」などと思う…。

その繰り返し、その連鎖。

そのへんが未来の市場になっていく模様です。

dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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