【書評】レッドビーシュリンプの憂鬱
こんにちは、しごとのみらいの竹内義晴です。
いま、@IT自分戦略研究所で連載している、仕事が「つまんないまま」でいいの?の編集者より、レッドビーシュリンプの憂鬱という小説の書評を依頼されました。
著者は、@ITのエンジニアライフでPressEnter■というブログを執筆されているリーベルGさんです。リンク先のブログのタイトルリストを見ていただくと一目瞭然ですが、「小説を書くのがお好きなのだろうなぁ」というのが一目でわかります。
ブログの自己紹介欄には
ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。
とあるので、趣味で書いてらっしゃるのかしら。趣味の領域を超えているなぁ。なぜなら、今回、書籍化される本は331ページ。それ以外にも、ブログ上にはいくつかのタイトルがあります。たぶん、小説を書くのがお好きなんだろうなぁ。そのエネルギーが、書籍化につながったように感じます。
では、早速ですが感想です。ボクは、リーベルGさんとは何の面識がありません。その分、しがらみも遠慮もなしに、感じたことを素直な気持ちで綴ってみたいと思います。
この小説の感想を一言で申し上げれば、「かなり、考えさせられる内容」でした。エンジニアの人たちが悩むであろう、「エンジニアとしてのキャリア」や「組織のあり方」について、かなりセキララに描かれているように感じます。業界で働いたことがないと書けない内容。
リーベルGさんがどのような年齢で、どのような経歴をお持ちなのか分かりませんが、「ふつーのプログラマ」ではないことは簡単に察しが付きます。なぜなら、プログラマーに限らず、あらゆる立場の「IT業界あるある」を見事に描いているからです。
例えば、自身がプログラマーなら、文中に描くのはプログラマーの思考や感情が中心になるはずです。場合によっては、プログラマー寄りの、あるいは、プログラマーが有利になるような表現があってしかるべきでしょう。
けれども、この作品には、数人の部下をまとめる上司なら上司なりの、成長意欲のあるハイパフォーマーならそれなりの、変わりたいのに変われないプログラマーならそういう人の、そもそも変わる気がない人ならその感じの、フリーランスのプログラマーならその立場の、社内を変革しようとするコンサルならコンサルなりの、それぞれの立場の人が抱くであろう思考や感情を、ものの見事に描写されています。
ですから、どの立場の人が読んでも、「そうそう!」と共感できるはずです。
一方、読みながら違和感を抱いたり、モヤモヤしたりする人も多いと思います。その違和感は悪い意味ではありません。「こころが揺さぶられる」という意味です。実際、ボクは何度も揺さぶられながら「こういうシーンの正解は何だろう?」と考えながら読みました。
いま、社会では、「もう、みんなで総活躍だよ!」いや、「活躍しなくちゃいけないんだよ!活躍すべきなんだよ!」って雰囲気がありますよね(これに違和感を覚える人、たくさんいるんじゃないかな)。理想は確かに大切。ましてや、エンジニアなら、「いかに優秀な技術者になるか」に意識が向いて、技術力で評価してほしいのは当然だと思う。
だけど、人間には感情があるから、「理想だけじゃない」ところもありますよね。ときには怠けたくなるときもあれば、常に頑張れないときもある。
また、技術力はそこそこでも、コミュニケーション能力に優れた人や、いい味を持っているムードメーカーもいます。そういう多様性を脇に置いてしまうと、なんとなくギスギスして働きづらくなってしまう。
いろんな視点を考慮すると、「エンジニアとしての正しい評価は何か?」を定義するのはなかなか難しい。「技術力だ」という人もいれば、「いや、違うだろう」という人もいる。だから、モヤモヤするんです。
このモヤモヤ感は、小説の中の登場人物に向けられた感情のように見えて、実は、IT業界や、社会全体に対する「あるべき姿とは何か?」という問題提起をしているようにも感じられます。
この小説では、IT業界の中にある数多くの「実際に起こっている矛盾」に「そうそう!」「あるある!」とうなずきながら、「理想的な働き方って、何なのかな?」「仕事って何なんだろう?キャリアって何なんだろう?」と考える、いいきっかけになると思います。
また、その年代や役割になったときのことを疑似体験できるので、自身をさまざまな登場人物に投影しつつ、「あー、こういう立場の人は、こんなことを考えているのかぁ」ということを知ったり、「その立場でこういう感じになるなら、今は、これをやっておこうかな」というキャリアプランを考えるきっかけになるでしょう。
IT業界の人(特に、プログラマーの人)、もしくは、IT業界の生の雰囲気を知りたい人には、かなりヒットするんじゃないかな。
それにしても......リーベルGさんってどんな方なんだろう?女性なのかな?男性なのかな?年齢は?それぞれの立場の人が抱くであろう思考や感情を、これだけ偏りなく書けるのは、いろんな経験をしてきているか、もしくは、かなり客観的でメタな視点で物事を捉えられる方なのだろうなー。
(ちなみに、ボクの見立てでは、ある程度酸いも甘いも経験し、「でも、大切なのはこういうことかな」という考えをお持ちの女性とみています)
すてきな小説をありがとうございました。