オオクワガタとサービスサイエンス -プロセスと成果の関係
様々なコトづくりに関して連載しているこのコーナーで久しぶりに"オオクワガタとサービスサイエンス"に関する連載をスタートしました。
過去に数回、ITmedia エグゼクティブ勉強会にて「オオクワガタとサービスサイエンス」をテーマに勉強会を開いたことがあります。好評につき本年7月にも夏休み前の緊急企画としてセミナーを開催予定でしたが、新型コロナウィルスの影響を考慮して泣く泣く延期となりました。
本連載では、最近のセミナーの内容に最新のサービスサイエンスの研究内容も含めて連載しています。
連載5回目となる今回は、この連載でも度々紹介しているサービス品質についてプロセスと成果に着目して言及してみたいと思います。
◼️サービスを2つの視点で考える
サービスを分解すると様々な要素が浮かび上がってきます。結果(成果)さえ良ければ良いかというと実は、そのサービスの提供プロセスが重要な役割を果たしています。
どんなに素晴らしい料理を提供する料亭でも仲居さんや料理人がぶっきらぼうで愛想がなければ評価は上がらないことは容易に理解できると思います。
筆者の所属するIT業界でもシステム構築や保守・メンテナンス作業を考えても予定日通りにシステムは稼働した、故障を修理したとしてもその提供プロセスであるシステム構築プロセスや修理過程で横柄な対応をエンジニアが取ったならば高い満足は得られません(下図の交わりの部分)。
◼️オオクワガタブリードサービスにおけるプロセス品質とサービス品質
オオクワガタブリードサービスにこのプロセスと成果を当てはめてみるとどうでしょうか?
実は、ご覧のような魅力的な個体の提供だけでは、もはやブリーダー諸氏の高い満足は得られないのです。
サービスの成果、例えば個体の提供では健全な個体をお客様の希望納期と予算で提供し(QCDの遵守)、さらにその個体の紹介から飼育データや血統・産地の紹介、取引での迅速且つ柔軟な対応、取引後のフォローがブランド確立の重要な要素になってきます。
リピートいただけるお客様は、個体の満足(成果品質)だけでなく、提供時の様々なアクション(プロセス品質)を気に入っていただいたお客様が多いように感じます。
"飼育に関して素人な私に色々とアドバイスをいただきありがとうございました。これからもよろしくおねがいします!"
"個体は勿論大満足ですがお届け日時に柔軟に対応いただいただけでなく完璧な梱包で届けていただき感激しました!"
といった声は、取引き後のお客様からよく聞かれる言葉です。
◼️6つのサービス品質とは
提供するサービスが高い評価を得るためにはサービス品質を向上させなければなりません。サービス品質には「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」の6つの評価軸を先ほど意識した成果品質とプロセス品質のスケール上で意識して管理していく必要があります。
まずはサービスには「正確性」が求められます。どんなサービスでも正確でなければお客様の支持は得られません。次に「迅速性」ですが、デジタル化などによって世の中のビジネスはますますスピードが重視されています。「迅速性」は"時間"という分かり易い定量的な物差しで測れるため評価に大きく影響を与えます。よく製造業は秒単位でなのにサービス業は時間や日単位で管理されていると言われてきましたが、これからはデジタル化が進み秒単位のマネジメントが求められてくるかも知れません。
次に「柔軟性」ですが、これはお客様の様々な要求に応えるために必要となるサービス品質です。そして「共感性」は、お客様が何を望んでいるのか把握するために欠かせません。安心感は、デジタル化によってますます重要視される指標であると考えています。最後は「好印象」。リアルワールド、デジタルワールド問わず、従業員やスタッフの温かい対応が求められます。
◼️オオクワガタブリードサービスにおける6つのサービス品質
6つのサービス品質は、提供するサービスによって重きが変わります。例えば、駅前の定食屋や立ち食いそば屋では正確性や迅速性がサービスの基本です。大切なお客様を接待する料亭では、女将の共感性や好印象が重要になってきます。
オオクワガタブリードサービスでは、長年の経験から下記の図にある赤字の4つのサービス品質を重視してきました。いつ何時もブリーダーの立場に立って(共感性)、顔の見えないネット取引の初心者でも安心して(安心感)、時には臨機応変に対応し(柔軟性)、フレンドリーな対応(好印象)を心掛けています。
◼️6つのサービス品質と役割
この6つのサービス品質は、並列にあるのではなく、お客様の顧客プロセスとサービス提供プロセスに合わせて役割があると考えています。
まず基本となるサービス品質の「正確性」や「迅速性」は、実現して当たり前の領域で日本の多くの大企業や名だたるサービスではこの2つのサービスがシッカリと提供できていないところはないと思います。
「柔軟性」でお客様の期待に応え、「安心感」で不安を払拭し、「共感性」の発揮によってお客様の事前期待を読み、「好印象」でお客様に信頼してもらいます。
オオクワガタブリードサービスのように趣味の領域のサービスでは、特に「共感性」はとても重要なサービス品質となります。特に個体への拘りは、素人には理解できないような内容も含まれます。
"大顎の湾曲は、両血統ではどちらの血統がより強いでしょうか?"(大顎の形状に敏感なお客様)
"この個体群は、一昨年羽化のようですが来春のブリードに使用することができますか?"(繁殖に関する悩み)
"来春この♂に掛け合わせるにはどの系統の♀が良いでしょうか?(種親選別の悩み)"
このような拘りは、ブリーダーの世界では当たり前のことなので「共感性」を持ってお客様のニーズを感じ取って対応することがプロフェッショナルサービスには必要な内容となります。
前々回のブログでご紹介したアフターデジタルの世界になるとこれまでにも増して「安心感」が重要になるかも知れません。何故ならば、アフターデジタルの世界はデジタルで常につながっている人が、たまにリアルの場での接点を持つようになる世界であり、見ず知らずの人との取引が大きな不安要素になるからです。
このようにサービス品質は、これからもビジネス環境の変化によって重視するポイントが変わって来る可能性があります。どのサービス品質を重視するかは、サービス提供業者の戦略でもあり、今後も意識すべき要素となります。
次回は、もう一つの重要な要素である事前期待の考え方について掘り下げていきたいと思います。
(つづく)