【ITU TELECOM ASIAから戻って】 危機管理と情報収集 後編
後編です。
9月2日の早朝、死者が出る事態が発生
これは焦りました。朝、ホテルの部屋を出る直前に部屋のテレビでチラッと見たオーストラリアABCのニュースの画像で、確かにバンコクの騒乱の映像が流れていました。かなり暴れていました。警察などの関係者があまり映っていなくて、デモ隊同士で揉めているように見えました。でもばたばたしていて殆ど声を聞いてませんでしたが、会場に着くと・・・
「首相府で揉めて、とりあえず一人死んだらしく、数十人が負傷したらしい」
やばい!軍や警察が動いたのか? しばらくすると、首相が非常事態宣言をしたとの話が流れてきました。ただ、全市ではなく、首相府、王宮など一部の政府系の建物の周辺限定とのこと。戒厳令でもない。日本大使館からは「政府関係の建物に近づかないこと、およびパスポートを常時携帯するように」との指示が来ました。全市に飛び火する状況ではなさそうなのですが、用心するに越したことはありません。新しい情報が入るたびに現地の関係者に順次展開します。
ただ、そのころ、現地で頼んだディレクターと話をしているうち、面白い情報が入り始めました。曰く、
- デモ隊自体は実はアルバイト的な形で動員されていて、デモ全体を組織させている政治家がスポンサーになっていること。
- バンコク市民が同調する雰囲気はまったく感じられないこと。
- 軍隊や警察は遠巻きにしているだけで直接関与する形ではなさそうだということ・・・ などなど。
また、彼のルート、そしてほかの日本企業も含めた出展者のルートで情報が集まり始めました。また、展示会場を含めITUをはじめとした国連の要人が山のようにいる状態です。
「基本的には大丈夫なんだろうな」
情報が集まり始めると、判断する幅が広がってきます。
でもゼネストの話が入ったときには焦りました。
そうこうしているうちに、空港が閉鎖になるかもしれないという噂が会場の(日本以外の出展者も含めた)中で飛び交い始めました。空港が閉鎖となると、考えられるのは労働者系のストライキか軍もしくは警察によるロックアウトです。でも、軍や警察が動く気配は無い。ならばストライキか?
「この国のストライキって、一回おきてしまうと数日続くんですよ」
ディレクター氏の話から、ちょっと焦りました。ゼネストといわれても、情報が入った時点で詳しいことは何もわかりません。公共交通機関や電気・ガス・水道が止まってしまうと、展示会どころではありません。ホテルの部屋で篭城です。でも自家発電が動くのか、食料は大丈夫なのか?まったくわかりません。でもわからないなりに対策を講じないと。何しろここは海外です。ディレクター氏と現地に同行した広告代理店の営業さんを呼んで・・・
「事態の確認は続けるけれど、最悪の場合水と食料の確保をお願いするかもしれません」
私の担当するブースの関係者はほぼ全員同じホテルの同じフロアです。一応場を仕切っている立場としては何とかしなくてはというキモチ。隣のJapan Pavilion関係者にも情報を展開し、大使館やほかの国のブースなども含めて情報が頻繁に行き交います。そのうちガセネタや単なる噂もずいぶんと流れていましたが、なんとなく全体像がつかめてきました。軍や警察ではなく労働者系のストライキ。同調しているかどうかは不明。でも、最低限空港は大丈夫な可能性がある。でも、わかりません。どうなるんだ?
先行して帰国する方からのメール 「空港は動いてます」
9月2日の夜帰国するスタッフが空港についてメールを送ってきました。今のところ大丈夫。そのうち日本の広告代理店経由で旅行代理店からの情報が来ました。シンガポールと韓国がタイへの渡航規制をかけたとのこと。ただ日本の外務省はスタンスを変えていません。こちらの状況は大体つかめていましたが、そんな報道をうけて国外で過敏に反応している部分があるんだよなと思い始めました。
一応心配すると困ると思って、自宅、および会社には定期連絡を入れていました。またブース関係者にも適宜情報を展開していましたが、各社様の日本の本社からそれぞれの方には結構緊迫した問い合わせが入っており、中には早く帰国しろとの話まで出ていたようです。でも、現地は思いのほか平静。一部地域では揉め事が起きています。でも、基本的には普通のまま。さすがに非常事態宣言翌日の9月3日には一部の学校が休校になったり企業が臨時休業したりして普段より渋滞しなかったりしましたが、基本的には平静です。
いろいろな噂が相変わらず飛び交いましたが
途中で帰国する人から空港の状況が逐一入りますし、市中の状況もいろんなルートから入ってくる。特にやばい噂もなくなってきました。何とか最終日まで行けそうです。ただ、さすがに書く出展者が動揺しているのを主催のITUとタイ政府も静観できなくなり、9月3日の夜には関係者のホテルの部屋に文書が配布されていました。
曰く、現在の社会情勢についてITUおよびタイ政府とで検討した結果、イベントの遂行にはなんら影響は無いと判断した。よってもって、このまますべてのプログラムを予定通り実施します、とのこと。
まぁとにかく、ある意味で国の威信をかけたイベントです。国連の関係者を山のように迎えてのイベントの間に揉め事を大きくする意思は無いであろう=軍や警察を動員することは無いだろうという判断をしました。そして、結果的には何事も無く終了しました。
デモ隊の氏素性がわかって安心したこと
タイ国内の報道、および海外の報道機関が流すテレビの映像にもあったのですが、実はデモ隊は定期的にバスで連れてこられて自由に場所に出入りし、ステージが設営されて関係者が演説をし、三食の炊き出しがあり、テントを立ててどこかから電気を引いてテレビを見ていたり、トイレを山のように積んだトレーラーが現地に入っていたりと、なんだかサマーフェスティバルの様相を呈しているように見えました。政治的思想は相反しているけれど、目先の利害は一致している複数の団体で構成されているようで、その間での小競り合いはちょくちょくあるとか、いろんな情報が集まっていました。実は動員されている人に支払っている金額まで大体わかってくるアタリからは、とりあえず首相府などの付近に行かなければ大丈夫だということがほぼ確信できていました。
もちろん情勢は動くわけですが
あまり全部をかけませんが、情報をいかに集めるか、そこからナニが事実で、ナニが本質で、誰が何をしようとしているか、私はそこでナニをするべきなのかといったことを結構真剣に考えたのは事実です。
イベントを担当する場合、もちろんいろんなことがおきます。いろんな事態に遭遇します。でも、さすがに今回は今までとはまったく異なる経験をしたのは間違いありません。いや、本当に勉強になりました。
ちなみにオチとまでは行きませんが、実は9月2日から港湾関係がストに入っていて、日本に船便で戻す予定の荷物がいつタイを出るのかが良くわかっていません。急ぎの荷物は急遽別ルートを手配しましたが・・・ さてさて
とうことで、無事予定通り9月7日早朝、帰国しました。
ちなみに、これからバンコクに行かれる方について、ここまでの私のエントリーはあくまでも私の置かれた状況と収集できる情報に基づいた内容ですので、(バンコクに限りませんが)ご自身できちんと情報を収集し、分析し、ご自身で判断されることを強くお勧めします。