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米国の電力会社のスマートグリッドの動きをご報告すべく、あちこちの資料に目を通してきましたが、裾野が広すぎてなかなか「ひとつの動き」として記述することができません。背景的な部分を少し書き起こしてみます。

〔米国の電力会社3,000社が皆一様にスマートグリッドに取り組んでいるわけではない〕
日本の電力業界は、一部の電力卸売会社を例外として、北海道電力から沖縄電力まで10の電力会社で成り立っています。これが米国では電力会社が約3,000もあります。
"Investor Owned Utilities"と呼ばれる株式会社形態の電力会社が約200社あり、それらが米国電力市場の売上のシェアの75%を握っています。残る25%に約2,800の地方公営、共同組合営、連邦営の電力事業体が細かく入り乱れて営業しているわけです(参考資料「電力改革 - 規制緩和の理論・実態・政策」矢島正之著、東洋経済)。
市場が細分化されているため、米国電力会社の売上規模は最大手でも日本の中部電力以下。掲げたグラフは前回のスマートグリッド勉強会用に作成したもの。上のグラフはFortune Global 500の電力会社を並べたものですが、一番右端が米国トップのExelonです。下のグラフは米国内のFortune 500から電力会社を抜き出したもの(同じ出所のデータなのになぜかトップがExelonではなくConstellation Energyですが、そこは不問として…)。いささかどんぐりの背比べという印象ですが、その背景には以下に記す規制がありそうです。 *9月23日、下のグラフのスケールを上に合わせて再掲しました。

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従って、スマートグリッド関連のニュースでよく名前を聞く電力会社であっても、「電力業界の巨人が大きな一歩を踏み出した」という感じではなく、「地域の電力会社がそれぞれ工夫して小じんまりと取り組んでいる」という状況です。また、米国の電力会社全体が一枚岩となっている印象はありません。

米国の電力会社の取組みが各社ばらばらに見える理由の1つに、州ごとの電力規制の枠組み、電力自由化の枠組みが一様ではないということがあります。簡単に言えば、スマートグリッドの取り組みにインセンティブが働く州と、そうでない州とがあるということです。
例えば、発電部門と小売部門双方の所有が可能な州では、スマートグリッドに積極的に取り組んだ結果、消費者や法人需要家の側においてピークの電力需要が削減され、それによってピーク対応の追加の発電所を建設するコストが回避できるとすれば、その電力会社にとっては大きなメリットがあります。
しかし、発電と小売の分離が強制されている州では、小売部門がいかにスマートグリッドに取り組んだとしても、消費者や法人需要家の電力総需要が減るばかりで、自分たちの売上減にしかなりません。これを補填するような制度的な枠組みがない限り、スマートグリッドに取り組む経済的合理性がないということになります。

制度面は以下に見るように、いわゆるDecoupling Policy的な枠組みも浸透しつつあるため、上で例として挙げたパターンに終始するものではありません。従って、スマートグリッドへの取り組みは、州ごとの制度の違いを反映し、個々の電力会社レベルではまだら模様を描くということになります。

〔州ごとの電力規制・自由化には投資家寄りとそうでないものとがある〕
濃淡がある州ごとの規制ないし自由化の枠組みですが、大きくは、営利事業として電力会社を営むことを是とし、中長期的に投資家・株主にリターンを還元することを容認するタイプの規制・自由化と、そうでないタイプの規制・自由化があるそうです(参考資料:Utilities: Diamonds in the Rough? )。後者の場合は、電力の価格や利益水準に細かなキャップがはめられ、電力会社が右へ動いても左へ動いても、一定水準以上の利益が出ないということになっている模様です。

従って、前者の州では、電力会社のスマートグリッドへの取り組みが中長期的なリターンをもたらす経済合理性があるものとして設計され、後者の州では、単に義務的な取り組みに留まることが予想されます。日本にいると奇異に思えますが、そういう事情もあるということです。

〔注目されるカリフォルニア州の"Decoupling Policy"〕
Decoupling Policyとは、電力会社が積極的に省エネルギー方策に取り組み、消費者や法人需要家がピーク電力や総電力消費の削減を進めていった場合に、電力会社側の収益が減らないようにするための制度です。カリフォルニア州ではこれを1982年から導入しているとのこと。
スマートグリッド的な考え方の広がりを受けて、2007年9月に"Decoupling Plus"として制度の改良が行なわれました。
新制度では、1)カリフォルニア州が定めた10年後の省エネルギー目標をクリアできた場合には電力会社に報償が、できなかった場合にはペナルティが課せられる、2)電力会社が消費者および法人需要家に省エネルギー(スマートグリッド)方策導入を促し、それが成功した場合には電力会社が報償を得る、3)電力会社が再生可能エネルギーによる省エネルギー発電に投資した場合に、株主がリターンを得やすい枠組みを設ける、という風になっています。

こうしたDecoupling PlicyないしDecoupling Plus的な制度は、Motley Foolの記事によると12の州が導入済みであり、さらに26の州が導入を検討しているとのこと。

この制度がうまく機能すれば、電力会社はより一層スマートグリッドに取り組み、再生可能エネルギーによる発電も活発化するはずですが、現実にはあまり乗り気でない州もあるらしく、やはり一枚岩というわけにはいきません(参考資料: Smart Grid: We Still Need to Change Utility Regulations )。

時間投入がはんぱではないので、なかなか連投できませんが、間を空けずに日本の状況までまとめてしまいたいと思ってはいます。



dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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