気が小さいので架空インタビューを始めました
このところの自分の記事を読み直してみると、読者はもしかしたら僕が何かに怒っていると感じているかもしれないと思えてきた。というより僕自身がそう感じた。
僕はとても気の小さな人間で、TwitterだのFacebookだのに僕の記事に関する論評があるだけでドキドキしてしまう。コメントなんかついた日には(ご丁寧にメールが送られてくる)、それが批判的なコメントだったらどうしようと、拝見するまでにとても時間がかかってしまう。
そういう人種なので、何かに怒りをおぼえるような余裕はまったくなく、あきれるような出来事が世の中にあったとしても、やれやれと肩をすぼめるだけなのだ。つまり本来は傍観者なのです。
そんな人間が何でこんなところでブログを書いているのかと聞かれたら、答えは一つ。何もしないとどんどん気が小さくなるので、せめて現状は維持したい。そのためだけに、「公開」ボタンを押すまでに10回ぐらい書き直し、公開後も同じぐらい書きなおしたりしているのだ。
たぶんそのような気負いが、人によっては大上段だと思うかもしれない一見怒っているような文章を書かせているのだと思う。
そこで、僕はぜんぜん怒っていませんよということを示すために、ちょっと工夫をしてみることにした。先日、書いた記事に寓話があるのだが、この部分だけは怒ったような感じが希薄で、逆にユーモアを感じることができた。
あの寓話は対談形式だったので、もしかしたらこの形式がいいのではないだろうか。
それで、しばらく試しに架空インタビュー形式で書くことにする。真意は今まで以上に分かりづらくなるだろうが、怒っていると思われるよりはましかなあと思う。
なお、インタビューに登場する人物・団体はまったく架空のもので、僕が想像したものである。なんとなく思い浮かぶ人物・団体があったとしても、それは気のせいである。ある人の主張と似ていてもたまたまである。だいたい、さすがにこんな人はどこにもいない(はずだ)。僕としては、こんな人がいたら嫌だなぐらいのスタンスで書いている。
僕は誰にも腹を立てていなし、ましてや恨みもない。風刺小説だと思って、軽い読み方をしてもらうことを願う。楽しんで読んでもらえれば本当にうれしい。
くどくどと言い訳が多いが、気が小さいせいなので許してほしい。
株式会社××××(仮名:これはたまたま××××という会社があるかもしれないことへの配慮だ)は、衣料品メーカーだ。高い品質の衣料品を顧客のために安く届けるのがモットーで、それが消費者の高い支持を得ている。高品質を安価で提供しているのにも関わらず、高い収益率を誇る成長企業でもある。どうしたらこのような成長が可能なのかを、代表取締役社長の御利益 優(ごりやく・まさる)氏(仮名)に直撃インタビューした。 |
-- ××××、相変わらず好業績です。
お客さんのおかげやね。もちろん、我々もお客さんのニーズに答えるべく、業界で一番努力してるってのもあると思うんやけど。
-- そうですね。私も御社の商品は愛用しています。
安いんやから、ぎょうさん買うてな。
-- まあ、貧乏なもので御社の服ぐらいしか買えません。さて、いきなり本題に入りたいのですが、御社は高品質な商品を安く消費者に提供しています。それと高収益はいっけん矛盾すると思うのです。ずばり高収益の秘密は何なのでしょう。
それはいろんなところで語っているし、本も何冊か出してるやろ。不勉強な記者やなあ。
-- いえ、私のほうは一応ご著書にはすべて目を通し、できる限り多くのインタビューも読んできました。ただ、読者には知らない人もいますし、私はどうも表立って語られていること以外にもあるのではないかと思っています。
そういう意味での「秘密」はないつもりやけどな。まあ、どこでも語っていることを言えば、徹底した合理化と品質管理のスキルやないかな。
我々は、ご存知のとおり、中国での本格的生産を始めたパイオニアなんや。当時も中国で生産している日本企業はゴマンとあったが、みんな安かろう悪かろうやった。ところが、我々は中国人に品質管理を教え込むことで中国でも品質のいい商品は作れるということを証明したんや。もちろんITシステムなどにも投資して、品質管理を確実に低コストでできるようにした。それを今では全世界に展開している。中国より安く作れる国はたくさんあるからな。
あとは優秀な人材が多いということかな。
-- その人材についてお伺いしたい。人材育成の秘訣はあるのですか。
なんや、人材育成って。人間を会社が育てるということか? そんなんやったらうちはしとらんわ。
まあ、確かにうちが地方の中小企業やったころは、優秀どころか三流大学の学生さえ集めるのに苦労してた。そいつらにはいろいろ教えてきたで。そやけど、今は求人すれば、その何千倍もの応募がある。それも第一志望でや。そこから優秀な学生を選べばええ。そいつらは勉強も好きやから、会社に入ってからも勝手に勉強するわ。
-- 自腹を切って勉強しろと。つまり自己啓発だと。
その代わり自腹を切って勉強して成果を出してるやつには、払った自腹以上の給料を出してるわい。文句ないやろ。
世の中は自己責任なんや。会社の仕事が終わったら、あとはだらだら遊んだり、家族サービスしてたりするやつは、その時点で負け犬なんや。自己責任で貧乏になるやつは、それを選択してるんやから仕方ないやないか。
その点、うちの社員で生き残ってるやつらは偉いで。24時間、会社のことを考えとる。グローバル時代やからなあ、夜中の3時からでも会議がある。みんな文句も言わず出席しよるわい。
-- グローバル時代といえば、御社は社内公用語を英語にするとのことです。
当たり前やろ。世界のビジネス標準語は英語や。日本は少子化で市場としての魅力はどんどんなくなってるんや。世界で戦えるやつでないと、これからは生きてかれへんのや。
社員も分かってるし、うちに応募してくる学生もその辺はよう分かってるわ。
国内だけで優秀なやつはいらんのや。他の勉強がなんぼできても、うちは英語のできへんやつは採用せん。社員で英語ができるようにならんやつも容赦なくクビや。おっと。クビにせんでも社内会議が英語やから、英語のできへんやつは勝手に辞めていきよる。
-- 実に合理的な考え方だと思います。教育費も含めた「無駄」なコストはすべて省き、社長の方針に従えない社員は自ら辞めていきます。リストラをしようと思ったら、無茶な社長方針を出せばいい。それでも社長に従順な「優秀」な社員は残りますし、入社したい「優秀」な人材はいくらでもいます。
何か奥歯にモノがはさまったような言い方やけど、俺にはほめ言葉にしか聞こえへんな。その通り、それが高品質なものを低価格で売って高収益を続けていける理由や。
-- 地域の雇用を創出し、将来を担う人材を育成するのが企業の一つの役割だという人たちからは評判が悪いようですが。
ああ。あの社会主義者どもやろ。俺が高校出て、つぶれかけの家業をついで奮戦しとった頃に、大学で勉強もせんと学生運動とかに明け暮れてた連中や。そんなん、いまどき流行らんわ。日本が滅ぶかどうかのときに何が地方の活性化や。我々が目指しているのは、世界の活性化なんや。スケールが違うわい。
-- でも、世界に進出しても、進出先の雇用を創出するのではなく、進出先の優秀な人材をかき集めるだけなのでは。
その分儲けて、現地に税金を払えば、向こうも喜んでくれるやろが。日本でもぎょうさん法人税を払ってるんやから、地方の活性化なんかは、それを使うて国や地方自治体がやればええんや。
-- でも、グローバル時代ですから、日本の法人税が高いと思ったら、もっと安い国に本社を移転して、節税するんじゃないんですか?
××××は私企業なんやで。経営の合理化をして、少しでも多く利益を出して、株主に多くを還元する。それがグローバルスタンダードやないんかい?
-- それで大株主の御利益社長も潤うということですね。今日は貴重なお話ありがとうございました。