なかなか譲らない相手との感情的トラブルを解決する交渉術
「竹内さん、最近橋下さんがいろいろ言われていますけど、橋下さんの交渉術てどう思います?」
昨日、知人と話していたらこう聞かれました。
「どうして?」
と答えると
「いや、実はボク、あるトラブルを抱えているんですけど、相手がこちらの言い分を全く聞いてくれないんですよ。大きな声を出したり、一方的に批判したりするんです。橋下さんみたいにうまく交渉できればいいなぁと思うんですけど、竹内さんってコミュニケーションを教えているんですよね。橋下さんのやり方ってどう見えているのかなぁと思って」
私はこう答えました。
「そうですねぇ。橋下さんの方法は1つの方法だと思うけど、ボクは押すタイプではないやり方をするかなぁ」
仕事の中には、さまざまな人間関係がありますよね。できれば、いい関係で毎日楽しく仕事がしたいもの。
けれども現実には、顧客、上司、同僚などなど、さまざまなトラブルに巻き込まれることがあります。中には、両者の折り合いがなかなかつかないこともあるでしょう。訴訟を起こすことも辞さない気持ちはあるけれど、できればチャチャっと解決して、早く忘れてしまいたい。そこで、金銭的な交渉になる場合もあるかもしれません。
いろんな方法があると思うのですが、知人の問いを受けて、「コミュニケーションで解決する方法はないか」を考えてみました。
■対立構造を理解する
何かしらのトラブルが起こった時、そこには、対立があります。対立を言い換えると「正しさのぶつかり合い」です。自分にとっては自分の言い分が当然正しいし、相手の言い分は相手にとって正しい。
正しさのぶつかり合いの最終形が戦争ですよね。
お互いにとって正しいことを主張しあう場合、勝敗を決めるのは力の強さです。声が大きいほうが勝つし、地位や権力が強いほうが勝つし、武力が強いほうが勝ちます。そう、パワーゲームです。単純です。
パワーゲームで勝ち目があるのなら、それも1つの方法なのかもしれません。けれども、パワーゲームは疲れるし、嫌な思いもします。また、立場が弱い人には勝ち目がありません。
これが、対立の構造です。
■コミュニケーションによる交渉
知人の悩みは、この「パワーゲーム」に巻き込まれていることでした。そこで、コミュニケーションによって解決する方法はないか、いくつか考えてみました。
■1:Iメッセージを使う
対立が起きているとき、多くの場合批判合戦になります。批判合戦の典型的な例は
「あなたの○○が悪い」
「普通だったら○○に決まっているだろう」
というような言い合いです。けれども、相手にとってはそれが正しいので、人格を否定されたような印象を与え、火に油を注ぐような形になりがちです。
そのような場合、「あなた」を主語にしているところを「わたし」に変えてみます。これを「I(私)メッセージ」などと呼んでいます。つまり、このような形になるでしょう。
「あなたは○○だとお思いなのですね、私は○○だと思っているんです」
「あなたは正しくない。私は正しい」を、「あなたは正しい。私も正しい」という言い方です。こうすることで、主張しながらも、人格を否定する感じが薄れます。
■2:さりげなく提案する
Iメッセージは、相手を否定することなく自分の意見を言うことに役立ちます。けれども、Iメッセージだけではお互いの言い分を主張しているに過ぎません。交渉事では、こちらの言い分に少し引っ張る必要もあるでしょう。
「あなたは○○すべきだ」
的な主張は、こちらの正しさを主張することになるので、言い方としては強くなりがちです。そこで、
「○○してくれたらいいなぁと思っているのですが……」
ぐらいに、やわらかく提案してみるのはどうでしょうか。
■3:視点を1つ上げる提案をする
正しさのぶつかり合いの場合、やわらかく提案したぐらいでは、解決しないことも多いでしょう。そこで、お互いの利益に目が向いている視点を、1つ上にあげる提案をするのはどうでしょうか。「大切なのは……」に続く言葉を考えるといいでしょう。
「大切なのは、どちらが正しいかではなく、お互いが納得できる形で問題を解決することではないでしょうか」
「大切なのは……」は、問題を俯瞰し、1つ上の目的から考える視点に導きます。
■4:「何が正しいか」から「何がよりよいか」に議論をすり替える
「何が正しいか」「何が間違っているか」で議論していると、並行線をたどるばかりですが、お互いの状況や目的を考えたときに、「お互いにとって何がよりよいか」を考えることならできるかもしれません。
「私は何が正しいかなんて言っていません。こっちのほうがよりよいんじゃないかと言っているだけです。もし、もっといい方法があるなら提案してください。それを採用しましょう。
一方的に正しさを主張する人も、「新しい提案をしろ」と言われるとなかなか答えられないものです。
■5:相手が否定できない立場を利用する
それでも折り合いがつかない場合、「相手が否定できない立場を利用する」というのもいい方法です。言葉の中に相手が否定できない前提を織り込んでしまうのです。
具体的には……
「プロフェッショナルのあなたなら、これがいかに難しいことかきっとお分かりだと思いますが……」
「賢い○○さんなら、きっとお分かりだと思いますが……」
みたいな感じです。自分のことを「プロフェッショナルじゃない」「賢くない」とは、なかなか言えないでしょう。
■最後に……
対立が起きているとき、相手の立場になることが大事だと言います。私もそう思うのですが、それはなかなかできることではありませんね。感情的にこじれているときはなおさらです。
だからと言って、どちらも「正しい」と思っていることに対して勝ち負けを決めるのはお互いが苦しいもの。そういう意味でも、冷静になることが大切なのでしょうね。
コミュニケーションは、すべてが予定通りにいくわけではありませんし、ここに書いたことで全部がうまくなんていう気はありません。声のトーンや態度も大きく影響を与えるでしょう。でも、この中のことで実際に交渉に役立ったものもあります。ご参考にしていただければうれしいです。