知らず知らずのうちにジョハリの窓を広げていた
ジョハリの窓という概念があります。
僕には、都市伝説ならぬビジネス伝説という造語があります。
たとえば、マズローの五段階説とか、メラビアンの法則だとか、ホーソン実験だとか(よくご存じない方は、リンク先に解説が)、社内研修なんかでよく聞くけれども、あまりにも分かりやすいので、ちょっと眉唾な話のことです。
たぶんマズローやメラビアンは、正しく、そしてもっと深いことを言っているのでしょう。しかし、ビジネス研修では分かりやすいところだけを取り出すものだから、その結果なんだか浅くて疑わしいような話になっているのだと思います。
僕は、長い間「ジョハリの窓」(下図)もビジネス伝説だと思っていました。
しかし、先日自分がファシリテーターを務めたワークショップで、ジョハリの窓の効果を見せつけられることになったのです。
ジョハリの窓の概念は図の通りです。
簡単にいえば、人は他人の知らない面を知ったときにその人のことを好きになるし、また自分の知らなかった自分を教えてもらうと成長につながる、なので自己開示とフィードバックにより「開放の窓」を広げるのがよい――そういう理屈です。
話は単純明快ですが、しかし、本当に人に言えない秘密もあるし、聞きたくない評判もあるでしょう。
そういう突っ込みも簡単にできるので、ジョハリの窓ってなんだか嘘っぽいと思っていたのです。
まあ、本当に話せない秘密を話す必要もないでしょうし、聞きたくないことから耳を塞ぐのも人間としてありだと思います。
ところで、ジョハリの窓はアイスブレイクとしても使えます。この目的で使える面白いゲームを見つけたので、ご紹介しておきます。 ⇒ ジョハリの窓ゲームのやり方
さて、ジョハリの窓の効果を見せつけられたワークショップとはどんなものか?
僕は、「自分軸」の発見支援をやっています。すでに、企業コンサルや経営者のコーチングなどの実績はあります。また、セミナーも何度もやっており、その際にはコンサルライブと称して、参加者に手を挙げてもらって、その方の自分軸をその場で作るということもやっていました。
「自分軸」などと言う言葉は普通名詞であり、いろいろな方が提唱されています。中国ではとっくに商標登録されていて、中国進出時には言葉を変えないといけないかもしれませんが・・・。
僕のいう「自分軸」は、「誰に」・「何を」・「なぜ」提供しているのかを明確に言語化しようというものです。
一例として僕の自分軸をお目にかけましょう(下図)。
実に単純なフレームワークです。しかし、埋めるのは結構難しい。何の予備知識もなくやってもらうと、ほとんどの人が抽象的な言葉で埋めてしまいます。
特に「何を」の部分は、「提供された人が何がうれしいのか?」という、いわゆる"顧客価値"に最終的にならないといけないのですが、そこまで達する人はほとんどいません。
納得のいく「自分軸」を作るためには、「なぜ」を突き詰める必要があります。
「なぜ」に強烈な思いが出てきてはじめて、「誰に」がくっきりとし、「何を」が"顧客価値"になります。
上の図でいえば、赤文字で書いたところが、「強烈な思い」であり、くっきりとした「誰に」と"顧客価値"になります。
ここまでくると「とんがった自分」が発見されて、人に突き刺さることが言えるようになる――そういう理屈です。
今までは、これをセミナーとコンサルの場でやってきました。今回ワークショップにしようと思ったのは理由があります。
実をいうと「自分軸」の発見支援を本格的にはじめようと思ったのは、昨年のことでした。
それまでは、2009年に僕自身が開発した「333営業フレームワーク」という営業戦略と戦術を策定するためのフレームワークの一部でした。
そこから「自分軸」だけを取り出そうと思ったのは、それが一番役に立ったという人が多かったからです。
当初はセミナーを中心に、「自分軸」という概念を普及しようと思っていました。
その第一回のセミナーが、2011年3月11日でした。
開始は13時半ぐらいでした。1時間ちょっと経ち、そろそろ最初の休憩を入れようかというタイミングで、会場が大きく揺れました。地震だと直感した僕は、参加者に机の下に入るように指示しました。
かなりの時間揺れました。揺れがある程度収まったとき、外を見ると隣のビルではそこで働いている人たちが整然と非常階段を降りていました。
余震は何度もありましたが、電車も止まっていた様子だったので、参加者の意見を聴き、セミナーは最後までやらせてもらいました。
その日はまだよかったのでした。
しかし、その後、僕はいろいろなことが信じられなくなり、また不安によってパニックにもなりました。
そして、とうとう自分自身の「自分軸」を見失ってしまいました。
「自分軸」がない者が、どうして人の「自分軸」の発見の支援などできるでしょうか? 僕はそう思い込み、まったくやる気が出ない時期が続きました。
「やる気が出ない」というよりも「何をしたらいいのかさっぱり分からなくなった」というほうが正確かもしれません。
ようやく今年の3月末になって、やる気が戻ってきました。
きっかけは、アルファブロガーの立花岳志さんが、処女作である『ノマドワーカーという生き方』の中で、僕の自分軸セミナー(2010年に開催したものです)の話をとりあげてくださったことでした。
これがきっかけで、すでに独立しようという決意だけはあったのだが、土日は何もできないでいた立花さんが、独立に向けて全力で取り組むようになったということが書かれていました。
僕はそれを読んで、自分自身の「自分軸」がなくても、人の「自分軸」を作るお手伝いができれば、それで十分人の役に立てる――というあたりまえのことに気づきました。
そうしたら、「自分軸」発見支援という「自分軸」(上の図)がスラスラと書けたのです。
もう一度はじめるなら、参加者全員が「自分軸」を発見できるようにしようと思いました。セミナーではそのあたり心もとなかったし、コンサルだと少ない人数しか相手にできません。
そこで、ワークショップという形にしようと思いました。これならば参加者からのフィードバックも期待できるのでより確実になるだろう。
しかし、それでも1回に4人が限度です。ちょっとビジネスにはなりにくい人数です。でも、とにかく動こうと考えました。
そのワークショップの第1回が、先週の土曜日(2012年8月25日)でした。
僕のメルマガやブログは、IT関係者が多く読んでくださっています。
今回も参加者4名のうち、3名はIT関係者でした。
世間では、人見知りと言われている人たちです。正直、みなさんそういう傾向が見られました。
僕自身も 人見知りなので、貶めるつもりはありません。単なる傾向です。
もう一人参加していただいた方は士業の方でした。こちらもマジメで人柄はいいのだが、やや暗いという印象があります。その方もその傾向がありました。
普通は、盛り上がりません。僕のプレッシャーは始まった段階でもはやレッドゾーンに達していました。
ワークショップの進め方は、以下の通りです。
- 簡単な自己紹介と意気込みを話してもらう
- 自分自身の強みを10個以上挙げてもらう
- 「誰に」を書き、発表してもらう
- 「何を」を書き、発表してもらう
- 「なぜ」を書き、発表してもらう
- 「なぜ」をベースに「誰に」「何を」を見直して、「自分軸」を完成してもらう
- 「自分軸」を発表してもらい、参加者全員が感想を述べる
- 全体のまとめ
自分自身の強みが分かると、見つけやすくなるということを、つい先日発見したので、事前課題として考えてもらっていました。
これには意外な効果がありました。
参加者同士の間で"ネガティブな"第一印象が、絶対にあったと思うのです。
しかし、強みを語ってもらうことで、人は見かけによらぬものとなり、ネガティブな印象が払拭されるのです。これで、場の雰囲気はかなり良くなりました。
そして、「誰に」「何を」語ってもらう間にも、少しずつその人の思想や人柄がにじみ出てきます。
そのあとで「なぜ」を語るという、この順番がよかったようです。
「なぜ」については、先ほども書いたように「強烈な思い」が出てこないと、いい「自分軸」にはならないのです。しかし、いきなり「強烈な思い」だと、言う方も聞く方も抵抗があります。
この順番がベストなのです。
ワークショップが進むうちに、不思議なことが起こり始めました。
普通ではあまり仲良くなれないのではないか、なったとしても表面的なものではないかと思われた参加者のみなさんでしたが、徐々に一体感が生まれていったのです。
最初は、互いに好感を持つようになりました。続いて、相手を認める気持ちが出てきました。最後には、それぞれを本気で応援したいという気持ちになりました。
その後の懇親会も大いに盛り上がり、みんなが自発的に夢を語るようになっていました。
これは、自己啓発セミナーでもよく見られる光景ではあります。しかし、僕は、自己啓発セミナーの懇親会のわざとらしさが大嫌いなんです。
「おまえ本当に心からそう思ってるのかよ? 場の雰囲気に合わせてるだけじゃないの?」と思うことがしばしばです。「それって、おまえの言葉?」と言いたくなる。
"洗脳"されて影響されちゃった人の話ほど心に響かないものはありません。響くとしたら自分も"洗脳されないと無理です。
それとはまったく違う――と言っても参加した人にしか判断できないことだから、これ以上強く主張するつもりはありません。ただ、洗脳のテクニックは一切使っていないということだけは強調しておきます。
いずれにしろ僕にとっては、本当に気持ちのいいワークショップと懇親会でした。
なぜ、ワークショップが成功したのかをずっと考えていました。
それで思い出したのが、ジョハリの窓でした。
まさに、自己開示とフィードバックで開放の窓が広がった、それで参加者全員が気持ちよくなれたのだと分かりました。
「自分軸」の発見支援をワークショップという形でやるのが、どうもベストのようです。
発見支援のファシリテーターをやりたいという方が今回のワークショップでも出てきましたし、10月開催分の参加希望者にもいます。
ファシリテーター育成という形での普及を目指していきたいと改めて思った次第です。
記事に共感した方は、ぜひ下記のサイトにもお立ち寄りください。
--
▼マーケティングで最も大事なことは自分軸を持つこと。
Who、What、Whyの3Wメソッドで、行き詰まりからの起死回生を!
--
▼自社の考えをインタビューして文書化してほしい方は