オルタナティブ・ブログ > THE SHOW MUST GO ON >

通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

客観的な証明ができない「私達が一番」というメッセージは良くない

»

自社の製品なりサービスなりが法人個人問わず使用者や利用者にとって使うべきものだと判断されれば買われ使われるのは一般的な経済行為です。ではその判断をどういう基準でするのか。これはモノにより異なりますから一概にこうだとは言えない話ですが、少なくとも何かしら選択する上では他者・他社より優れている或いは使ったほうが良いという判断をするための何かがあるわけです。

そしてそれが例えばプロモーションの一つの軸になることは珍しくありません。当たり前です。ただし、そのメッセージが「自分たちはどうだ」というポジションでのメッセージと「他社に比べてどうだ」というポジションを取る場合の2つがあると思っています。勿論どっちが良い悪いという話ではありません。ただし、前者は中立性を問われないメッセージを出すことが比較的容易ですが、後者の場合は比較が前提なので意思決定者に対して何かしら先入観を与えるもしくは誤解を与えて判断を捻じ曲げる行為については法律で不正行為として規定されるケースがあります。

優良誤認を強いる行為です。
消費者庁から行政指導をいただくことになります。


自分が経験した過去の事例

以前、いわゆるマーケティング・コミュニケーションと括られる仕事に都合20年近く携わってきた経験の中で、一番気にしたのは自社のメッセージ内容よりも伝え方の方でした。極端な話、伝えたいメッセージ自体に責任を持つのはそれぞれの製品やサービスを管轄する部隊の責任。勿論一応のプロとしてアドバイスはしましたけれど、一義的には自分は責任を持てない立場だったのは事実です。そういった状況のなかで絶対に気をつけないとだめなのが、広告なり展示会やセミナーといった場所でそれをどう訴求するか、そしてそのメッセージの部分でどうしても言いたくなる「他社の同種の製品やサービスより優れているんだ」という一言。

わかります。人情的にはわかります。

ただ私がそういったコミュニケーション系の仕事に携わり始めた1980年代末の段階で既にめちゃめちゃ厳しく言われたのが「そのメッセージに客観的な根拠はあるのか」ということでした。不正競争とされる行為を規制するために適用される法律は昔と今で異なる場合があり今の方が厳しく問われますが、当時でも不当競争であるとして個別に係争になるケースが実際にありました。もちろん公正取引委員会から指導が入るケースはあり、それを踏まえてとにかく言われたのが「そのメッセージに客観的な根拠はあるのか」ということ。特に「自分たちが1番」という表現のエビデンスは自社自身が完全に未関与な公的機関による調査を含めた中立性を主張できるものの結果のみ検討可能とされていましたが、自分が関与した仕事の中では結果的にそういう表現を使ったことは無かったと記憶しています。最終的にその採用したエビデンスの中立性は自分たちが関与していないという一点だけであって、それだけでは結果の正当性と中立性を説明できないケースが多かったので。

当時からあった小手先調査による優良誤認誘導

実はこれは大昔からありました。その前はそもそも規制もへったくれもなく勝手に「私達のが一番だ」と訴求していた高度成長期までの世界での事情は流石に自分の経験としては知りませんが、少なくとも1980年代後半からについては自分の経験としてよく覚えています。

問題はその客観性を誰が担保するのかということ。

世の中、たとえば経済一般という広い範囲から各業種業態に特化したメディアや何らかの調査を行う組織や企業というのが昔からあるわけですが、そういうところが定点観測的にやっている調査が最初に「客観性を持っていると認められることが多い」種類のものだった記憶があります。

そしてその次が定点観測ではないですが調査を専門に実施している主体がある一定の条件で調査を行い、その結果を売りに来るケース。中は驚くような値段がついている調査もあったりするのは多分昔も今も変わらないとは思うのですが、少なくとも利用する側が調査の実施段階では直接関与していないという部分がはっきりすればこれも中立性があると判断することができる種類ですね。

そして問題になるのが、調査設計自体に最初から関与している場合。ただしこれについても調査対象や調査の質問項目への関与度合いによって判断が分かれるところなんですが、例えばそれを自社の市場の中でのポジションを自社調べと明言して調査方法と一緒に結果を公表するのであればまだ救えます。

自社が一番になるための調査の仕込みの卑劣

ただし、10年くらい前から既に言われてたのが「自社が求める結果が出るまで調査方法や質問方法をどんどん変えて自社が一番になるような聞き方に誘導していく調査」の存在。第三者としての調査会社が関係しているとしても、自社が1番になるという結果を最初から決めてそこに向けて調査をかけるという、そもそも調査の体をなしていない方法で実施されるケースが実は結構あります。

実際、市場調査は先に欲しい結果を設定してその結果にある程度近づけるための設計をすることは可能だし、実際にそういう行為自体は昔からあったと記憶しています。選択肢に「普通」というのを中間に置くと日本人としてはそれを選びがちになるんですが、その部分を自分の欲しい結果の方に解釈するなんてのは初歩の初歩ですが、それ以外に「賛成する側として選んでもらう」のと「反対する側として選んでもらう」という設計の仕方によって結果が変わるとか、まぁいくらでもあるわけです。

調査会社が調査会社の仕事として何かしら市場動向を調べるといった場合にはそういった何かしらのバイアスがかからないように設計するし設計するからこそ調査会社として成立するわけですが、ユーザーからの委託調査になるといろんなことが起きがちです。

ただ、社内資料として使うだけだったら誰にも迷惑を掛けませんが、意図的に自分がよく見える結果をだすように設計された結果を更に都合よく解釈してメッセージに置き換えて第三者(消費者なり自社製品サービスのユーザーなり)に伝えるというのは如何なものかと思いますし、実際それは不正競争を招く優良誤認として犯罪行為になります。「うっかりやっちゃいました」で済まないです。犯罪です。

言いたいことは重々承知ですが

勿論自社あるいは自分が背負っている製品やサービスが何らかの状況のなかで「自分たちが一番である」という自負があるケースはあるだろうし、それをメッセージとして訴えたい気持ちを持つのもわかります。でも公正さや中立さを裁判に耐えられるレベルで証明する必要がある「自分たちが一番である」という言い回しは簡単には使えません。 

だからこそ「自分たちが一番」と連呼している何らかのメッセージというのに遭遇したら「なにこれちょっと待てよ」というサインでもあると思っています。

多分賞を出すことだけを目的としてる賞の受賞を謳うキャンペーンと同じレベルで「なにこれちょっと待てよ」というサインだとも思ってるのですが、どうなんでしょうね。

売上ナンバーワン。
ユーザー満足度調査ナンバーワン。
ブランド支持率ナンバーワン。

特定のなにかを指してるわけではないですが、なんだか見がちなこれらのメッセージの裏を探り出すと業種やら業態やら個々の企業や組織それぞれの色々な事情状況環境その他が見えてきたりするケースもあり、各方面本当に色々考えてるんだなと思うことがあります。良し悪しの評価とは別にですけれど。

Comment(0)