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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

インタビューは定義が9割

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ITに強いビジネスライターの森川ミユキです。

お仕事柄、インタビューの機会が多いのですが、その際に大切なのは言葉をしっかり定義することだよと言うことを書きたいと思います。

著者も本気でそんなことは思っていません

「○○は××が9割」というタイトルは、我ながら卑しいと思うのですが、バズりたいという欲望の現れでして、本気で××が9割なんて思っていません。

というのは、数ヵ月前に『○○は話す力が9割』みたいなタイトルの本があることを知ったんです。それもけっこう売れているらしい。羨ましいとは思いますが、何の恨みも批判もございません。むしろ売れて良かったですねという気持ちです。

だって妬んでも、私の本が売れるわけでもないですから。そんなんなら一緒になって喜ぶほうが気持ちいいです。知らない人が著者だとしても。

で、同じ方が同じテーマで『○○は聞く力が9割』みたいな本を出していて、こちらも売れているらしい。

さすがに「おいおい」と思いました。これは素直に喜べないなと。

違うテーマなら全然いいですけど、同じテーマで、しかも話すと聞くでは真逆の行為ではありませんか。これだと『○○は話す力と聞く力で18割』ということになってしまいます。どういうこっちゃ?

要するに著者も「××が9割」なんて本気で思ってはいないということなのです。「××が大切」を誇張表現すると「××が9割」となり、それが刺さっちゃう人がたくさんいるということですね。だって××さえ会得すれば9割は成ったとすれば、こんな楽なことはありませんから。

おそらく著者自体も「9割」なんてタイトルは付けたくないのでしょうが、編集者がそのほうが売れるからと譲らないのでしょう。目に浮かぶようです。

で、もちろん私も「定義が9割」なんて本気で思っている訳ではなく、「定義が大切」ということを誇張しているだけで、それによってたくさんの人に読んでもらえたら嬉しいなと思っているだけなのです。

それにしても「××は9割」って本、本当に多いですね。「それ以外の1割が9割」なので注意してくださいね。

定義をなおざりにすると浅い記事になる

前置きが長くなりましたが、実は前置きのほうが本当に書きたかったことかもしれません。しかしお役に立つのはここからです。

昨日、約2年ぶりに過去の実績を整理しました。検索順位が少しずつ下がっているのですが、それはホームページの更新を怠っていたため(毎日日記ブログは更新しているのですが、SEO的には効果がない、あるいは逆効果のようです)ではないかと考えたからです。

「ITライター ビジネス」ではだいたいトップ3(今朝は1位でした(^O^))にいるのですが、「ITライター」単独では2ページ目に転落してしまったのです。

で実績を整理したのですが、インタビュー経験を数えてみたところ、記事に関しては170本、書籍に関しては31冊ということがわかりました。まあまあの経験値だと思います。

ということで、ちょっとだけ偉そうに言わせていただくと、掘り下げの浅いインタビュー記事が多いと感じるのです。

記事が浅くなる原因の多くは準備不足です。質問票を事前に送っておかないとか構成案を考えていないとか下調べをしていないとか、こういうのは論外です。しかし少なくとも企業のマーケや広報、あるいは出版社やメディアが絡むお仕事でこういうのはありません(記者会見や突撃取材は除く)。

だから「インタビューは準備が9割」でもいいのですが、それではありきたりですし、調べてはいませんが既にそんな本もありそうです。

そこで自らのインタビュー実績を踏まえて、準備をしっかりしていようがいまいが浅い記事ができる別の原因を考えてみたのです。

で、すみません、そんなデータはないのですけど、私が思うに、浅い記事の「9割」(だから根拠のない誇張のための数字ですって)は、定義をなおざりにしているのです。

ここで、なおざりとおざなりの違いをおさらいしておきますと、どちらも「いい加減にする」ということですが、なおざりは「あまり気に掛けずにいい加減にしていること」、おざなりは「その場しのぎの間に合わせをすること」といったニュアンスになります。

専門家は専門知識を言語化するのが苦手

私がインタビューする目的は、ビジネスで役立つ知見を紹介する記事を書くことですから、インタビュー相手は基本的に専門家です。

専門家って専門的な概念を体得している人のことなんですね。最初は言語的な定義から入りますが、それだけでは仕事はできません。訓練や実践を通じて体に覚え込ませて初めて専門家と言えるレベルになるわけです。だから専門家のいうことはわかりにくいのです。

もちろん専門用語がわかりにくいのもあります。彼らは素人に対しても専門用語を使いがちで、それで敬遠されることが多いですよね。なぜ素人向けにわかりやすく話せないのか? それは体得しちゃってるからです。体得していることをわかりやすく言語化するのは、専門家なら覚えがあると思うのですが、かなり面倒です。

専門家に対してインタビューする人は、自分も現役か元かは別として専門家であることが多いです。一部の評論家のように知識だけの「専門家」もいますが、それでも専門家とスムーズに話ができるぐらい、その知識は「体得」に近いものです。

私は元SEでプログラミングもしていました。だから「プログラミング」と聞けばどういうことをするのか一瞬でわかります。中には同じSEでも外注管理しかしたことがない人もいるでしょう。しかしこの人たちも自分はしたことがなくても「プログラミング」が何をすることかはよく知っています(一部の評論家に該当します)。いずれにしても「プログラミング」という言葉だけで話が通じるわけですが、全くプログラミングに関わったことのない人に対して、プログラミングとはどういうことかを説明するのは至難の業です。

ということなので、専門家は専門知識を言語化するのは実はあまり得意ではありません。得意でないからなおざりにします(さすがにおざなりにはしません)。インタビューしているほうもわかっている(わかった気になっている)から、一緒になってなおざりにします。

なおざりにしたものが深まることはありません。こうして浅いインタビューになってしまい、浅い記事が量産されるということなのです。

定義のたたき台を提示すると会話が深くなる

だから私はインタビューするときは、仮に自分自身はわかっていると思っていても、重要な概念が出てきたらそれを定義してもらうようにしています。

そこで重要なことは、こちらから定義のたたき台を出すということです。

「○○○○って、読者がわかるように言い換えると××××××××××××××××となると思うのですが、それでいいですか?」と聞くのです。そうしないで一から言語化を要求すると、やっぱり苦手なことなので、かなり頭のいい人でもとんちんかんな定義をすることが多いです。そうなると話があらぬ方向にずれていくことも多く、軌道修正のためにムダな時間を使うことになります。

このたたき台を出す力を私は「定義力」と呼んでいますが、この巧拙がインタビュー力の差になると考えています。

重要な概念が出てくるたびにたたき台とはいえ定義を提出するわけなので、相当な勉強が必要です。私の場合は読書もしますが、それまでのインタビューが一番の勉強になっています(※)。

とはいえ完璧な定義を出す必要はありません。むしろたたき台レベルのものが一番です。インタビュー相手に「その通りです」と言われてお終いなら、相手の知見が引き出せません。相手が違和感を覚えて、「間違いではないですが、もうちょっと正確に言うと・・・」なんて会話になるのがいいのです。

そうなればしめたもので、そこから話がどんどん深まりますし、広がることも多いです。そうなると尺も稼げます(笑)。

記事ならまだしも本を1冊書こうと思うと、こういうやり方をしないと分量が足りません。

知らないことを聞くのも恥ずかしくなくなる

定義のたたき台を出すことを心がけていると、知らないことを聞くのも恥ずかしくなくなります。

本来知らないことを聞くのは恥ずかしいことではありません。むしろライターの義務だと思います。とはいえ「こんなことも知らないの?」と舐められたくないこともあるでしょう。

しかし定義を巡る会話をしていれば、知らないことを聞いたとしても、これは読者のための言語化を要求しているのだろうと相手は勝手に思ってくれます(笑)。

インタビューに限らず、あなたがエンジニアでも営業でもお客様とお話しすることがあるでしょう。そのときお客様を専門家と捉えると(BtoBだとそうなりますよね)、「定義をなおざりにしない」というのは応用できるノウハウだと思います。

※私は7年前ぐらいにAIの再ブームが来ていることを知り、それ以来AI関連のテーマを追い続け、今のDXやデータドリブン化につながっています。それ以外ではマーケティングも追いかけてきましたが、ライターとしては少数のテーマに絞って追い続けることは、知識が深まり高度になるということで必要不可欠なことと思います。そして面白いことに、いつの間にかAIとマーケティングが結びついていました。


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