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【第4話】「考えの“根っこ”」―物語:インストール

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■第4話 「考えの“根っこ”」

 矢島は、バッグの中からA4の白い紙を1枚取り出し、タツヤに渡した。

 「今からやるのは、『悩みの根本原因』が分かる簡単な方法です。この紙に菊池さんの考えを書き出してほしいんだけど、その前に、ちょっとだけ説明させてほしいんです」

 手渡された白い紙をテーブルに置くと、タツヤは矢島の言葉に耳を傾けた。

 「今回、菊池さんが悩んでいるのは、部下や上司のことでした。部下には、もっと自分で行動してほしいし、上司も丸投げじゃなくて、もっと親身になって協力してほしかったんですよね。そうすれば、きっと一人で頑張らなくてもよかったし、うつになることもなかったのかもしれません。
 けれども、部下や上司は何もしてくれない。そこで菊池さんは一人で頑張りました。きっとそれは、責任感が強かったからなのかもしれませんし、『オレが頑張らなければ、このプロジェクトは進まない……』そう思ったのかもしれません。責任感が強いのは、とても大切なことですね。」

 (そうだ、誰も動いてくれないから、オレは一人で頑張らなければならなかったんだ)

 「ここからは、もしも……の話なのですが、もし、菊池さんじゃない人が菊池さんと同じ立場に置かれていたら、どんな行動を取ったでしょうか」

 そんなことは、タツヤには分かるはずもなかった。

 「中には、菊池さんの上司のように、部下に仕事を丸投げする人もいるかもしれません。ひょっとしたら、『ごめん、オレ一人ではできないから、協力してくれないかなぁ』と部下や同僚に協力を求める人もいるかもしれません。」

 もし、部下に丸投げしたら、部下がオレと同じ思いをしてしまう。こんな大変な思いは部下には絶対にさせたくない。オレ一人で十分だと、タツヤは思った。

 「けれども、菊池さんは今回、『一人で頑張る』ということを選択しました。それで、今のような結果になりました。」

 (別に、オレが選択したわけじゃない。誰かがやらなきゃ、プロジェクトが進まなかったんだ。)

 タツヤはちょっと嫌な気分になった。その気持ちを見透かすように、矢島はこう続けた。

 「ごめんね。別に、菊池さんのことを責めているわけではないんです。たぶん、『一人で頑張ることを選択した』なんて思っていないと思います。やるべきことをやっただけですよね。菊池さんの責任感が、一人で頑張らせたんだと思うんです。もちろん、仕事をやり遂げることはとても大切なことです。だけど、今回の菊池さんがそうであるように、強い責任感は、時に自分を追い込んでしまいます。もし、菊池さんが『一人で頑張ること』ではなく、『投げ出すこと』『他の人に協力を求めること』を選択していたとしたら、もう少し違う結果になっていたかもしれません。」

 自分の責任をまっとうするのは、社会人として当然のことだ。だが確かに、もし、仕事を途中で投げ出すことができたら、もし、他の人が一緒に手伝ってくれたら、一人でこんなに抱え込まずに済んだのかもしれない。

 「いろんな選択肢がある中で、もし、菊池さんの中にある何かが、菊池さんに『仕事は中途半端に投げ出してはだめだ』『最後まで責任感を持ってやり遂げるべきだ』『一生懸命がんばらなければならない』と思わせ、一人で頑張ることを選択させたのだとしたら・・・その結果、一人で頑張り、一人で無理をし、一人で背負いこむことになるでしょう。菊池さんが一人で頑張らなきゃと思う理由・・・つまり、考えの“根っこ”の部分が分かれば、今、菊池さんの起こっているさまざまな問題は解決できるかもしれません」

 矢島は、それを図に書いてくれた。責任感や一人で頑張るのは大切なことだけど、それがいい結果につながることもあるし、悪い結果につながることも、確かにある。

Docu0038

 矢島に指摘されて、タツヤは1つ思い当たることがあった。これまでを振り返ってみると、何でも一人で背負いこもうとするところがある。それは、責任感であり、誠意だと思っていた。だがもし、もうだめだというときに、一人で背負わず、プロジェクトの状況や本当の気持ちを誰かに話すことができたとしたら、部下や上司に協力を求めることができたとしたら・・・もう少し楽になれるかもしれない。

 「それじゃあ、この紙の真ん中に、今思っている不満を書いてみてください。誰に見せるわけでもないから、本音を書くのがポイントだよ」

 矢島に言われるままに、紙の真ん中に、「部下と上司が自分勝手で協力してくれないから嫌だ」と書いた。

 (つづく

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