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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

3800万円のスーパーコンピューターというものの意味を考えてみた

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まず最初に、このエントリーは、このプロジェクトを一切卑下するものではありませんよ、ということをふまえて・・・ 

いや、これは素晴らしい。確かに素晴らしいと思います。普通なら億単位でかかる開発費用をたった3800万円くらいで抑え、汎用部品を組み合わせて作りましたという話。個人的な事情で言うと作った長崎大学が個人的に縁があるところでもあったりするものだから、なおの事素晴らしいと思えます。例の事業仕分けの中でのいろんな議論、そして件のスーパーコンピューター議論があるなかでこのニュースっていうのも、色んな人を色んな意味で勇気付ける話だという気がします。

 

でもね

作りました。以上終わり。

でもところで、これを誰が製造するんだろう?誰が売るんだろう?誰がサポートするんだろう?部品の供給は大丈夫?誰がソフトウェアの面倒を見るだろう?

そもそも売るものなんだろうか?
それとも技術検証として今後何かの土台になってゆくのだろうか?

何だかよくわかりません。因みにいわゆるHigh Performance Computingの歴史ってPCなんかと違ってきちんと知られていないところもあったりするんで、各所の報道やBlogなどの記事を見てもなんだかなぁと思うところもあったりするんですが、計算ロジックも製造技術もその後ろのサポートもちゃんとやるから工業製品な訳で、手作りのスッゴいモノを作ったって長続きできない訳です。しかもこれは歴史が証明している訳です。

 

たとえばいわゆるHigh Performance Computingの歴史の話ってちゃんと知ってる?

1980年代前半に超並列コンピューター作っていたThinking MachinesやNCUBEの話なんてどうなったのか知ってる?IBMの3090にベクトル機構が付いたときの衝撃って知ってる?SperryやCDCがどう立ち回って、何が起きたかを知ってる?Crayが何故何度も倒産したかわかってる?

もちろんこれらは基本的に全部歴史の話です。でも、いろんな人がいろんな背景のもとにいろんな夢を見ながら、結局事業化できなかったHPCのプロジェクトなんて世界中にいくらでもある訳です。実際にアメリカや欧州でもそうなんですが、個人的にはこういうプロジェクトを国がバックアップするのはおかしいことではないとは思っています。そもそも巨大な企業体単体では簡単に維持できる話なのだし、実際にすごい歴史がそこにあるわけです。

もちろんそれらの技術はその時点での使える限りの技術を利用していましたし、そのために開発も行われたし、最終的にそれらの製品や企業自体が生き残れなくても要素技術のレベルからいろいろなものが継承されてきているわけです。

ちなみに私自身の話をすると、以前にIBMに勤務していてイベントを担当していたとき、アメリカから持ってきたBlue Geneのモックアップ・・・だったものが死ぬほど重い本物だったお陰でエレベーターに乗せるのにエライ苦労したとか、さらに昔はデータセンター営業をやっていたときに同期が橋梁やかなり面倒くさい構造物の構造計算の受託計算を担当していて、当時日本では殆どどこのお客さんも買えなかったプロセッサーを時間貸しする担当をしていたとかなどを含め、過去30年近い歴史については自分自身が立ち会ったという経験があります。そういえば、日本で誰も知らないグリッドなんちゃらとかのパネルの校正も散々やりましたねぇ。

 

で、今回の件については・・・ 技術的には強烈な意味はあるが、ビジネス的に見れば一発屋のカテゴリーに属する気もします

少しきつい言い方になるかもしれませんが、今回開発されたものがそのままビジネスにつながるようには、少なくとも今の時点の私には見えないなぁと思っています。とりえあず今回作られたものは基本的に技術検証のためのワンメイク。あ、もちろん利用している部品や技術が汎用を多用していればもちろん何台か量産することも出来るかもしれないけれど、汎用品だとすると尚のことその部品の供給が止まったらどうするんだろ?とか考えた場合に、それを商業ベースで販売する助けをしてくれないように思えます。

 

研究成果としては本当にすばらしいと思います。でももしこれを事業化したいなら、誰かがキチンとプロデュースしてあげる必要があるわけで・・・

大学の研究の中で開発しちゃいましたという発表になっちゃったってことは、誰かしら事業化するスキームを同時に後ろで作っているとは思えないんです。何故?何故なら事業化するんだったら内容をもっと伏せると思うんです。そもそも多くの記事に見られる「活用が期待される」って言い回しはマーケティング担当や販売担当がいれば、多分させない言い回しだと思います。少なくとも私が担当者だったら絶対にしません。最低でもどこかで採用が決まってから表に出すだろうし、賞を受けたから発表になっちゃったんだとしても、「このような分野での採用を検討中」って感じで具体性を匂わせる形にするはずです。

すくなくともマーケティングコミュニケーション屋の私としてはそう思います。

そして、もし他の誰かがソコに関与していれば、やっぱり同じように考えると思うんですね。そもそも開発費3800万円です~って言っちゃうと、もう値段がつけられなくなってしまいます。それを量産化するなり何なりしてサポートつけて5年間レンタルで年間5000万円ですなんて値段つけられない。とにかくすでにこのプロセッサー自体では誰も儲からない状況を作ってしまったんです。

だめです。原価を晒しちゃ。

ということで、この技術は多分何かの成果の裏側で今後生きてゆくのだとは思います。でもこれ自体は製品でもないしビジネスにもならない。基礎研究が具体化した類のものと言うのが私の理解です。

ただ、間違いないのは、ソフトウェアやハードウェアのパッケージングも含めた素晴らしい技術が素敵な形になった、という事実です。
それは変わりません。その意味で、この発表を卑下するものではありません。何しろ私はマーケティングコミュニケーション屋なもので・・・

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