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人材育成の現場で見聞きしたあれやこれやを徒然なるままに。

宮崎議員騒動と男性の育休推進問題がごちゃごちゃになっていて気持ち悪い、件。

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宮崎某氏、妻が出産を間近に控えていて、それなのに、妻以外の女性となんだかんだ・・「それは、けしからん!何考えているんだ!」となったのは、単に「浮気」が問題ではなく、その前に派手に「男性にも育休を認めろー!がおー!」と訴えていたからに他ならず、ただの「浮気」案件であれば、「ばっかもん!」で終わったであろうけれど、色々あって、辞職というザンネンなことになってしまった。彼が辞職するのが「ザンネン」なのではない。そのために、再選挙をし、また多くの税金が使われるのだなぁと思うと、そこが残念なのだ。

宮崎某氏のことはどーでもいい。 この後育休ととろうが、無職だからそもそも休みだろう、とか言われようが、夫婦の関係がどうなろうが、これは、世間がどうこう言うことではない。夫婦の問題である。

男性育休についても、「取りたい」と思う人は、頑張って取得すればよいし、そういう人を「応援したい」と思えば、「頑張れ―」とエールを送ったり、実際に取得できるよう協力したりすればよい。それだけの話である。


ところが、なんだか、世間の論調は妙な方向に進んでいる。

たとえば、毎日新聞に、こんな記事が出ている。


東京都文京区の成沢広修(ひろのぶ)区長は、自身のフェイスブックで「(辞職すれば)もう仕事は無いんだから育休は取れないわけで、専業主夫になってママと子どもに向き合ってほしい」と注文。騒動の影響については「男性育休はいまだハードルが高い」「取得者はそれぞれ勇気と決意と責任を持って会社に申し出ている。今度の一件でさらにハードルが上がる危険性が高い」と懸念を表明した。 (赤字は、田中がつけた)

え?なんで? 

「今度の一件でさらにハードルが上がる危険性が高い」と懸念。

なんで?

だめんず議員の一人が何かやらかしたからって、そんなに「さらにハードルが上がる」なんてことがあるの?
マジか?


さらに、この記事には、こうもある。


宮崎氏の育休宣言を支持するイベントを開いたNPO法人「ファザーリング・ジャパン(FJ)」の安藤哲也代表理事は「議員の育休取得の議論はしばらく停止してしまう」と落胆。一般男性の育児参加についても「男性は職場の空気を読む生き物。今回の件で育休取得を言い出しにくくなる人もいるのでは」と懸念する。

え?だからなんで?

今回の件で、なぜ言い出しにくくなるの? そんなに大物?宮崎議員。各企業に多大な影響を及ぼすほどの活動をしていたのか?

なんだろう、この違和感。お尻がむずむずする感。

「男性の育休に逆風」という言説も何度も見たけれど、どこがどう「逆風なのか」と不思議でショーがない。

論理的にどこがどうつながるのか、理解できない。

私が入社した30年前、女性に育休制度はなかった。
「産前6週産後8週」それだけである。


生後2ヵ月のちっちゃな赤ん坊を預けて仕事を再開するか、他の選択肢を考えなければならなかった。
私も28歳くらいで子どもを産む・・という考えが当時はあったので、生後2ヵ月の赤ちゃんがいる友人宅に「どれほど小さいのか」を見せてもらいにいったこともある。本当に小さくて、「こんなにちびっこい、まだふにゃふにゃな子どもを預けて仕事を再開しなければならないのか」と愕然というか、びっくりした記憶がある。

それはないよ、とやはり、大勢が思ったのだろう。
多くの女性(もちろん、男性も)が声を上げ、行動を起こし、少しずつ制度も整ったし、取得率も上がった。
取得率は、取得する人が増えることでしか上がらない。
だれが取得するか、といえば、当事者だけだ。

男性も同じだ。

男性が声を上げ、行動を起こし、少しずつ取得率を上げるしか方法はない。
これは、当事者にしかできない。

大事なのは、自分の信念と行動力と鈍感力だ。

この話は何度も書いているけれど、あらためて書いておきたい。

1年上の女性の先輩の話だ。

彼女は、24-5歳くらいの時、出産し、産後8週で復職した(なんせ、30年前。育休制度は存在しない)。
授乳中である。

どうしたか。

上司にかけあって「会社で搾乳、冷凍保存する」ということを決めた。

お昼休みに、窓がなく、鍵がかかる会議室は、彼女が占有することとなった。
オフィスに設置してある冷蔵庫の冷凍庫には、彼女が搾乳したおっぱいパックが冷凍された。
この先輩は、帰宅する際、そのおっぱいパックを冷凍庫から取り出し、持ち帰った。

来る日も来る日も「ランチタイムは部屋に籠って搾乳、おっぱいパックを冷凍庫にしまい、夕方それを持ち帰る」を繰り返した。

当時、上司やリーダークラスはほぼ全て男性だったが、外資系だったこともよかったのか、誰も何も言わず、彼女に協力した。

ある日、彼女に客先で終日過ごす必要のある仕事がアサインされた。

「仕事はいいのだけれど、搾乳が・・」ということになり、担当営業がクライアントの担当者と話し合い、自社と同様に、「搾乳のためのカギ付き会議室」と「冷凍庫」をお借りできることになった。そして、その仕事は無事、終了した。

この先輩は、声高に何かを訴えるタイプではない。とても穏やかで、おっとりした女性だ。

「仕事をしたいので、おっぱい問題に協力してほしい」と考え、上司や先輩、あるいは、関係する同僚たちに話して、理解を得た。

私はまだ若かったので、「出産して復職するとこういうことがあるのかぁ」と目からウロコだったし、全ての人がそれを自然に受け入れている職場の雰囲気に「いいなぁ」とも思ったものだった。

自分の世界を変えたければ、自分が動くしかない。

声高に叫ばなくても、「こうしたいんですが、協力していただけないでしょうか?」と働きかけることならできるはずだ。

いくら外資系でも「会議室で搾乳、オフィスの共有冷蔵庫でおっぱい冷凍」ということをした人はそれまで誰もいなかった。

したいと思ったその人が動いた。みんなが受け入れ、協力した。


宮崎なにがし、がどれほどの影響力を持っている(持っていた)のか知らないが、「宮崎氏のせいで、男性育休が言いづらくなったじゃないか」と思っている人がいたら、それは、「言い訳」に過ぎない。

自分の道は自分で切り開く。
本気で、「育休を取ることが大事」と思うなら、「宮崎某のせいで」などと言っている時間ももったいないので、上司や周囲に話すことから始めたらよいと思う。

「前例がないと行動しづらい」という人もいるだろうが、前例は「誰か」が作らなければ「前例」にはならない。
「誰かが道を作ってくれたらいいのになぁ」と指をくわえて、前例作りをしてくれる人を待つことなんてない。
さきほどの先輩の話だって、「前例がない」ことだらけだったから、皆が揃って「学習」したのだ。

よく新人などを指して、「自分で考えて、自分で決めて、自分で行動する、主体的な人になって欲しいもんだ」と言うではないか。
育休を取りたいと思うなら、動いてみたらいい。

「隗より始めよ」である。

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昨年、勤務先グローバルナレッジネットワークで、「男性の「育休シテミタ」」という話をしていただいた時の記録がコチラ
「授乳以外は全部やる!」で働いてみた経験と周囲の反応(がとても興味深い)。

そのほか、サイボウズさんの話題の動画についての記事がコチラ1コチラ2

男性育休については、この本がとても面白かったので、お奨め。
妻が呑んで帰ると、オレは育児しているのに、呑んでくるなんて!と怒る・・・なんて、男女が逆になっても同じ感情が沸き起こるんだな、ということが学べる。

『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』

※私自身は、出産経験はないが、介護問題直面中である。

介護問題も同じで、訴えていくしかない。上司に話した、周囲に話した。
話さなければ理解も得られないし、周囲の協力を仰ぐこともできない。

育児も介護も、つまり、プライベートライフでの問題は、当事者が行動することでしか事態も世の中も動かない。

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