「樹は移せば死ぬが、人は移れば活きる」:中国の格言から働き方改革を考える。
働かせ方改革?
まず、最初にここで述べる働き方改革は、現在国会で議論されている「働き方改革法案」とはあまり関係がない。
いわゆる「働き方改革法案」が規定しようとしているのは、残業は何時間以上させてはけいない、とか 専門性の高い職種には裁量労働制を導入してもよい、などの企業に対する従業員の「従業員の働かせ方についての法案」であると言っていい。
ここでは、そうではなくて、働くひと個人個人の働き方を変えることについて考えてみたい、と思う。
「樹移死、人移活」:樹は移せば死ぬが、人は移れば活きる。
自分のキャリアについて少し悩んでいた5年前に、中国出身の著名な経営者Sさんに教えてもらった言葉だ。
中国の古い格言だそうで、意味は読んで字の如し。
植物はその土壌に馴染んで一体となって生きているから、人為的に異なる場所に移すとそれが原因となって枯れてしまがうことが多い。
これに対して、人間は環境(職場、人間関係、地域や国、職業、など)がかわることで、以前よりも活き活きと、また以前よりも意欲や能力も高く発揮しだすことが多い、という意味だそうだ。
野球やサッカーなどのプロスポーツ選手が、トレードや移籍を機に、見違えるように大活躍する例は多いだろう。
野球では去年のファイターズの太田選手、今年のドラゴンズの松坂選手、サッカーではトルコのガラダサライで大活躍の長友選手など、枚挙に暇がないほどだ。
なぜ「人は移ると活きる」のだろう?
戦後の日本、とくに戦後の企業社会では人は「就職」という名前の「就社」をし、働く人生のほぼ全ての時間をその会社で過ごすことが多かった。(プロ野球でもトレードは稀だった)。そして、その就社した会社にうまく適応出来た人は、「できる奴」などと社内で評価が定着し、その社内での高評価に基いて、出世の階段を登っていく。
逆に、その会社でうまく適応できなかったひと、自分の潜在能力を発揮できなかった人は「使えないひと」というレッテルを貼られて、よほどのことがない限り、そのレッテルを剥がしたり、付け替えたりする機会は訪れないことになりがちだった。
アメリカのシリコンバレーや近年の中国の企業社会はその逆で、人はどんどん転職していく。転職した先であらたなキャリアを積み、あらたな人脈を築いたらその人的ネットワークのなかで評価が高まり、その人的ネットワークをベースにさらなる転職や起業を行っていくことになる。
また、起業等で一度失敗しても、また別の起業を行ったり、ふたたび企業で働くことで、社会からあらたな評価を得て次のキャリアにつなげていく。
移っていくことで、つまり、自分を異なる環境に置くことで、ますます活き活きと働き続けることが出来る、というわけだ。
会社の名前、名刺の肩書きだけで仕事をしていませんんか?:
この四月に企業勤めを辞めて、独立開業して気がついたことがある。
IT業界には、プライベートな情報交換のコミュニティーや勉強会が多数あり、そこには勤務時間後にプライベートで参加している企業人もいれば、兼業・副業の立場で積極的に発言するひともいるし、もちろん独立して自分が起こした会社の立場で議論を引っ張るひともいる。
いわば会社の名前ではなく、個人の名前で活動している人たちが、あらたな人的ネットワークを築きながら、あらたな仕事を生み出しているわけだ。また、こうした人たちはSNS等で趣味の話も含めて積極的に発信しているという共通項もある。
つまり、この人たちは会社の名前や、名刺の肩書きだけではなく、個人の興味や個人の専門性で仕事をし、コミュニティーも盛り上げている人たちだ。
会社の中で、そして会社の名前で、上司の指示に従うことのみで仕事をするのも、悪くはない。
但し、それはたまたまその会社にうまく適応し、その会社の中でポジティブな評判やブランドを確立できた人たちにとっての話だ。
不幸にして,運や巡りあわせに恵まれず、会社の中でネガティブな評判やレッテルを貼られた人が、そのままの状態で、その会社の中だけで、会社の肩書きだけえ仕事を続けていても、その不幸な状態は変えられない。
そして、転職しようとしても、自分の価値や能力をその時点での社名と肩書きでしか訴えられないとしたら、企業の採用担当者の目にも魅力ある人材とは映らない、ということになってしまう。
つまり、移らないままに活力を失ってしまう。比喩的にいえば、移れないままに死んでいってしまう。
キーワードは内なる多様性を磨くこと:個人の名前で活動してみよう。
これは、転職の勧めではありません。
そうではなくて、ここで提案したいのは、個人の名前で仕事してみようということです。
今の会社が兼業/副業を認めているのなら、その環境を活かして、自分のやりたいこと、やってみたいこを兼業にしてみよう。そこで得た経験や人的ネットワークは、本業にも良いフィードバックになる。
今の会社が兼業/副業を認めていないならば、まず、会社のお金で勉強しよう。セミナー、勉強会や就業後の人材育成プログラムもある。
趣味の活動を積極化するのも良い。NPOプログラムやボランティア、スポーツ、音楽など、なにか自分の興味のある分野、やってみたいことをに使う時間を広げてみよう。あらたな気づきや出会いがあるだろう。
ここで、いいたいのは、個人の名前で活動する事で、自分のなかの多様性を高めようということだ、そしてそれを能動的に行おうということだ。会社のなかで短期的な組織目的の達成のためだけに仕事をしていると、その分野以外のことに触れる機会が減っていく。そうすると、自分の中の強みも、関心や興味も、気がつかないままに、磨かれないままに時が過ぎていってしまう。
会社の業務として指示されたこと以外のことを能動的に主体的に実行してみて、はじめて自分の中の多様性、可能性に気が付くことができるし、個人の人的ネットワークを造ることにもなる。
そうして、自分の中の多様性を高めて、個人の人的ネットワークを築いておけば、本業にも貢献できることが多いし、社内での配置転換で新たなキャリアを積むこともできやすくなる。(これも一種の「移る」ことか)。もちろん、将来の転職や独立にも必/起業にも必ずプラスに作用する。
つまり、自分の中の多様性を高めて行くことが、新しいことにチャレンジしやすい自分を作っていくことになるのだと考えよう。
まとめ:
積極的に、また能動的に個人の名前で活動する機会を増やして行こう。個人の名前と立場で活動することで、自分の中の多様性を高めていこう。そうすることで、あらたな環境にチャレンジしやすい自分に変えていこう。それが、自分自身をよりよく活きるためのコツなのだ。
「人は移れば活きる」訳だから。