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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

リスクを取れとか、リスクは分散せよとか、それぞれ正しいこともあるけれど正確ではありません

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デジタルとマーケティングに強いビジネスライター森川ミユキです。

VUCA時代の新しい生き方と言うのでしょうか、そういう類いの書籍の制作を支援させていただいております。

仲間と協力し合いながらも自立して生きていこうみたいな本で、うさんくさいと思う人も多いんじゃないでしょうか? 少なくとも私はそのようなことを言ううさんくさい人をたくさん知っているので、そういうお話を聞くとまずうさんくさいと思うようにしています。

ですが、著者さんは至ってまともな人ですし、ビジネスでも地に足がついた分野で成功されているので、私としてはこれは真っ当な方法だよとお伝えするのに苦心していたりします。

さてその本の中に「リスクは分散しよう」という趣旨の一節があります。主に金融投資のリスク分散、つまりポートフォリオ運用について書いてあるので、もちろん正しいのです。

ただちょっと気になったのは、人生全般の様々なリスクについて書いてあるようにも見えるんですね。それでどうしようかと思ったのですが、リスク対応の一般論をまず説明して、そこから著者の論旨に繋げていくことにしたのです。その一節に関しては取材の取れ高も少なかったので、付け足すことでちょうどいい分量になりました。

その際にふと思ったのが、そう言えば世の中には「リスクを取れ」と言う人も多いなということです。リスクを分散することもリスクを取ることもそのリスク次第なのですが、その辺、もしかしたら正確に伝わっていないのではないか?

そこで基本中の基本と思う人もいるでしょうけれど、あえてリスク対応の方法について書いてみようと思った次第です。

何を基にしているかというと「PMBOK」です。私が持っているのは第3版という18年も前に出たものなので、今と内容は変わっていると思うのですが、リスク・マネジメントのやり方が大幅に変わっているとは思えません。それで最新版に当たらずに書くことにしました。

さて「PMBOK」(第3版)によれば、リスク・マネジメントには6つのステップがあります。

  1. リスク・マネジメント計画
    リスク管理の方法論とか体制とか予算とか実行タイミングなどをまとめます。
  2. リスク識別
    プロジェクトやビジネスに関わるリスクを洗い出します。
  3. 定性的リスク分析
    1つ1つのリスクの発生確率と影響度(金額ベース)を査定します。数値化されるのでこれを定量的分析だと勘違いする方もいるのですが(実は私は勘違いしていました)、発生確率などは5段階評価に近いものだし、みんなで話し合って査定するので「定性的」と呼ばれます。
  4. 定量的リスク分析
    定性的リスク分析で発生確率も影響度も高い、すなわち対応優先度の高いリスクに関して詳しく分析します。有識者にインタビューしたり、コンピュータでシミュレーション(いまなら機械学習でしょうか)したりします。
  5. リスク対応計画
    それぞれのリスクに対して、対応方針を決めます。リスクには脅威(マイナス)と好機(プラス)があり、脅威に対しては回避・転嫁・軽減、好機に対しては活用・共有・強化、両方に共通するものとして受容という対応方法があります。
  6. リスクの監視・コントロール
    リスク対応計画に基づき、日々リスクを監視し、発生の兆候が見られたり、発生したりすれば対応します。

以上が前提知識で、本題は5番目の「リスク対応」です。

普段言われるリスクは脅威なのでそれに絞ります。対応方法としては都合4つありました。すなわち回避・転嫁・軽減・受容です。

  • 回避
    リスクが発生するようなことをしないことです。「リスクを取る」とは真逆の態度で、臆病者のすることみたいに思う人もいるでしょうが、要らないリスクを取るのはそれこそ愚か者のすることです。「プロジェクトが確実に予定通りに終わるよう、不要な機能を開発しない」なんて意思決定はむしろ勇者でないとできません。
  • 転嫁
    リスクを他者に移転することで、損害保険が典型的な例ですね。技術的に不安なら外注するというのも転嫁です。言ってみれば、お金でリスクを解決することです。だから外注には十分なお金を払いましょうね、と私などは言いたいです。
  • 軽減
    良いツールを使うとか、外注先を慎重に選ぶとか、困難を分割するとか、投資先を分割する(ポートフォリオ運用)とか、何らかの手段で発生確率や影響度あるいはその両方を減らす努力をすることです。
  • 受容
    影響度も発生確率も低いのであれば、放置しようというのが受容です。対策するほうがむしろお金がかかるときは受容するしかありません。プロジェクトやビジネスの主要メンバーが死ぬなんてことはとても大きなリスクですが、このように避けようがないものも受容します(プロジェクト中など期間限定であれば発生確率は低いですし、生きているうちに死んだときの交替要員候補を挙げられたりしたらやる気失せますしね)。

さて「リスクを取る」というのは、どれを指しているのでしょうか? 多くの場合受容と思われますが、回避以外の3つを指して言っている人も多いかもしれません。

中には「蛮勇を奮って『えいや』で決断すること」を「リスクを取る」という人もいるようです。もちろんダメですし、そんな人の口車に乗ることも避けたいですね。

リスクがあればまず回避できないか、次に転嫁か軽減できないかを考えることが大切です。受容するならせめて発生確率が低いものにしておきましょう。

よく言うじゃないですか。「無謀に見える作戦も9割の勝算があって初めて実行を決断したのだ」と。あと先ほども書きましたように、回避するほうが勇気が要ったりもするわけです。

いつも大雑把なことばかり言っている私ですが、リスク対応に関してはきっちりしておくほうがいいと思いましたので、すごくきっちり書きました。内容は触りだけですが、流れとMECEな対応方法を知っておくだけでも、知らない人とは差がつきます。

ただ上のようなことを知らなくても、やれている人もいるんですけどね。冒頭の本の著者さんなどはまさにそうだと思います。


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