優れた催眠療法家から見えてくるリーダーのあり方
こんにちは、しごとのみらいの竹内義晴です。
ボクの好きな人の一人に、ミルトン・エリクソンという催眠療法家がいます。
好きな人って言っても、ミルトン・エリクソンはすでに亡くなっているので、当然、ボクは会ったこともありませんし、勝手に慕っているだけですが、いくつかの文献から聞こえてくるミルトン・エリクソンのあり方が大好きなのです。
ミルトン・エリクソンは、催眠療法という手法を使う第一人者でした。催眠療法というと、五円玉を糸にぶら下げて「あなたは眠くな~る」みたいなイメージがあると思いますが、ミルトン・エリクソンの手法は、コミュニケーション(言葉の使い方)によって、クライアントに抵抗感を抱かせずに望ましい方向にリードするという方法でした。その方法はクライアントに直接的に指示するというよりも、クライアントに合わせつつ間接的に指示していく方法でした。
ミルトン・エリクソンには、こんなお話が残されています。
エリクソンの少年時代の話です。彼は少年時代のほとんどをウイスコンシンの農場で過ごしました。
ある日、エリクソンと友達はよく知らない場所にいました。それは、人が旅行したりするような場所ではなく、民家から非常に離れたところでした。
エリクソンたちが田舎道を歩いていると、明らかに乗り手を振り落してきたと思われる馬が歩いてきました。馬の手綱は垂れていて、その馬はとても扱いにくそうだったそうです。
エリクソンと友達は、農家の中庭に馬を追い込んで捕まえました。そして、まず落ち着かせました。それから、エリクソンは「ぼくはこの馬に乗って、飼い主の家に連れて帰るよ」と友達に話しました。
友達は「誰の馬か分からないじゃないか、どうするんだ」とエリクソンに聞き返します。エリクソンは「いいから任せておいて」とこたえると、馬に飛び乗ったそうです。
農家の中庭を出て、馬を右回りさせて道路の方に向かせました。そして、「どうどう」と拍車をかけて道に戻しました。道を下っていると、馬は時々道からはずれて草を食べようとします。すると、エリクソンは、「どうどう」と声をかけます。
その道を数マイル下っていくと、馬は向きを変えてある農家の中庭に入って行きました。農家の人はその音を聞いて出てきたそうです。そして、エリクソンに向かってこう言ったそうです。「これはうちの馬じゃないか。君はどうやってうちの馬だってことを知ったんだ。私は君とは会ったことはないが……。うちの馬であることは知らないはずだ」。
するとエリクソンは、「おっしゃるとおりです。馬をどこに行かせればいいか知りませんでした。でも、馬が知っていたんです。ぼくは馬にまかせて道を走らせてきただけです」と答えました。
エリクソンは、この話をこういう教訓として締めくくったそうです。「これが、心理療法の進め方だと思うよ」と。
引用:ミルトン・エリクソンの催眠療法入門―解決志向アプローチ を一部加筆・修正
この考え方は、ビジネスにおけるリーダーのあり方としても、すばらしいモデルなのではないかと思っています。
私たちはとかく、「~すべき」「~ねばならない」などと直接的に指示をしたり、「お前の○○がダメなんだ」と批判したりして、周りの人を力ずくで動かそうとします。けれども、それらは抵抗感を生じさせます。
そういうときこそ、ミルトン・エリクソンのようなあり方が大切なのかもしれません。
ミルトン・エリクソンはこんな言葉も残しているそうです。
「治療に抵抗するクライエントなどいない。柔軟性にかけるセラピストがいるだけだ」
クライアントを部下に、セラピストをリーダーに置き換えると,[仕事に抵抗する部下などいない。柔軟性にかけるリーダーがいるだけだ]といったところでしょうか。
なかなか耳が痛い話です。