職場における発達障害の対応
しごとのみらいの竹内義晴です。
先週の金曜日に、新潟県上越市で開催された「職場における発達障害者の現在と未来」という講演会に行ってきました。講師は、日本発達障害ネットワーク理事長、東京都立小児総合医療センター顧問の市川宏伸先生です。
近年になって、アスペルガーなどの発達障害に関する話題を見聞きする機会が以前よりも増えましたよね。
発達障害に対して、ボクは素人です。でも、以前発達障害の方と関わる機会がありました。その方はキレやすく攻撃的で、周りの人も恐れているような状態でした。ボクは仕事柄、いろんなタイプの方と関わる機会があるので一般の方よりも免疫はあるほうだと思いますが、それでも、対応の難しさを痛感しました。
もし、そのようなタイプの方が職場に居たら、どうしたらいいのでしょう。同僚だったら「困ったな~」になるでしょうし、ご本人も「職場の空気を乱す」という形で不幸にも退職に追い込まれてしまうかもしれません。
そこで、職場における発達障害者との関わり方について学んでみたいなと思い、講演会に参加しました。
冒頭、発達障害の特徴についての説明がありました。発達障害とは次のような特徴があるそうです。
- 相手の気持ちが分からない
- 自分の気持ちを上手く伝えられない
- 暗黙の了解がない(考え方が杓子定規で融通が利かない)
- 言葉の意味を取り違える
- 特定のことにのみ興味を持つ
- 感覚が過分または鈍感(衝動性が高い、不注意が多い)
- 忘れやすい
これらを踏まえると、発達障害の方がいる職場では次のようなことが起こっているのではないでしょうか。
- ご本人が対人関係でつまづいてしまう
- 衝動性が高い(キレやすい)人の場合、職場の雰囲気を乱してしまう
- (特性と合わない仕事の場合)仕事に集中できず、成果が上がらない
- やるべきことや指示を忘れてしまい、仕事にならない
- 段取りが取れない(複数の仕事の段取りができない)
- 片付けができない
また、発達障害の原因ですが、言葉からくる「発達過程に問題がある」「障害」という印象とは違い、現在は次のように考えられているそうです。
- 何らかの脳機能障害の存在が前提
- 低年齢で生じてくる
- 原因については現在は仮説しかない
- 育て方だけでは説明できない
- 最近は発達障害を何とかなくそうとは考えない
発達障害の方の中には、「キレやすい」「言動に特徴がある」というような、明らかに分かる場合もあれば、外見上分かりにくく、発達障害か否かの境界が分かりにくい例も多いそうです。実際、講演会では発達障害の方の映像が流されたのですが、一見、何の問題もないように感じられました。それでも、ご本人によれば、「仕事でやるべきことをすぐに忘れる」「仕事に集中できない」「段取りが組めない」「コミュニケーションが苦手」等があるそうで、やる気が出ないのでうつっぽい感じがあり、医師のところに出向いて診断したところ発達障害だということが分かったと言います。
正しく診断されるケースはいいのですが、中にはうつと誤診されて薬が効かず、病院をたらいまわしになってしまうケースもあるのだとか。
また、市川先生によれば、いわゆる「頑固おやじ」とか「職人気質」のような、ある部分ではちょっと……だけれども、ある部分では非常に優れた才能を持っているような方も発達障害の気があるとのことです(そういえば、ネット上にはスティーヴ・ジョブズやビル・ゲイツもそうだ……なんて話があります。真相はさておき)。
こうなってくると何が発達障害で、何が発達障害でないのか自体が分からなくなってしまいます。ひょっとしたら、ボク自身発達障害かもしれません(そう言われても否定しませんが……)。医療現場でさえこの状況なのに、職場での対応はますます難しい(というか、ほとんど無理?)なのではないかと、講演会を聞きながら思い始めていました。
しかし、最後の方で思いが変わりました。それは、アスペルガーの方との付き合い方についての内容になったときのことです。
まず、アスペルガーの方の特徴ですが
- 彼らなりの……
- 考え方を持っている
- 行動様式を持っている
- 合理性を持っている
- 驚くほど純粋である(ウソはつけない)、例外は許されない
- 考え方ははっきりしており、あいまいさは許されない
- 相手の考え方は理解できない
- 本音と建て前を使い分けられない
- 考えていることと、話していることは同じ
- だまされやすい
- 本人の論理で納得してくれることがある
- 納得してくれれば、徹底して信じてくれる
そこで、次のように関わるといいそうです。
- 質問する前に、条件を限定して尋ねる
- 言葉の意味をきちんと伝える
- あいまいな表現を避ける
- 彼らの論理を理解する
- 無理にこちらの論理を押し付けない
- 結果をはっきりと伝える
この話を聞いて、「なるほど!」と思いました。
発達障害というと、言葉の響きからか、なんとなく「医療」という感じがします。医療の話だと、職場では対処は難しいでしょう(しかも、何が発達障害なのかが分からないとなると、なおさらです)。
けれども、上にあげた「言葉の意味をきちんと伝える」「あいまいな表現を避ける」「彼らの論理を理解する」「無理にこちらの論理を押し付けない」「結果をはっきりと伝える」のような話は、発達障害である/なしに関わらず、「仕事をしていく上でのコミュニケーションのあり方」として、とても大切なことです。
そこで、私たちが職場でできることとしては、まず、発達障害について知る。そして、実際の関わりにおいては、「発達障害が……」というようなラベリングよりも、「一人ひとりの特徴に合わせた関わり方」や「仕事をしていく上でのコミュニケーションのあり方」を大切にし、そのように関わっていく……まずはそこからなのだろうと思いました。
最後に、発達障害の治療では、低下していた自己評価の改善や根強い劣等感の払拭、存在感の獲得が大切で、薬物治療はこれらのための対処療法的手段なのだそうです。そういう意味でも、関わり方の改善で関係性も変わってくるのではないかと考えています。