コトづくり百景〜「コト」は、体験や経験を売ること
これまで「コトづくり」が必要とされる背景について「企業」「個人」「社会」の変化から考えてきました(いまなぜ、「コトづくり」か? 〜「企業」「個人」「社会」の変化から考えてみる〜)。これからのシリーズでは、「コトづくり百景」として具体的なコトづくり事例を紹介していきたいと思います。
まず、「コトづくり」の背景として特に重要な”サービス・ドミナント・ロジック”と”デザイン思考”の考え方をおさらいしておきたいと思います。
- モノのコモディティ化とサービスドミナントロジック
モノのコモディティ化の進展は、近年最も悩ましい問題ではないでしょうか?品質や機能といったモノやサービスの単体の”交換価値(グッズ・ドミナント・ロジック)”ではもはや差別化は難しく、モノやサービス全体の”使用価値・経験価値(サービス・ドミナント・ロジック)”に人々の関心が高まっているからです。
そして、多少高くても信頼できるお気に入りの企業の製品(モノ)やサービスを使い続けたいといった消費者の心理にも変化が出て来ています。
従来のモノやサービスの単体としての考え方である”グッズ・ドミナント・ロジック”に対して、この”サービス・ドミナント・ロジック”の考え方は、モノのコモディティ化に対抗する企業の考え方として「コトづくり」の実現に必要な視点ではないでしょうか?
- 「経験をデザインする」という考え方
昨今”デザイン思考”が注目される背景には、デザインにサービスや行為や経験を創出するという、あらたな役割が求められるようになってきたことがあげられます。
これは、「経験デザイン」といわれますが、「経験デザイン」にはいくつかの領域があると言われています。具体的には、「情報とのかかわり」や「人的サービス」そして「モノとの関わり合い」などです。
例えば、「ユーザがウェブサイトからスムーズな知識を得て最適な購買を決定する」といったプロセスも、経験デザインの領域です。あるいは、「病院で患者がストレスのない高質な治療経験を得られるようにする」、といった心理的領域もあります。また、「電気自動車のユーザがどのような「移動体験」をするのかを、ハード、ソフト、情報を含めてデザインする」、といった領域も期待されています。
20世紀に比べてデザインの対象が「総体的なユーザの行為や経験」となり、モノやサービスはその媒体として位置づけられるようになりました。これを「コトの中にモノを埋め込む」と表現します。これがまさに「経験デザイン」、あるいは「経験価値デザイン」とも呼ばれる方法論だと言われています。
- 「コト」は、体験や経験を売ること
スターバックスが提供しているのは、単なるコーヒーというコモディティ化されたモノではなく、「人々にとっての"サードプレイス"」だと言われています。つまり、自宅やオフィスに次ぐ第三の場所です。
最近では、東京・世田谷の住宅街のど真ん中の実験店をはじめ、さまざまなコンセプトストアをオープンしています。
例えば、建築家 隈研吾氏により「自然素材による伝統と現代の融合」というコンセプトをもとに設計され、伝統と現代を融合した店舗(太宰府天満宮表参道店)やシンプルで明るい店内に、日本ならではのおもてなしの心を表現した店舗(目黒店)やもオープンしているようです。
BMWは、「究極のドライビング体験」を提供する企業として昔から有名です。そのスローガンは、ズバリ「駆けぬける歓び」。学生時代は、もちろん、今もとても共感するメッセージです。
単なる移動手段としての自動車からモータースポーツとしての自動車の世界を「駆けぬける歓び」というフレーズで表現しています。駆けぬける歓びとは、かつてないクルマとの一体感。そして、道との対話を表現したものです。
特にモータースポーツ活動に力を入れるBMW社 M社のフィロソフィーには、同社のエンジニア達は常に革新的な目標にむかって、新たなテクノロジーを開発し続けており、エンジニアリング、テクノロジー、リサーチ、そして、真の駆けぬける歓びを創造しようとする純粋な想いが、この企業の全ての原動力となっていると記しています。
スポーツ用品メーカであるナイキでは、先頃発表した「Nike+ FuelBand SE」をはじめとした、Nike+ プラットフォームで人々の全ての活動を記録する取り組みを開始しています。これは、より多くの情報やモチベーションを消費者(ランナー)に提供し、ランナーがさらに活動的になることを目指しています。
Nike社のデジタルスポーツ担当者は、「消費者に最高のエクスペリエンスを、すべてのレベルのアスリートにモチベーションと刺激を提供します。」と宣言しています。
次回以降は、コトの中にモノを埋め込んだ「コトづくり」事例を紹介していきたいと思います。みなさんからの様々な「コトづくり」事例の紹介もお受けしたいと思います。
(つづく)