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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

数字は劇薬、よほど考えよう

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そんな煽りはもう通用しない」という記事を書いた。

下図の3つのコンセプトで、クリックさせるための惹句(キャッチコピー)を書いても、もはや通用しないという話だった。

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すると、他の二つは分かるのだけど数字はどうして? というコメントがあった(FBにて)。

 

垢がついているから、というのが僕の答えだ。

書名やキャッチコピーなどに数字を入れるのは昔からあったと思うが、爆発的に効果が増えたのは、(想像に過ぎないが)『7つの習慣』が大ベストセラーになった以降のように思う。

『7つの習慣』って考えたら変なタイトルでしょう?

たとえば、『人を動かす』。これは何となく書いてあることが分かる。成功本であることも伝わる。ところが、『7つの習慣』とだけ聞いても、成功本だとは最初は分からない。

そこで何だろうと思って手に取る。読めば、すばらしい(皮肉ではなく)ことが書いてある。それで大ベストセラーになった。

この時点では、数字を書名に入れることで画期的な売り上げにつながったことになる。すると、いつものように安直に真似をする人たちが現れる。次々と数字を書名にいれた本が出てくる。それらのほとんどがオリジナル(と勝手に仮定しているだけだが)の『7つの習慣』と比べるとくだらない本である。

すると本を買う人たちは気が付く。数字が書名に入っている本は、あまり内容に自信がない本なのだなと。

『7つの習慣』が元祖だという前提があやふやだから、こんな説は信じられないというのであれば、「もしドラ」で考えてみればいい。

あれは書名に数字が入っていないが、女子高生が何やら難しいことに取り組むというコンセプトがあった。その後、女子高生だけでなく、主人公を女子大生や新人OLに変えただけの二番煎じが雨後の筍のごとく出版されたが、もうみなさん飽き飽きでしょう?(注)

数字を書名に入れるというのは、そこまでの二番煎じ感はないので、今でも続いているが、しかし、読者側はもはや気づいているのである。

(注)そういう意味で、「もしドラ」のはるか以前から、しかも売れない長い期間があっても継続していた山田真哉氏の女子大生会計士シリーズはすごいと改めて思う次第である。

 

は、数字が入っている書名やコピーはすべて悪いのかというとそんなことはない。

ここで二つの書名を比較することで、そのあたりのことをはっきりとさせたい。

なお、二冊とも未読の本であり、内容については何も言えない。どちらもいい本かもしれないし、その逆かもしれない。あくまでタイトルだけを問題にするので、著者は気を悪くしないでほしい。たまたまあるサイトを見ていたら目に入ってきただけで、著者に対する他意も先入観も恨みもない。どちらも存じ上げない方だし。

また、僕とは逆の捉え方をする人もいるかもしれない。この辺は正解はない。ただ、僕はこう思し、多くの読者サイドの人たちもそう思う可能性が高いというだけのことだ。

前置き(言い訳)が長くなった。比較したいのは、以下の二つの書名である。

  1. 『ストレスをすっきり消し去る71の技術』
  2. 『51の質問に答えるだけですぐできる事業計画書​のつくり方』

上の1と2で、僕の数字に対する受け取り方はまったく違うものだった(ずいぶんインフレが進んだなというのは共通した感想だったが)。

 

1における、71という数字については、必然性が感じられなかった。著者がブレスト(セルフなのかスタッフを交えたものなのかはどちらでもいい)をした結果、たまたま71個の項目が上がっただけという風に思われた。

となると、科学的な根拠や網羅性がある71個ではないということになる。50に絞っても、あるいは切りよく100にしてもよかったのではなかろうか? ならば、読むべき価値があるのかと読者の立場では思わざるを得ない。

また、71の項目をすべて実践すべきなのか、それとも1つでもやればいいのか、そのあたりも疑問だ。もし71個全部やらないとストレスが消えないというのなら、それはそれで新たなストレスではないだろうか?

読者に事前にそのように思わせてしまうのは、得策とは言えまい。

 

方、2の51はまったく違う。何しろ事業計画書の作り方なのである。当然、この著者は事業計画書をいくつも作っており、その結果事業計画を作成するためのフレームワークを編み出したのだろう。

そのフレームワークには51の項目ないし手順があり、それをすべて(しかも順番に)やれば事業計画書ができあがるということなのだろう。

51項目でちゃんとした事業計画書が書けるのならすごいと僕などは思う。

読者が事業計画書を作らなければいけない立場にあるなら、他の本はさしおいてまず手にとって見たくなるはずだ。それで内容がよければ買うだろう。

51と71。どちらも大きな数字を使っているが、受け取る印象はここまで違う。

要するに具体的なイメージとそのイメージによる安心感が与えられるのであれば、数字は入れるべきだ。

もしかしたらストレス管理の専門家から、71というのは専門家なら知っている科学的根拠のある数字なのだという反論があるかもしれない。本当にそうであるならば、読者を誰に想定しているのかという反論が有効になろう。どう考えても、ストレス管理の専門家向けにストレス解消法の本を書く人はいないだろうから。

 

するに、想定読者がどんな人たちで、その人たちがどういうイメージを受け取り、そのイメージにしたがってどう行動するかを地道に考える――まさに王道しかないということなのだ。 

それがしっかりできているならば、数字を入れようが、ワクワクというような言葉を入れようが、××の秘密などと謳おうが、ありなのだ。

ただ、これらの言葉を入れるリスクは非常に高い。読者は、これらの言葉が入っているだけでダメと決め付ける傾向がすでに出てきているからだ。よほどしっかりとイメージが喚起できるものでないと、せっかく内容が良くても二番煎じと取られるリスクが、いまは高まっていると言ってよい。

キャッチコピーやタイトルに数字を入れることにはそれだけのリスクがあるということを再指摘しておく。

 

だと思うのなら、TSUTAYAの2011年の総合ベストセラーランキングを見るがいい。

http://shop.tsutaya.co.jp/book/tokusyu/rank2011_01.html

数字が入っているベストセラーは1つだけ。『9割がバイトでも 最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方』という本だ。

しかし、この「9割」は実に具体的で、これがあってこそ売れたといえる数字である。煽りの数字ではない。

他の煽り系の言葉も使われていない。

いや、ビジネス書は違うのでは?

自己啓発のランキングはこうである。

http://shop.tsutaya.co.jp/book/tokusyu/rank2011_01/05.html

あいたた。いきなり1位が「100の言葉」だ。ただ、これは読んだが、いい本です。著者が100という数字を決めて、とにかく搾り出した、という感じがいい。5位の「1年目」はターゲットを明確にしただけで煽りの数字ではない。

こちらも煽り系の言葉は少ない。本の内容の肝心な部分を短い言葉で伝えようという心意気を感じる。

問題は、仕事術だなあ。

http://shop.tsutaya.co.jp/book/tokusyu/rank2011_01/05.html#bisiness

うわあ。数字だらけ。煽りだらけ。

反省&一部訂正。マーケットの特質が煽り系タイトルを好むのだとはっきりしていれば、ぜひお使いください。

 

このブログは、仕事それ自体を楽しむ人を増やすことを目的に書いています。

なお、僕はこういうことを見聞きして、こういうことを感じたということを書いているだけなので、牽強付会なところもあるでしょうが、大人の心で見逃してやってください。

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