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ジョブズ氏のCEO辞任発表よりも早く読み終わっていたのですが、ちょっとタイミングを外してしまいましたが、"ジョブズ・ウェイ"の感想を。

著者のウィリアム・L・サイモン氏は、IBM、Intelで働きひょうなこと(たまたまお店の待合で隣になっただけ)からジョブズ氏からAppleに誘われて仕事に一緒にした人です。

多くのジョブズ本・Apple本には、ジョブズ氏の現実歪曲空間に関して記述があるのですが本書には一切出てきません。これは翻訳者のあとがきにもあるのですが、著者が人事担当で技術的にジョブズ氏と対立がなかったためこのようなくだりがなかったのではないかと言う側面もあるでしょうし、実質そのようなことは開発ではよくある(ジョブズ氏はより顕著でしょうが)ので気にする必要もないのかも知れません。

また、より経営者(著者も起業しているが、いつの時点でAppleもしくはジョブズ氏から離れたかは明確な記述が無い)としての目線でジョブズ氏を見ている点が他のジョブズ本とは違うところです。

本書で一番笑ったのは著者がAppleに転職するときに、アンディ・グローブ氏から「きみは大きな間違いを犯そうとしている---アップルには未来はない」とメッセージをもらったところです。当時のAppleはIntelのCPUを採用していなかったため、その裏返しのようなメッセージになっていますが、グローブ氏っぽい現実主義のばっさりと切り捨てるところがなんともらしいコメントです。

ジョブズ氏の発言で「成功する起業家とそうでない起業家の違いのおよそ半分は、純粋に忍耐力の有無にある」とあります。このことは、指導者に求められる5つの資質の一つである"持続する意志"そのままです。やはり重要なことなのでしょうね。特にiPod/iPhone/iPadの成功は、ここまで成功することを信じて行い続けるしか実現できなかったでしょうね。

著者は、ジョブズ氏の「あきらめず、ひたすら前進し、挫折にもへこたれないこと」の姿勢を学んだとあり、いくつかの名言も紹介しています。

ジェットブルー航空を立ち上げて追い出されてブラジルで航空会社(アズール)を立ち上げたデビット・ニールマン氏の言葉で、「大切なのは、人生で何が起こるかじゃない。それにどう対応するかだ。」とマーティン・ルーサー・キング氏の「成功にはどんな反応を示すかではなく、失敗にどう対処するかで人間を判断しなさい」を添えています。

ジョブズ氏もAppleから追放、Nextでハード撤退、Pixarの赤字続きと何度も挫折していますが、それを乗り越えてAppleの復活等をやり遂げることが出来たのは、多くの偉人達と同じ姿勢からなのでしょう。

IntelとAppleの両方で働いたことがある著者だからかも知れませんが、ジョブズ氏とIntelの元CEOのグローブ氏の行動が似ている点を指摘しています。両者とも社内で進んでいる業務全てにかかわりたがり、壁を乗り越え、さらにいい解決策を模索し続けたそうです。ある意味マイクロコントロールが、問題の解決に向けて全力を尽くす意思を示しているように見えます。

製品開発のスタンスでよく言われていることユーザの声を参考にしない事例ですが、ジョブズ氏はヘンリー・フォード氏の「もしその昔、何がほしいかを顧客にたずねたら、『もっと速い馬』と言う答えが返ってきただろう」を言葉をよく使っていたそうです。

確かに、iPhoneとiPadはユーザの声を聞いて作れるとは思えません。iPadが出た当時は、ネットブックが立ち上がってきて、よくAppleは作らないのかと言われたものですが、iPad登場後そのような言葉が聞こえません。iPhoneもハードキーボードを搭載しないメリットを多くあるでしょう。iPhone/iPadは、ユーザの声に振り回されると革新的なことができないことの例でしょう。

ジョブズ氏の言葉で「わたしは、何をやるかと同じくらい、何をやらないかにも誇りを持っている」は、非常に含蓄がある言葉です。例えば、IBMはこの方針を貫くことで大きく収益を向上させています(ThinkPadやHDDを売却)。HPもPC部門の売却はこの方針の延長線上にあります。Intelのメモリ撤退もこの方針でしょう。手を広げれば売り上げだけは上げることが出来る魅力はありますが、人的リソース等を考えればそれはいい対策ではないのでしょう。

本書はジョブズ本にしてはめざらしくビジネスよりです。それは著者の立場もあったでしょうが、後に起業してジョブズ氏の行動から多くのことを追体験してジョブズ氏の行動が正しかったことを分かったからではないかと思われます。そういった意味では、ジョブズ本の中では秀逸な一冊だと思います。

櫻吉 清(さくらきち きよし)

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