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サービス化時代の潮流、ビジネスモデルを探る。週末はクワッチ三昧!

オオクワガタとサービスサイエンス -アフターデジタルの世界

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 様々なコトづくりに関して連載しているこのコーナーで久しぶりに"オオクワガタとサービスサイエンス"に関する連載をスタートしました。

 過去に数回、ITmedia エグゼクティブ勉強会にて「オオクワガタとサービスサイエンス」をテーマに勉強会を開いたことがあります。好評につき本年7月にも夏休み前の緊急企画としてセミナーを開催予定でしたが、新型コロナウィルスの影響を考慮して泣く泣く延期となりました。

本連載では、最近のセミナーの内容に最新のサービスサイエンスの研究内容も含めて連載しています。

連載3回目となる今回から少しづつサービスサイエンスの内容について足を踏み入れて行きたいと思います。まずは、誕生の背景からアフターデジタルの世界観まで俯瞰したいと思います。

◼️世の中の変化ーお客様のニーズやビジネススタイルの変化

 大量生産で作れば売れた時代には、基本機能の製品を大量生産すれば売れる時代でシステム化すれば効率アップが可能でした。やがてより良いものが欲しい、画一的なモノに飽きた顧客からOne to Oneが要求されるようになりました。そして現在では、お客様自身、欲しいモノが分からない時代になって来ていると言われています。
 そして世の中のビジネススタイルが一気に変わりつつあります。特に我々が身をおくIT業界では、いわゆる受託型ビジネス(このような仕事は減少し事業の継続が難しい)から提案型のビジネス(顧客ニーズがつかめない中で推測して提案)、そして問題探索型のビジネスにシフトしてきているように思います。
 この問題探索型のビジネスに対応するためには、お客様の身内になりお客様の業務を理解する、一緒に仕事をして解決すべき問題を見つける努力が必要になります。そしてモノからコトへ、すなわちサービタイゼーションの波にも対応しなければなりません。
このような変化についていけないようではライバルとの競争から脱落するかもしれません。

◼️改めてサービスについて考える

 ここで改めて"サービス"について考えて見たいと思います。意外と知られていない事実なのですが、サービス業は、米国のGDPの約80%、日本や欧州では、GDPの70%を超えています。製造業であっても、製品がコモディティ化すると、製品に付与されるサービスの品質や多様性が事業の成否を決めてしまう時代となっています。こと最近のDX狂想曲を見てもモノではなくコト(サービス)が企業の競争優位そのものになっていることがお判りいただけると思います。

サービスは企業の競争優位そのもの.png

 サービスビジネスといっても様々なタイプのサービスビジネスが考えられます。コモディティ化した製品では製品そのもの(モノ)だけでの差別化が難しくなっています。アフターサービスのように継続的に利便性を提供し収益を得るビジネスモデルが重視されてきました。モノに付随するサービスだけでなく、ソフトウェアパッケージもASP SaaS 、クラウドの形で提供され始めており、サービスの重要性は、ますます高まっています。

サービタイゼーションの波.png

◼️サービスサイエンスの背景

サービスサイエンスは、Wikipediaによると下記のように紹介されています。

サービス科学 (サービス・サイエンス、英: service science) とは、経営工学、社会工学、システム科学、生産管理、サービス・マーケティング、マーケティング・サイエンス、法律学、経営戦略などをはじめとする様々な学術分野が融合し、サービスについての研究を行う新しい領域の学問である。

出典:Wikipedia

 2002頃から米IBMからサービスサイエンスという言葉がささやかれ始めました。2004年の米国経済のGDPにおけるサービス産業が占める割合は79%でしたが、同年12月に米国の競争力協議会(米IBMサミュエル・J・パルミサーノ議長)が発表した「INNOVATEAMERICA」という米国のイノベーション戦略レポートにて、"サービスサイエンス"が取り上げられ、関心が高まりました。
 金融のグローバリズムの展開を踏まえ、"金融ビジネスの中心を米国へ"という思惑もあったと言われています。サービスによって富を集めるという国家プロジェクトはやがて金融から都市計画や土木などの領域に移り、スマートシティなどの構想へ広がっていきました。IBMでは、その流れからスマータープラネット構想を2009年に発表することになります。
 サービスの定義については、諸説ありますが、我々情報処理学会のサービスサイエンスフォーラムでは、下記のように定義しています。

人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するものを「サービス」という。

出典:「顧客はサービスを買っている」諏訪良武氏

ここでの定義のポイントについて整理しておきたいと思います。

①そもそもサービスの本質は、「機能」の発揮である。

②サービスは、「人」だけでなく「構造物」も提供する。

③お客様の「事前期待」に合うものをサービスと呼ぶ

 ②は、例えばに機械だけでもサービスは提供できますが(ex.コインランドリー)、多くのサービスは人と構造物で提供しています( ex.タクシーとドライバー)。
 そして大切なのは③の考え方です。それは事前期待に適合しないものはサービスとは言えないということです。これは、「余計なお世話」「迷惑行為」「無意味行為」となってしまいます。このように考えるとお客様の事前期待を把握しなければ適切なサービスは提供できないこともお分かりいただけると思います。
 皆さんのお店や会社が提供するサービスは、事前期待に合っていますか?「自社中心」や「自分中心」になっていないでしょうか?

◼️アフターデジタルの世界観

 最近のアフターデジタルという概念が注目を集めています。サービスサイエンスの世界でもこの概念を踏まえた議論が必要だと思っています。これまでの世界観は、当たり前ですがまずはリアルの世界が前提でした。つまりリアル(店や人)で接点を持つ人がたまにデジタルでもつながる世界です。

 一方、アフターデジタルの世界観は、デジタルで常につながっている人が、たまにリアルの場での接点を持つようになると指摘します。言われてみれば、オオクワガタブリードサービスは、既にアフターデジタル前提のつながりをブリーダーの皆様としているように思います。

アフターデジタルの世界観.png

◼️サービスサイエンスの拡張

 このアフターデジタルの世界をサービスサイエンスの考え方を元に整理してみるとどうなるでしょうか?これまで主にリアルの世界での接客やオペレーションを対象としてきたサービスサイエンスの概念を拡張することができるのではと感じています。これまでは、ホテルや店舗の顧客接点の現場を中心にサービス品質や顧客の事前期待を議論していました(サービス品質や事前期待については今後紹介していきます)。

 しかし、アフターデジタルの世界では、初めからデジタルで常につながっていることを前提としたサービスの設計が重要になります。リアルでのサービス提供以上にサービス品質で議論されている「共感性」「好印象」が求められ、より「個別の事前期待」に応えること(パーソナライズした対応)が求められてくると考えられます。

サービスサイエンスの拡張.png

このアフターデジタルにおけるサービスサイエンスの実践については別途記載したいと思います。

次回からは、まずサービスサイエンスの基本的な考え方について掘り下げていきたいと思います。

(つづく)

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