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オオクワガタとサービスサイエンス -事前期待について考えたことがありますか?

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 様々なコトづくりに関して連載しているこのコーナーで久しぶりに"オオクワガタとサービスサイエンス"に関する連載をスタートしました。

過去に数回、ITmedia エグゼクティブ勉強会にて「オオクワガタとサービスサイエンス」をテーマに勉強会を開いたことがあります。好評につき本年7月にも夏休み前の緊急企画としてセミナーを開催予定でしたが、新型コロナウィルスの影響を考慮して泣く泣く延期となりました。

本連載では、最近のセミナーの内容に最新のサービスサイエンスの研究内容も含めて連載しています。

連載6回目となる今回は、サービス品質と並んで重要な概念である事前期待について言及してみたいと思います。

◼️事前期待について考えたことがありますか?

 私のオオクワガタブリードサービスでは、年間を通して様々なやりとりが発生します。オオクワガタの飼育情報や飼育個体の産地や血統など非常に多岐に渡ります。いつしか全国の愛好家の方々(場合によっては海外からも)から私のブリードした個体が欲しいと期待されるケースも増えてきました。ネット上のやりとり故にそこには本当の価値が正しく伝わらないケースがあります。

オオクワガタブリードサービスで心がけていることは、その個体の価値を正しく理解していただくことです。個体の良さが正しく伝わっていない場合には、産地の情報や個体の写真を掲載することで価値をあげるアクションを取ります。また過度な期待を持たれているお客様には、"コンテストに入賞した血統ですが、大きさはさほど大きくはありません"と実態を正しくお伝えします。

 拙著「勝負は、お客様が買う前に決める!」(ダイヤモンド社)の表紙の帯の下には、下記のようなピクト図が掲載されています。この図で紹介する事前期待とは、文字通りサービスやモノに対するその人が抱く事前の期待です。下記の図はダイヤモンド社の編集者のアイデアだったのですが的を得ており、とても気に入ってます。

人は、サービスの提供を受けるときに何かしら期待を抱くものです。その事前期待が過度に大きすぎると実績とのギャップに落胆して"何だもう使うまい"となってしまいます(最下段)、抱いていた事前期待と実績評価がほぼ同じ場合は"印象が薄く"なります。

一方、正直期待してなかった本やドラマが予想以上に面白かったり、付き合いで行ったテーマパークのアトラクションが想像を超えて(事前期待を上回って)よかった場合には、"さすがディズニーランド♪"となり、"聞きしに勝る"という印象になります。

事前期待について考えたことありますか?.png

◼️事前期待の種類とは?

 では、事前期待の種類について紹介してみましょう。わかりやすく考えるために下記の例は拙著からの抜粋です。

ある野球少年がグローブを買うことを想像してみましょう。まず、外野手のグローブは、大飛球を捕るために通常よりも指の部分が長めのタイプが好まれます。これは、一流外野手を目指す選手の誰もが共通的に持つ期待ということで「共通的な事前期待」と呼ばれます。

太郎くんは、イチロー選手の大ファンです。イチロー選手が使っているグローブのデザインを採用したモデルが欲しくてたまりません。これは、個人的な好き嫌いを反映する事前期待ということで「個別的な事前期待」と呼ばれます。

続いてスポーツショップの店長さんが、太郎くんの現在の気持ちを察知して提供するようなサービスを「状況で変化する事前期待」と呼びます。グローブを買おうと来店した太郎くんがバット売り場のイチローモデルのバットに興味を示して足を止めているときに「グローブと一緒に買ってくれたら1割引にするよ」とささやくような場合です。

最後にスポーツショップの店長さんは、太郎くんへのサプライズとしてイチロー選手のポスターをプレゼントしました。太郎くんは、まったく予期しないプレゼントに大喜びです。これは本人も気づいていない潜在的な期待ということで「潜在的な事前期待」と呼ばれます。

事前期待の種類.png

◼️どの事前期待に適合するか?

 事前期待の種類、言ってみればお客様の事前期待の持ち方には4つあることを述べましたが、どの事前期待に応えるかでサービスの評価が決まります。

「共通的な事前期待」は、誰もが期待する事前期待です。例えば、レストランでは誰でも清潔かつ適切で均一はサービスを提供して欲しいですし、定食屋さんでは注文した順番を間違えずに早く食事を出して欲しいとみんなが考えます。「共通的な事前期待」に応えると、お客様にとっては"当たり前サービス"だったり、"マニュアルサービス"、場合によっては"価値あるサービス"と評価されます。

では、「個別事前期待」に応えるとお客様はどのような印象をもつでしょうか。「共通的な事前期待」と同じように"価値あるサービス"と評価する場合もあるでしょうし"ワン・トゥ・ワンサービス"だったり、"すばらしいサービス"と評価されることもあるでしょう。

「状況で変化する事前期待」に応えると、"すばらしいサービス"、あるいは"ホスピタリティサービス"、または"感動サービス"と評価されます。タイミング良く、お客様のその時の状況に応じた事前期待に応えると、サプライズが生まれる可能性があります。

そして「潜在的な事前期待」に応えると、"ホスピタリティサービス"、あるいは"感動サービス"と評価されます。お客様が意識していない事前期待に応える訳ですからうまくいったときのお客様の満足度は、他の事前期待に比べて群を抜いています。

私のオオクワガタのブリードサービスでも取引経験のあるお客様に、来年のブリード(繁殖)用の個体をお勧めする場合があります。大型でガッシリした佐賀産を購入したお客様に「同じ九州産でガッシリしていますが、光沢のある熊本産の個体はいかがですか?」とお勧めして喜ばれる場合もあります。

一方、お客様の事前期待に合っていない場合はどうなるでしょうか。良かれと思ってしたことが逆に"大きなおせっかい"となる場合もあります。ネットの世界では、ステマ(ステルスマーケティング)と判断されてしまう場合がありますので注意が必要です。

アフターデジタルの世界では、このようなやりとりがソーシャルメディア上でオープンになり、多くの聴衆の目に晒される可能性もあります。常にその事を意識してお客様の事前期待を察知してサービスを提供する事を心掛けなければなりません。

どの事前期待に適合するか?.png

◼️事前期待をマネジメントする

 事前期待は、高ければ高いほど良いというものではありません。また、逆に低ければ低いほどその後の顧客満足が上がるというものではありません。過度に事前期待が高まりすぎたり、逆に低すぎるとお客様の離反につながります。まさに「事前期待の悲劇」です。

モノやサービスに対する事前期待は、適切なレベルに維持しなければなりません。本来の事前期待のマネジメントの方向性は、提供するモノやサービスの実力に沿った事前期待に誘導するのが妥当だと考えています。決して実力以上に期待を煽ったりコントロールしてはいけないと考えています。

事前期待のマネジメント.png

例えば、私のブリードしたオオクワガタの価値は、愛好家の方々からは、その"大きさ"もありますが、"カタチ"や"ディンプル(凹み)の有無"といった"個体の美しさ"にあります。そのためブログやショップ(BASE)での個体の紹介では如何に実際の様子を伝えるかがポイントになります。

第11回美形オオクワガタコンテスト入賞個体.png

写真のようなコンテストに応募するようなハイレベルな個体なら未だしも全ての個体が素晴らしいとは限りません。場合によっては、多少ディンプルのある個体もいるのです。そのような個体については、正直にその箇所がわかるような写真を掲載することが、"過大な事前期待"を冷ますことになるのです。

また、個体の大きさや美しさだけではなく、希少産地の個体であることも愛好家の方々にとって重要な価値となります。その場合には可能な範囲で採集地の情報や地勢などを付帯情報としてお伝えするようにしています。"過小な事前期待"しか持っていなかった個体が妥当な事前期待に向上する場合もあります。

次回は、事前期待でお客様のペルソナを考えてみたいと思います。

(つづく)

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