いまなぜ、「コトづくり」か? 〜「企業」「個人」「社会」の変化から考えてみる〜
いまなぜ 「コトづくり」が注目を集めるのか?日本の将来を考える上で必要な視点はズバリ「モノからコトへ」の転換だと宣伝会議の11月号へ寄稿した(「コトづくりの国、ニッポンへ」)。そこで、今回は「コトづくり」が必要とされる背景について「企業」「個人」「社会」の変化から考えてみたい。
- 企業の変化
日本企業は、生産のグローバル化が進み、「モノのコモディティ化」に代表されるビジネス環境の変化の中で、お客様のモノやサービスに対する価値追求が「交換価値」から消費者の「利用価値」へシフトしています。
もはや、ものづくりは特定の企業や職人のものではなくなり、世界を大きく変えるだろうと『MAKERS』の著者クリス・アンダーソンは予言します。これまで「ものづくり大国」を支えてきた日本の製造業は、よりオープンに社内外とつながりながらアイデアを形にするための変化や柔軟性が求められます。「メイカームーブメント」は、「21世紀の産業革命」とも言われ、ものづくりで世界を席巻してきた日本企業も、もはや無視できない大きなトレンドとなって来ています。
そして成熟化した市場では、企業は、なんとか自社のモノやサービスを売り込もうと「フリーミアム」など新しいビジネスモデル(基本的なサービスや製品を無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能について料金を課金する仕組み)にチャレンジしています。
また、モノやサービスの提供スキームも変化し、企業や業界を超える価値提供の仕組みとして「共創(コ・クリエーション)」が叫ばれはじめています。企業と生活者、また企業とサプライヤなどの協業者間でのICTの活用が変化してきており、企業と消費者を結ぶネットワークも一方向から協働するための双方向の「場」へ変化しています。「オープン・サービス・イノベーション」や「ビジネス・エコシステム」の構築の必要性が説かれるのはそのためだと考えます。
このような“共創”が加速する世界では、知的労働力を募る手段として「クラウドソーシング」が注目を集めています。クラウドソーシング(Crowdsourcing)は、群衆(Crowd)と業務委託(Sourcing)を組み合わせた造語であり、従来から行われてきた、専門性の高い業務を外注するアウトソーシングをさらに一歩進めたもので、業務を”不特定多数に”委託するという点が特徴だと言われています。
- 個人の変化
ニーズやウォンツを考える生活者起点の発想が重視される中で、「デザイン思考」が注目を集めています。デザイン思考は、頭の中で処理される思考プロセスにとどまらず、さまざまな人や場所、モノやサービスとの相互作用など、身体的で実践的なプロセスを通じて知を形成する手法です。
消費動向の変化では、「スペンドシフト」に代表される新しい価値観を持った消費者が出現が注目されています。「自分を飾るよりも自分を賢くするためにお金を使い、ただ安く買うよりも地域が潤うようにお金を使う」。そして、「モノを手に入れるよりも絆を強めるためにお金を使い、有名企業でなくても信頼できる企業から買う」。「消費するだけでなく自ら創造する人になる」といったトレンドです。彼らは、希少な「購買力」を「投票権」のように行使して、社会に希望をもたらし、人の絆を強めるようなモノやサービスを支援することも覚えたと言われます。「宣伝に踊らされてお金を落とす」移り気で受身のかつての消費者ではなく、「自分の意思で目的をもって対価を払う」能動的で思慮深い新しい消費者の姿が浮かび上がってきます。
働き方においても人々の価値観の変化(「ワークシフト」)が注目されています。生活者は、お金と消費に最大の価値を置く発想から、家庭や趣味、社会貢献など多様な選択肢の中で「情熱を傾けられる経験」に価値を置く発想へ転換してきていると言われています。
学びの分野でも多様化が進んでいます。インターネット上に無償で提供されている世界中の教育リソースを自主的な学びに活用する。そんな教育の世界のオープンソースともいえる「オープンエデュケーション」がグローバルな広がりを見せています。
そして社会的課題の解決気運の高まりから「社会起業家」、あるいは「ソーシャルアントレプレナー」と呼ばれる人々が出現しています。彼らは、それまで放置されていた社会問題の解決に革新的なアイデアの創出やビジネスモデルの検討で取り組みはじめています。
- 社会の変化
「私のものはあなたのもの」という「共有(シェア)の文化」の進展により、さまざまなモノやサービスが人々の信頼をまとって拡がりはじめています。ソーシャルネットーワークの浸透やコミュニティの活性化により、環境に対する配慮、コスト意識の高まりとも相まって、生活者は、古いコンシューマリズムに背を向け、シェアし合い、人々が集まり、コラボレーションが進む開かれた社会へと目を向けはじめています。
リアルの世界、バーチャルの世界を問わず、「コミュニティーの活動」が活発化して来ています。単なる集合知ではなく、コミュニティーでの活動(「共働」)をどう「共創」に結びつけていくかが、これから問われていくところです。
日本は2007年に実は65歳以上の老齢人口が全体の21パーセント以上(高齢化率)を占める「“超”高齢化社会」に、世界で最初に突入した国だといわれています。これは、「コトづくり」を考える上でも見逃せないトレンドだと考えます。
また、「サステナブルな社会」とは、「低炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」という3つの要素が組み合わさった社会のことであり、環境を守りながら私たちの暮らしの豊かさを大事にしながら、将来にわたって持続可能な社会を創っていくことが求められています。
そして、これらを支える社会的プラットホームの変化として、「第三のメディア」ともいえるSNSなどソーシャルメディアの進展やインターネットを通じたモノの売買加速、消費者間の情報流通の進展(口コミ情報など)も見逃せません。
- 企業・個人・そして社会の目指す方向性は何か?そしてそれを実現するには。
多様化する世の中では、企業では、従来のモノやサービスの単体での提供ではもはや限界に達しています。お客様のニーズは、サービスサイエンスの世界で言われる「GDL(グッズ・ドミナントロジック」から「SDL(サービス・ドミナントロジック)」への発想の転換が必要になって来ています。
リーマンショックなど未曽有の経済危機や3.11に代表される大震災により、人々は何のために生きるのか。社会のためになることを何か成し遂げたいと自らの生活や人生の価値観の大転換が起こっています。消費や働き方が見直される中で様々なソーシャル課題を解決するために立ち上がる社会起業家の取り組みも見逃せません。
そして、高齢化社会という世界的なトレンドの最先端を行く日本では、高齢者にやさしい街づくりやモノやサービスの提供が必須となります。
このような潮流の中で、モノやサービスが溢れかえった現代の生活者のニーズやウォンツを満たすためには、単にモノとサービスを組み合わせて販売されるだけでは消費者の購買意欲は喚起されません。個人や企業、社会の目指す方向性を実現するためにさまざまなモノやサービスを組み込んだ「コトづくり」の仕組みを考える必要があると考えています。
次回以降、今回の議論で出た「コトづくり」に関連するキーワードをいくつかピックアップしてより詳しく考察していきたいと思います。
《企業の変化》
- 「モノのコモディティ化」「SDL(サービス・ドミナントロジック)」
- 「フリーミアム」
- 「メイカームーブメント」
- 「共創(コ・クリエーション)」「オープン・サービス・イノベーション」「ビジネス・エコシステム」
《個人の変化》
- 「デザイン思考」
- 「スペンドシフト」
- 「ワークシフト」
- 「オープンエデュケーション」
- 「社会起業家」「ソーシャルアントレプレナー」
《社会の変化》
- 「共有(シェア)の文化」
- 「コミュニティー」
- 「“超”高齢化社会」
- 「サステナブルな社会」
- 「第三のメディア」
(つづく)