日本はもう立ち直れない論が理解不能な件
<このエントリーは私自身の持つtumblrのスペースに書いたものを加筆修正したものです>
巷で時々言われる「日本はもう立ち直れない」論。その多くについて全く理解できないことがあります。立ち直る・・・って言っても、そもそも「立ち直る」って、どこに戻るって言ってるの?
時々引き合いに出される高度成長期の実態をちゃんと理解してるのか?
太平洋戦争の終戦から高々17年後に生まれ、個人的に高度成長期に小学生時代をすごした自分として、あまりにその頃の実情を理解しない話が多すぎて閉口するのが「実態」です。逆に言うと、多くの「今の日本はもうダメ論」は時代背景を踏まえた近代史に対する理解が無さ過ぎていて、結局何を言ってるんだかという印象を持つことが多いのは事実だったりもします。
だってあの頃は実態として日本全体が薄給と貧困にあえぎ、長時間労働に耐え、イデオロギー論争に起因する政治的不安定さに常に晒されつつも、圧倒的に豊かだったアメリカを含めた西欧戦勝国各国、体制として安定していると思われていたソビエトや中国、この世の楽園と喧伝されていた北朝鮮などとの対比のなかで何とかもっと楽に暮らしたい一心で過ごしていた時代。そんな時代だったと体と頭が記憶しています。
私自身は親子三代サラリーマンですが、植木仁さんが「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ!」と言って人気を博したのは、気楽な稼業ではなかった人が殆どだったからじゃないかと言うキモチは、自分の親の背中から感じたものです。
サザエさんの歌にある、お魚咥えたドラ猫の世界と七輪
そんななか、何も無かった家庭に三種の神器がようやく普及し始め、微妙に自家用車が普及し始めつつあったけど、実はクラウン一台が平均年収2年分、カローラでも平均年収を越えていた時代。七輪の上で焼いていた魚を野良猫にもって行かれていた時代。旺盛な内需は朝鮮戦争後の特需のあとの混乱で酷い状態に陥り、復活の意気込みが所得倍増計画となり、安い原油と国内の安い労働力に裏打ちされた極度の輸出依存体制がオイルショックやドルショックで奈落の底に転落という反動に見舞われたり。週休二日制が浸透して生まれた「花金」なんてずっと後の話で、基本的に土曜は半ドン。大気汚染、水質汚濁、土壌汚染にまみれて何とかしなくてはという機運は生まれたけれど、そんな事をすると競争力が削がれると騒がれつつ、マスキー法を睨んだ排ガス規制に晒されて有鉛ハイオクのクルマが姿を消し、内需喚起のための公共事業投資依存が日本列島改造論となって戦前から繋がる利権が大手を振って復活した時代。
その時代に戻れというの?
言い続けなくてはいけない「今の評価軸で過去を判断するな」という単純明快な事実
今が良いと断言できる勇気はありません。でも、70年代や80年代よりも余程安定していると思えます。もちろん何かしらもっと良くなる方向があるはずだし、そういう方向に持ってゆきたいといろんな人が努力しているのも事実ですし、自分自身もそんな流れの中に微力ながら身を置いていたい、という気持ちもあります。
でもそんな中、いろんな人の視点に「その時代の背景をきちんと理解して今と対比する視点」が欠けているのが凄く気になります。どこにそんな人がいるのかについては言及しませんが、とても気になります。
歴史はその時その時の必然があって流れてきているわけで、今の評価軸で昔を見つめ、だから今はどうだとか、あるいはだから昔はさ、とか絶対に考えてはいけないということ。これはそれなりに年齢を重ねてきた一人の人間として絶対にいい続けなくてはいけないと思ってたりします。
常に背景を探り、表面上の出来事を別の立場から見ること。
見えている事象が事実の全てではないということを忘れないこと。
歴史的経緯を無視して物事を論評しないほうが良いことが多いということ。
事象や事実、経緯、そしてそれらの背景の評価軸はひとつではないということを忘れないこと。
間違ってもらうと困るのは、別に私自身は現状肯定者でも否定者でもないということです。単に、立ち直るいう表現がよく判らないだけの不肖モノです。不肖モノなので深い洞察の末に発せられると思われる「立ち直る」という表現が理解できないんです。政治に関与してきたわけでもありませんし、何かしら経営みたいなものに関与してきたわけでもありません。もちろん歴史学者や経済学者、あるいは評論家でもありません。
ただ、少なくとも物心付いてからでも40年以上の過去から流れを自分で見てきたという事実。そしていろんな経験と経緯から「評価軸はひとつではない」という事は理解しているということ。これだけは譲れません。
過去を評価し、今を見つめ、未来を創造する、という姿勢
で、日本はもう立ち直れないという言い方をする方にぜひとも聞きたいことがあります。
「立ち直るって言ってるけど、具体的にいつごろあなたが思うように日本は立ち上がっていたの?」