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〔州政府レベル〕
前投稿の追記になりますが、個々の州政府においてもスマートグリッド関連の取り組みがなされています。そのほとんどは、地域の電力会社と連携して米国再生・再投資法により予算をもらい、実験的にスマートメーターの設置を行なう、あるいは送配電の近代化方策を導入するといった電力会社側の活動を支援するというものです。
米電力会社二位のExelonの地域子会社PECO Energyはペンシルバニア州と連携して160万世帯にスマートメーターを設置する計画を進めています。
Excelonのもう1つの地域子会社ComEdもイリノイ州と連携して同様の計画を進めるようです。
オハイオ州のウェブサイトでは、同法から予算を得て行なうスマートグリッド関連プロジェクトに対して広く門戸を開いています。
また、ニューメキシコ州が経産省およびNEDOと一緒にスマートグリッド実証実験を行なっていることは一連の報道でよく知られていますが、これも同法の予算を獲得した上で具体化を図っていくというものです。

すべての予算獲得提案は米エネルギー省に送られ、同省が対象案件を選定します。州政府としては、なるべく自州において近代的な電力関連プロジェクトが活発化するように、大いに電力会社の尻を叩きたいところでしょう。同省に対する予算獲得活動はまだ現在進行形で行われています。

〔政府系標準規格団体〕
国家によるスマートグリッド振興の根拠となる法律Energy Independence and Security Act of 2007において、スマートグリッド関連の標準を取りまとめる役目を仰せつかったのがNational Institute of Standards and Technology (NIST)。商務省傘下の組織ですね。米国のスマートグリッド関連の標準化の動きはすべてNISTのサイトで公開されていますので、興味のある方は定期的にチェックされるとよいでしょう。

余談ですが、非専門家によるスマートグリッド勉強会ではスマートグリッド関連ブログを書いている伊藤さんがNISTの標準化動向をウォッチし、発表しています。私も彼の報告によってその体系だった標準化の活動を知りました。

NISTのスマートグリッド関連の文書は非常に膨大でとてもすべてに目を通すことはできませんが、さわりレベルでまとめてみます。

- NISTが最終目標としているのは、地域電力会社、関連事業者、法人需要家、消費者を相互に結んで実現される国レベルのスマートグリッドにおいて相互運用性が確保されること。具体的には、スマートグリッドを形作る数百の標準の選定、改定、策定。

- 米エネルギー省内GridWise Architectural CouncilおよびEPRI(米国電力中央研究所)と連携し、逐次開催される、すべての関係当事者が参加可能なワークショップにおける議論を組み入れつつ標準化作業を進めている。標準化作業そのものは非常にオープン。

- 米電力会社の意向は、EPRIがNISTに提出したReport to NIST on the Smart Grid Interoperability Standards Roadmap (以下、ISR)に反映されているほか、都度開催されるワークショップの議論に参加することでも反映させることができる。また、電力会社以外の領域にいる当事者も同様。(公にはということであって、内部の政治的な動きなどについては一切わかりません。。)

- 標準化活動に先立って、EPRIがNISTに提言したのは、以下を行なうべきだということ。
 1) common semantic modelの開発:スマートグリッド全体の構造を概念的に記述するモデルということで、具体的には、ISR内のSmart Grid Conceptual Modelだと思います。
 2) common pricing model standardの開発:スマートグリッドでは、法人需要家や一般世帯から再生可能エネルギー発電による売電が想定されていますが、そうした双方向かつ多主体参加によるある種の電力市場のモデルを作るということでしょう。個人的には、米国で過去に進められてきた電力市場の自由化のさらに先をゆく動きだと思っています。電力の次世代市場メカニズムといったところ。
 3) advanced metering(スマートメーター)、demand response、electric transportationに関するcommon semantic modelの開発:これもまた、関連事項を論理的に構造化してモデルとし、そこから具体物へ下ろしてくるというアプローチです。
 4) スマートグリッドアプリケーション用のInternet Protocol Suiteの選定:消費者を含む多数の当事者がスマートグリッドを活用し、例えば、家電やプラグインハイブリッドを高度に利用するためには、インターネット技術が欠かせません。どのプロトコルをどう使うのかということです。
 5) Unlicensed Radio Spectrumsの干渉の調査:高度かつ複雑なやりとりが必要になるなかで、それに干渉を引き起こす可能性のあるUnlicensed Radio Spectrumsの調査ということですね。
 6) common time synchronization and managementの開発:このsynchronizationが電力供給の同時同量を指しているのか、家庭などで使う各種アプリケーションにおける電力消費と情報活用の同期を指しているのかは不明です。ゆくゆく関連文書が出てくれば明らかになるでしょう。
 7) 各種標準化団体との調整:現在、議論対象となっている標準のリストは膨大なものになっています。当然、各標準の取りまとめ団体が複数存在しているわけで、それらとの総合的な調整をNISTが行なうべきだということです。

- 現状のSmart Grid Conseptual Model(ISRに記載されたもの)で強調されている、興味を引く諸事項には以下がある。
 1) スマートグリッドのアーキテクチャを構築する際に遵守すべき原理原則として、Loose coupling、Layered systems、Salow integrationの3つが提唱されている。これが現在までに多大な発展を遂げたインターネットの姿を想定していることは明らか。スマートグリッドも、インターネットのように階層構造の上に成り立ち、関連諸要素が疎結合し、ゆるやかに統合されるものでなければならないということを言っている。
 2) サイバーセキュリティ対策をアーキテクチャレベルで組み込むというアプローチが取られている。
 3) Conseptual Modelでは、Markets、Operations、Service Provider、Bulk Generation、Transmission、Distribution、Customerの7つのドメインを設定。個々のドメインにおいて、各種の標準セットが存在するという形。各ドメインは電力の流通(Electrical Interface)と情報の流通(Secure Commmunication Interface)の2つの経路で結ばれる。 :この非常にハイレベルのドメイン記述において、電力の流通と情報の流通を分離したことには、既存の電力流通を抽象化して(下位レイヤに置く)新世代スマートグリッドの中に組み入れるといった狙いもあるのではないかと思われます(実際にencapsulateという言葉を使って既存電力網を抽象化する云々の記述があります)。
 4) ただしこのConceptual Modelは、多岐にわたる関係当事者が具体的な標準化作業を行っていくにあたって、議論のよりどころとする「絵」に過ぎず、将来において改廃することもあるという位置づけ(以前の投稿でOSI 7 Layer Modelのようなものだと書きましたが、訂正します)。

- 標準化作業の進展を3フェーズプランで規定。(リンク先の末尾)

- 2009年9月中に、スマートグリッド標準セットのRelease 1.0が公表される予定。この選定にあたっては、複数回のワークショップを行い、関係当事者の意見を反映させている。

- Release 1.0公表前の段階で議論の対象になった標準については、このISR改訂版の末尾にリストがある(ISRが2009年6月に出た後で、ISRに対するパブリックコメントが募られ、それを反映させた改定版ISRが2009年8月に出ている)

NISTの活動のさわりを記すと、こういったところになります。
個人的にはLoose couplingが電力供給において可能になるのかどうか、非常に興味が沸きます。

dimaizum

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プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

株式会社インフラコモンズ代表取締役。
国内の太陽光、木質バイオ、石炭火力の発電案件。海外の天然ガスに関係した案件の上流部分のアレンジメントを行っている。その他、リサーチ分野として、スマートグリッド、代替的な都市交通、エネルギーの輸出入。電力関連の近著も。

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