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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

イスラエルのiPadとりあえず国内持込禁止に見る、「携帯情報端末」はそれ以前に「無線通信機器」だという事実

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気が付く人は気が付いていた事実が、ちょっとした事象で顕在化することがあります。しかもそれが法律に裏書された事象だと、それなりに面倒くさい事になります。あるべき姿じゃないだろ?という議論は、その瞬間の事象だけを取り上げただけであって、実はそういう形になっているのにはちゃんと経緯と理由があるわけです。

で、何を回りくどく言ってるかって?いや、あのですね、皆さんが使っている無線機器、たとえばケータイや無線LAN、Bluetoothなどなど、これらは全てその運用と免許条件を定義した法律があって、ちゃんと規制を受けているし、しかもそれは日本だからそんな事やってるって話じゃないんですよ、っていうコト。

普通に売られているものを使う分には意識する必要は無いんです。正規に国内モデル、あるいは国内で利用できることになっているモノであれば。

 

元記事はPC Worldのブログなのですが、いずれにせよこういう事態が起きているようです。でも、コレは対岸の火事?いや、そんな事はないです。実はたとえばココで問題になっているWiFiの出力に関する制限、つまり米国仕様のWiFi機器を日本国内で使えるかというと、実は基本的には駄目です。その機器が日本国内で使用できる技術適合審査を受けてキチンと認証されており、かつ国内モードで動作すればOKです。

そこには出力や使う周波数の問題などいろいろあるので、実は個人でも審査を受ける事は不可能ではないです。でも、手間をメリットを考えると正直余りお勧めしません。

で、ここで問題になるのが、これら電波を使うモノは用途や形などを問わず、判りやすく言うと「無線通信機器」であるととりあえず理解しましょう。そう。民生用か業務用かを問わず、ここは全部同じだと、ちょっと乱暴ですが考えてください。これが出発点。

 

無線通信において、目的に応じて使える周波数、用途、免許条件などは基本的に法律が規定しています

厳密には法律の運用の中でカバーされているものもありますが、基本的には全て決まっていて、その一番の大元が電波法。コレに基づいて電波を「発信」してよいものというのは全て免許が必要です。アマチュア無線だろうが業務用無線だろが、通信サービスだろうがレーダーだろうがなんだろうが、全部そうです。因みにラジオなどの受信については、受けるだけなので免許は不要だと思ってください。

でも、たとえばケータイの免許なんて自分は持っていないよって?それは事業者がシステム全体で包括免許などを取得して、その範囲で提供される端末を使うからOKなんです。因みに基地局側は事業者側が免許を持ちますが、端末側は一定の基準を満たすものとして事前に技術適合の確認を取りますから、一般の人がそれを取得する必要はありません。

たとえばこういうラベルで、ケータイなどでもバッテリーを外すとそこについて居たりします。これを本体に付けずに表示するだけでも良くない?という話があったりはしますが、それには法改正が必要なので、ちょっと時間がかかります。

で、このような仕組みというのは誰かの利権を守るものではなく、限られた電波を正しく使う無線機器であることの証明なので、コレが無い機器、および別途個別に免許申請をした機器以外は全て違法機器となります。それは出力だったり使う周波数帯だったりと色んな状況がありますが、これはそういうものです。

で、更に、これが日本だけの特殊事情かというとそんな事は無く、基本的に世界中全ての国の通信行政を担当する行政機関が行っています。

 

じゃぁローミングで持ち込んだ海外の電話機ってどうなるの?

これは逆に国内のケータイで海外ローミングできるモノを考えてください。そう。実はそれぞれそれなりに制限があるんです。最近は使える国や地域が随分と増えましたが、数年前のケータイではそもそもローミングが出来ないっていうのから始まって、ローミングで使用できる国や地域、そして実は相手国なり地域の通信事業者、そしてそこで利用できるサービスというのがかなり細かく決まっています。

これらのローミングができるケータイというのは実は各国間の相互取り決めがベースにあり、相手国の通信機器としての認証が取れていなくても持ち込める機器(ココではケータイ)が決まっています。ということで、たとえば海外に行って自分の国内通信事業者ブランドのケータイが海外で通話できたりするわけですが、それ以外のものでは相手に認証されないので電源を入れてもタダの目覚まし時計&デジカメくらいにしか役に立ちません。

そういうモンです。

これを利用してKindleは米国製のものを日本にローミング端末として持ち込んで使えるわけで、そこに国内の通信事業者との個別契約を必要とせずに使えるわけです。ただしKindleはちょっと特殊な例でして、たとえば海外に自分のケータイを持ち出すと、国や地域によっては普通に着信側にも課金されますし、定額プランなんて普通は無いので電話代やパケ代に注意しないとえらい事になるんですが、まぁそれはそれ、個人で注意していただくしかない。

と、このあたりに実はSIMロックを外そうぜ論のちょっとした裏話もあるのですが、それはそのうち機会があれば。

 

で、問題は持ち込み禁止の話

今回Computer Worldに流れたのはイスラエルの話ですが、実は現状のiPadについては日本でも本来の扱いはイスラエルと同様であるものです。特に今回イスラエルで問題にされているWiFiの出力については日本国内では許容されないものなので、そのままWiFiのスイッチを入れること自体が「違法無線機器を使った無免許無線局の開局」となります。冗談抜きで、こういうことになります。

詳しくは電波法および周辺規則を確認していただくのが私の下手な解説よりも確かなのですが、認証が取れた機器を扱うのとは全く違う位置づけなんです。冗談抜きで。

これがどういうコトになるかと言うと、実は電波法第九章にあるとおり懲役刑もしくは罰金刑になるという代物ですので、気をつけていただきたいと思います。このあたりは例えばアマチュア無線の免許を取得したことがある方であれば良くお判りになると思います。

 

因みに私自身はたとえばiPadの国内販売が微妙に延期になった理由などは知る立場にありません。でも、少なくとも国内モデルが出るタイミングまで待ったほうが、色々と面倒くさい事を抱え込まずに済むんじゃないのかな?と無線通信業界の末席で仕事をしている私としては思ったりする次第です。

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