「責めるマネジメント」では解決しない――IT企業のメンタルヘルス研修で伝えたいこと
先日、某IT系企業でメンタルヘルス研修をさせていただきました。
通常、「メンタルヘルス研修」というと、保健師さんや医師のような方から、「無理しすぎるのはやめましょう」「悩みごとがあったら話しましょう」「うつになる前の対応が大事です」みたいな話を聞くイメージがあると思うんですよね。
私の場合はちょっと違っていて、実際にIT業界で働いた経験、自身がうつっぽくなった経験、中間管理職の孤独感も味わった経験などがあって、それをなんとかしたくて勉強したり、実践してきて現在に至るタイプなので、普通の研修で言われるようなことではなく、「どうしたら解決できるか?」を、自身の体験を踏まえて話すようにしています。
エンジニアの当事者でなければ分からない感覚って、あると思うので、当時言われて嫌だったことやショックだったこと、うつっぽくなった理由、中間管理職時代の孤独感、逆に、うれしかったこと、うつっぽい状態から考え方が変わってきた理由、工夫した具体的な内容など、ざっくばらんにお話したいと思いました。参加者の声はご紹介できないのですが、私の言葉で一言でまとめれば、「今までのメンタルヘルスセミナーとは違って、説得力があった」というようなコメントを、人事の方から伺っています。
もちろん、数時間の話ですべてを解決できるとは思っていませんし、中には役に立たなかった方もいらっしゃるかもしれませんが、少しでもお役に立てていたらうれしいなと思っています。
講演の中でお話したことを、1つ紹介しますね。
ボクがプログラマ―だったとき、不具合を出したことがあるんですけど(プログラマーなら誰でも経験ありますよね)、普通、不具合を出すと「なんで気がつかなかったんだ!」と責められます。でも、プログラマーの立場からすれば、この問いって答えようがないんですよね。「気づいていたら、直してます」だと思うんです、正直なところは。「気づかなかった」んじゃない。「気づけなかった」んです。
だけど、実際には「なんで気がつかなかったんだ!」とすごく責められて、「すいません、以後意識します」とか、「テストをしっかりやります」としか言えない・・・。
もちろん、時には明らかにテスト漏れということもあるし、きちんと責任を追及するのは大事だと思います。でも、「責めるマネジメント」では問題は解決しないと思っています。逆に、益々問題を隠すようになるでしょう。だって、責められたくないですもん。誰だって。
大切なのは、「小さなことでも言える環境」だと思うのですよね。
そういう私も、中間管理職になりたてのころ、やっぱり、責めるマネジメントをしていたんです。でも、あるとき、「これじゃだめだな。自分がされていたときも嫌だったもんな」ということに気がついて、それから、コミュニケーションを勉強するようになったんですけど、あるとき、部下が不具合を出したことがあったんです。そのとき、部下は恐る恐る「竹内さん、すみません。この間リリースしたプログラムに不具合がありました。どうしましょう・・・」とボクに言いました。
以前のボクだったら、「なんでリリース前に気がつかなかったんだ!きちんとテストしたのか!」と責めたてていたと思うんですけど、その時はこう言ったんです。「言いづらいことをよく正直に話してくれたね。ありがとう。今、気がついてくれたおかげで、大事にならずにすんだよ。でも、バグはすぐに対応しなきゃいけないから、一緒に解決策を考えよう」と。そうしたら、今まで、不安と恐怖でひきつっていた部下の顔つきが一瞬で前向きな表情に変わって、問題を解決したことがあります。
この方法、専門用語では「リフレーミング」といって、物事を別の角度から見て、伝えるという方法なんですけど、こういう方法を知っていると、チームを前向きにまとめていくことができると思うし、問題が起こっても言いやすくなる・・・「責めるマネジメント」ではなくなるので、部下のメンタル的な問題もずいぶん改善すると思っています。
せっかく仕事をするなら、やっぱり、楽しく働きたいと思うのですよね。くやしさ、辛さ、苦しさ、孤独感からはいい仕事はできないですよ。少しでもストレスから解放されて、仕事が楽しくなったらいいなぁと思っています。自身の古巣でもあるIT業界のみなさんには、特に。